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第4回 一般社員が見る数字と、社長や経理が見る数字の視座の違い

社長と経理が共有すべき経理とお金のキホン

公開日:2024/05/28

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経理の当たり前は他部署の当たり前ではない

私は学校を卒業して社会人になってからずっと経理業務をしてきました。そのため、売上や費用の全てを閲覧できるのがずっと「当たり前」の環境にいました。でもそれが当たり前ではないのだということに気付いたのは、自分が脱サラをして、いろいろな会社の社長と一緒に仕事をさせて頂くようになってからです。

私と同じように会社員から脱サラした社長さんの多くは、営業など「経理以外」の出身者がほとんどです。社長さんたちに「会社員時代に会社の数字を見せてもらっていましたか」と尋ねると、「全体の数字なんて君は見なくていいから自分の売上数字だけ見ていなさいと言われていた」「数字を見せてください、と言っても売上と粗利までは見せてくれたけどそこから先は役員報酬がバレたくなかったのか見せてくれなかった」「見せてくれて解説もしてもらったけれど、正直自分の数字にしか興味がなかった」「上場企業だから開示されていたけれど、あまりに数字の桁が大きすぎてピンとこなかった」など、さまざまです。実際、周囲の営業の会社員の人達に尋ねても「やっぱり自分の売上、自分の部署の売上、そして自分の給与やインセンティブなど、自分の身の回りの数字が最初に気になる」という人が多いようです。

「社員は自分の給与が売上、社長は会社の売上が売上」

ただ、実際に社長になれば、そのような一部分的な見方ではなく、「会社全体の数字」を見て、経営判断をしていく習慣を身に着けていただくことが必要になります。さしずめ会社員時代は「自分の給与が自分にとっての売上」という考えでも許されたものが、社長になれば「会社の会計上の売上がまさしく自分(社長)にとっての売上」になるわけです。経理出身者であればそれは当たり前のことですが、経理出身でない社長は、それまでの「会社全体の数字を見る習慣がなくても、自分の仕事はやってこられた」習慣のほうが強く根付いています。そのため、経理部門や経理担当者が意識的に月次資料など経理資料を社長に日常的に見ていただく環境作りをし、勘や経験だけでなく、経理資料も参考にして経営判断をしていただく習慣付けが根付くよう、社長をサポートしていただきたいと思います。

たとえば売上や原価に関しては、多くの社長さんは会社員時代にも常時把握していらっしゃったでしょうから、特に経理から社長にお伝えすることはないと思います。問題は販管費です。販管費に関しては、「そんなことくらいわかっているよ」という感覚でいらっしゃる方が多いですが、実際には後から「え?先月こんなに販管費かかったの?一体何にそんなにお金がかかっているの?」と、慌てられている光景をよく目にします。そして慌てた先には「バックヤードの人件費や経費を減らそう」などという最悪の手段を使おうとしてしまいます。経理社員の皆様は、そのようなことにならないように、売上に連動して発生する販管費はこのような項目、売上に関係なく固定で発生する販管費は毎月いくらくらい、など、普段から社長がパッと頭で直感的にイメージしやすいよう、お伝えしておくと良いと思います。

視座を上げないと、偏りのある独裁的なお金の使い方をしてしまう恐れがある

そして社員の視座から社長の視座へと上げて会社の数字を見て頂く必要がある理由として、そのようにしていないと、バランスの悪いお金の使い方を社長さんがしてしまうからです。たとえば営業部門出身の社長さんが社長になってもなお営業部長の感覚で数字を見たり、お金を使っていたりしたら、営業部門には甘いお金の使い方をし、それ以外の部門には少ない予算しか与えない、といったような偏ったお金の使い方をしてしまうことが多いです。

典型的な例として、会社全体の数字が厳しい時に、売上が毎月0円、あるいは自分の給与額もクリアできない営業社員が何人もいるのに、その社員の待遇や処遇には手をつけず、毎日問題なく仕事をこなしているバックヤードの人件費を削って利益を改善しようとする社長さんがいらっしゃいます。実際にそのようなことをしたら、バックヤードの社員は営業社員の事務サポートをしているケースも多いので、そのサポートしてくれた社員がいなくなることで逆に営業社員が全て自分で契約書や請求書、きちんと入金されたかなども確認しなければならなくなり、トップセールスの営業社員ほど、契約数も多いですから、それらの事務作業に忙殺されます。優秀な営業社員ほど余計な負担やストレスが増えてしまうのです。その結果、トップセールスの社員が動きにくくなり売上が下がったり、営業だけに専念できる環境の良い職場へ転職したりしてしまうこともあります。ですが、社長の心理としては「たとえ先月売上0円の営業社員でも、営業社員がいなくなってしまったら売上が上がる可能性もなくなる」と、バックヤードの予算を削ってでもさらに営業社員を雇おうとしてしまいます。非常にバランスの悪い、恣意的、独裁的なお金の使い方に走ってしまいます。

そしてその営業社員を人材紹介会社経由で採用した場合、年収400万円で紹介手数料が30%だとしたら採用しただけで120万円の販管費が発生します。その瞬間は「そうか。でもしょうがない」となるのですが、経理が月次決算を締めて社長に報告すると「え、何でこんなに先月は販管費が膨らんでるの?」となり、経理担当者が「先月は営業社員を急遽2名採用しましたので120万円×2名で240万円販管費として計上しています」と報告して「ああ、そうか…」と事の大きさを、お金を使ってしまってからわかる、という状態に陥ります。

経理担当者と一緒に数字を読む機会を増やせば自然と社長の数字を読む視座は上がる

社員時代は、自分の身の回り、自分の部署に関連したお金に関して理解していればそれでもよかったのですが、社長になれば常に「会社全体」のお金について把握していなければすぐに経営が立ちいかなくなります。幸い経理社員は、数字の見方に関しては社長の視座、つまり会社全体の数字を見ることが習慣づいています。経理社員の数字の見方を社長に習慣付けていただく、つまり統一していただくだけで、社長は社長が見るべき視座の高い数字の見方が自然にできるようになります。そのために社長と経理社員が「一緒に」会社の数字を見る必要性があるのです。

この記事の執筆者
前田 康二郎
前田 康二郎(まえだ こうじろう)

流創株式会社代表取締役
エイベックスなど数社で管理業務全般に従事し、サニーサイドアップでは経理部長として株式上場を達成。その後中国・深センでの駐在業務の後、独立。現在は利益改善、コンプライアンス改善、社風改善の社員研修、コンサルティング、講演、執筆活動などを行っている。著書に『メンターになる人、老害になる人。』(クロスメディア・パブリッシング)、『社長になる人のための経理とお金のキホン』(日経BP 日本経済新聞出版)、他多数。