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第7回 どのような人材を採用して経理体制を構築すればよいか(中編:最新の経理を取り巻く状況を皆がアップデートした上で組織作りに着手する)

社長と経理が共有すべき経理とお金のキホン

公開日:2024/08/27

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社長が「週5日フルタイム出社」のこだわりを捨てればいくらでも優秀な経理人材はいる

前編では、経理社員の実務レベルについてお伝えしましたが、中編では「経理専属の業務でフルタイム出社の正社員」という採用条件の固定観念を取り外すことで多様な人材を経理体制の構築に引き込む方法についてお伝えしていきます。

ある社長が「あまり経理にお金をかけたくない」とおっしゃるので、「それでしたら週3日だけ出社とか、午前中だけ出社とか、リモートとか、そのような条件でしたら優秀な経理人材はたくさんいますよ」と言うと、「いやいや、やっぱり経理は何かあった時にいてくれないと困るからフルタイムで毎日出社してくれる人じゃないと」とおっしゃいました。そこで私が「何かあった時って、たとえばどんな時ですか」と尋ねると、その答えが出てきません。つまり、具体的なことが何かあるわけではなく、社長の気持ちの問題ということです。

一昔前であれば、確かに会社で購読している新聞代の集金など、現金扱いのものもある程度ありましたので経理社員が常時いたほうが良かったですが、今やほとんどのものが口座引落や振込など、キャッシュレス対応が可能です。そして社員の経費精算や仮払ですらも振込で行う会社も増え、仮にそれらを現金で受け渡しするにしても、「月・水・金の経理社員が在席しているときにお渡しします」というルールなどを作り、その時間に経理社員が出社していれば対応できますので、週5日フルタイム出社の経理社員が金庫の前に必ず張り付いていなければいけない、という必要性は実質的にない時代です。社長が経理に求める緊急の現金の要件といえば結婚式などのご祝儀で新券が必要な時などでしょうが、それもデキる経理は社長や秘書からご祝儀の目安を伺っておいて、その分の新券だけは常時金庫の決めたところにしまっておき、緊急の場合は社長自ら金庫の鍵を開けて持っていってください、後日チェックさせていただきます、というようにしてあるでしょう。秘書がいる会社であれば、私の場合は秘書の人と連携して社長のお金まわりのそのような緊急案件の有無を確認して、事前に備えていました。

経理というのは、どれだけ皆が見えていないところで気遣いや準備ができているかのほうが重要で、フルタイム出社でなくても工夫次第でそれらの対応も可能なのですが、社長は社長で「経理頑張っているな、現場頑張っているな、皆仲良くやっているな」と、目視で確認して安心されたいのだと思いますし、そのお気持ちも理解できます。

ただ実際には、人手不足の今の時代で週5日フルタイム出社が条件で経理経験者というのは、募集をかけてもなかなか集まらなくなってきています。そのため、子育てや介護、遠隔地など、諸条件で週5日フルタイムはできないけれど、経理経験もやる気もある方を採用するという選択肢も視野に入れていただくことも良いと思います。

総務人事ができる経理社員

実は経理社員には、前述した業務レベルとはまた別の区分けで3種類の人がいます。

  1. 経理業務だけができる人
  2. 経理業務以外にも入退社手続きや給与計算などの総務人事業務ができる人
  3. 全てにおいて何でもできてしまう人

私自身のキャリア形成は、初めは経理部に配属されて経理業務だけを行っていましたが、その後小規模な会社に転職をした時に、経理以外のバックヤードの業務(総務人事業務・秘書業務)を一通り覚えました。たとえば入退社の手続きは総務人事業務だということはイメージがつくと思いますが、給与計算も経理業務ではなく総務人事業務にあたります。私も自分で給与の計算方法を調べて習得しましたが、もし社内で給与計算処理が誰もできない場合は、税理士ではなく社会保険労務士に外注をすることになります。特にスタートアップ企業や小規模の会社の場合、経理専属というより、バックヤード全体の作業ができ、それらの業務を一任できる人が一人いると非常に重宝しますので、総務と経理、両方の実務経験がある方が応募してきた場合は、両方の業務をやっていただく分、年俸を上積みして入社していただいても、総務と経理、それぞれ一人ずつ採用するよりは費用対効果は高いと思います。

起業した場合、最初の経理体制は「社長兼経理」or「秘書兼経理」+税理士でもいい

社内で出世をして社長になる人、ヘッドハンティングなどスカウトをされて外部から社長として招聘される人などとは違い、学生起業、社会人起業など、1から起業する場合、経理に限らず事務処理の体制作りをどのようにしたら良いのか迷うと思います。

私がお勧めするのは、最初は自分で社会保険労務士(入退社の手続きや給与計算などの代行依頼ができます)と、税理士(会計データの入力や決算書の作成、申告などの代行依頼ができます)をインターネットなどで探して契約し、それぞれの先生方とやりとりをしながら対応をし、忙しくなってきたら社員を一人雇い、秘書兼事務という形で、その社員に総務経理のやりとりを引き継いでいく、というやり方です。または、最初から秘書兼総務経理担当という形で一人採用をして業務を任せて、都度報告してもらう形をとるのも良いと思います。

よくあるケースとして、周囲に「誰か良い先生は知りませんか」と尋ねて税理士の先生などを紹介してもらうという方も多いですが、もしその先生と相性が合わなかったときに、紹介された手前、変えたくても変えづらいということが紹介の場合起きますので、その点は注意が必要です。そのほかには、オフィスの町内に構えている税理士事務所などを覗いて探すのも、いざと言う時にすぐ直接聞きに行けたり、直接来てもらえたりできますので良いと思います。

このように、今の時代は、昔の「全て紙、全てアナログ時代」ではなくなったこともあり、経理社員が「経理業務専属、フルタイム出社、正社員」である必要性が、実はかなり前からありません。私も独立した2011年から「フリーランスの経理総務」として生活できていたのが何よりの証拠です。社長に限らず、誰でも「若い頃の常識」がアップデートされないまま、今でもその価値観で行動指針を決めてしまっている人が実はものすごくいらっしゃいます。経理担当者が、社長に定期的に経理環境の最新状況をお伝えし、社長の経理に関する知識や価値観を「最新の状態」にしていただくことで、より柔軟な経理人材の採用獲得についても了承していただきやすくなり、理想の経理体制の構築に近づいていきます。後編では、税理士と経理社員の役割の違いについてお伝えします。

この記事の執筆者
前田 康二郎
前田 康二郎(まえだ こうじろう)

流創株式会社代表取締役
エイベックスなど数社で管理業務全般に従事し、サニーサイドアップでは経理部長として株式上場を達成。その後中国・深センでの駐在業務の後、独立。現在は利益改善、コンプライアンス改善、社風改善の社員研修、コンサルティング、講演、執筆活動などを行っている。著書に『メンターになる人、老害になる人。』(クロスメディア・パブリッシング)、『社長になる人のための経理とお金のキホン』(日経BP 日本経済新聞出版)、他多数。