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社長と経理が共有すべき経理とお金のキホン第6回 どのような人材を採用して経理体制を構築すればよいか(前編:経理社員の実務レベル)

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「受け身」ではなく「意志」のある経理体制を

会社によっては、経理体制が「受け身の姿勢」によって構築されているケースがあります。会社の規模が拡大していくにつれて「仕方なく」事務員を雇い、その事務員から「自分だけではこれ以上の業務はこなせません」という要望を受け「仕方なく」経理を取りまとめてくれる人材を探して採用し、その経理責任者から「もっと人を増やさないと業務がまわりません」と言われて「仕方なく」増員の許可を出し、「仕方なく」ITを導入する。本来は社長自らが「私はこのような経営をしたいので、このような経理体制を作り、経理社員は参謀として私をサポートして欲しい」と主体性を持ち、経理部門の構築に関わっていただいたほうが、経営にもプラスになります。しかし、多くの会社の社長様は現場出身の方が多いため、そもそも経理社員によってどのようなレベルの違いがあるのかもご存じない方もいらっしゃいます。また、経理社員と税理士では役割がどのように違うのかもご存じない方もいらっしゃいます。これらがわからない前提では社長の理想とする経理体制を構築することはできません。社長ご自身が理想とする経理体制を構築するためにはどのような経理人材を採用し、経理体制を構築していけばよいか、そのコツを前編・中編・後編に分けてお伝えします。今回の前編では経理社員の実務レベルについてお伝えします。

経理担当者の実務レベルを知る

経理担当者にはそれぞれ実務レベルの段階があります。社長がこれをご存知でないと、今の会社の規模や状況ではどれくらいのレベルの経理社員が何人必要なのかということすら本来わからないはずです。もしわからないまま人員配置をしていたとしたら、必要最低限の人員すら揃えておらず経理社員が疲弊し、それに伴い経理体制も脆弱になっていることもあります。そうならないために、まず経理担当者の実務レベルを確認していきましょう。採用面談の際に応募者の職務経歴書を見ても実務レベルがよく認識できないという場合は、次のステップ1からステップ3のどのレベルですか、と応募者に確認をしても良いでしょう。

(経理担当者の実務レベル)

ステップ1:振込・納付処理などは行えるが簿記の知識はなく、会計ソフトに仕訳データは入力できない。(領収書や請求書、通帳の入出金明細など税理士から依頼された資料を一式とりまとめて税理士に送り、税理士が仕訳データを入力する体制)

ステップ2:簿記の知識を有し、ステップ1の業務に加え、会計ソフトに日常的な取引の仕訳データが入力できる(月次決算のチェックなど全体の統括はまだできない)

ステップ3:ステップ1,ステップ2の社員の作業や月次決算のチェック、確定まででき、部門全体を統括できる

この3つの段階について一つずつ見ていきましょう。

<ステップ1>
どのような会社にも、日々の振込・納付など、お金に関する処理をしてくれる人が最低一人は必要です。そのような処理だけでしたら簿記の知識がなくてもできますので、経理未経験の人でも行うことができます。起業したばかりの会社や社員数が少ない会社などは、経理専属の正社員を雇うことができないケースもありますので、そのような場合は、他の業務を行いながら経理処理担当も兼任してくれる社員を雇い、会計ソフトのデータ入力は税理士が行うケースが多いです。その際に、経理担当者は領収書や請求書、通帳の入出金明細のコピーやデータなどをとりまとめて税理士に送ります。

<ステップ2>
管理職でない一般的な経理実務経験者のレベルはここに該当する方が多いと思います。ステップ1の処理はもちろんのこと、簿記の知識を有しているので領収書や請求書、通帳の明細を見ながら会計ソフトに仕訳データを自力で入力することができるレベルです。税理士の立場からすると、ステップ1の担当者の場合、簿記の知識がないので、業務の会話をしたり欲しい資料があるときもスムーズにやりとりできなかったりするケースがありますが、ステップ2のレベルの担当者の場合は、その点は問題なく税理士とコミュニケーションがとれます。上場を目指さない会社であっても、全体の社員数が30人規模になってきたら、最低一人はこのようなレベルの経理社員がいたほうが、逆に現場担当者は事務処理でわからないことがってもすぐ相談できる社員が社内にいることで、現場作業に集中できるようになり、売上や利益の数字は上がると思います。

<ステップ3>
月次決算のチェックや確定が一人で行える管理職レベルの担当者です。このレベルになると、年俸もある程度必要になる人材となります。未上場の会社でも、50人以上の社員数であれば、このレベルの社員が一人はいたほうが良いと思います。また、IPOを目指す企業であれば、社員数に関係なく、早期にこのレベルの社員を探して採用し、社内の整備をお願いしていただくのが良いと思います。

このように、同じ経理社員といってもスキルレベルが大きく変わります。経理体制は、会社の置かれている状況により、どのレベルの社員をそれぞれ何人配置するか、という基準をベースに、随時対応して決めていくと良いと思います。たとえば30人程度の規模で、今後もしばらくは未上場で経営をしていくということであれば、ステップ3の社員は置かず、ステップ2の社員+税理士という体制でも問題ないかと思いますが、成長拡大を前提としている場合はステップ3のレベルの社員を早期に採用をし、社長とその方とで認識を合わせ、経理部門の体制作りを任せるのも良いと思います。とはいえ、会社の予算も限られており、また昨今の人手不足で、会社が求める経理社員もそう簡単には採用できない時代になりました。そこで次回の中編では、「経理専属の業務でフルタイム出社の正社員」という採用条件を取り外すことで多様な人材を経理業務に引き込む方法についてお伝えしていきます。

筆者プロフィール

前田 康二郎(まえだ こうじろう)

流創株式会社代表取締役。エイベックスなど数社で管理業務全般に従事し、サニーサイドアップでは経理部長として株式上場を達成。その後中国・深センでの駐在業務の後、独立。現在は利益改善、コンプライアンス改善、社風改善の社員研修、コンサルティング、講演、執筆活動などを行っている。著書に『メンターになる人、老害になる人。』(クロスメディア・パブリッシング)、『社長になる人のための経理とお金のキホン』(日経BP 日本経済新聞出版)、他多数。

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