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社長と経理が共有すべき経理とお金のキホン第3回 経理を知らずに社長になるのは地図を持たずに入山するのと同じ

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経理は登山における地図と同じ役割

社長が経理について知っておいたほうがいい理由をお伝えする際に、私はよく登山に例えます。会社経営と経理の関係性は、高い目標(山頂)に向かって邁進する社長(隊長)が今、自分達はどの地点にいるのかを確認する資料(地図)、その資料こそが会社経営においては経理資料だと思います。つまり、経理を知らずに社長になるのは、地図を持たずにメンバーを伴って入山する隊長と同じということです。そのような隊長に自分の命を預けてノコノコとついていくメンバーがいるでしょうか。登山初心者ほど「そんなものなのかな」とついていってしまうかもしれませんが、登山をよく知っている人ほど「遠慮します」となることでしょう。

会社経営というのは、ただ経営していればいいということではなく、さまざまな方達への「責任」が生じます。顧客・取引先・社員や社員の家族…。こうした方達が一番困るのは「会社が潰れること」です。会社が潰れてしまえば、顧客はサービスや保障を受けられなくなります。取引先は資金繰りが悪化します。社員や社員の家族は路頭に迷います。こうならないよう「会社を潰さない」ことは、社長の最も重要な使命の一つです。

では会社を潰してしまう、潰しかけてしまう社長にはどのような特徴があるでしょうか。その特徴のとして「自分の勘と経験のみ」で経営をしている社長が挙げられます。

経理に関心の薄い社長の特徴

多くの社長さんが経理に興味関心が薄いのには二つの理由があります。まず一つに、社長になる人の多くが「現場出身の社長」が多いこと、そして二つ目が「自分は数字がわかる」と思っている方が多いからです。この二つを足せば「自分の現場の勘と経験さえあれば、経理資料など見なくてもある程度の経営の数字はわかる」ということになるわけです。実際に、社長になる人のほとんどが、「勘と経験だけ」で、先月の売上はどれくらいだったか、利益や損失はどれくらいだったかということはパッパッと頭の中で暗算すればわかることでしょう。そういう人だからこそ社長になれるわけです。しかし、問題はここからです。「その社長の素晴らしい勘とご経験は、24時間365日、何年、何十年にもわたって、「一度も」外れることは本当にないのでしょうか?」ということです。経理社員の皆さんで、今まで仕事で「一度も」計算ミスや勘違いのミスをしたことのない人はいるでしょうか。「私は今まで一度もミスをしたことがありません」という人がいたら、私はその人自体が一番信用ならない人だと思います。もしくは、自分がミスをしたことにすら気づけない実務レベルの人だと思います。普通に考えればそのような人は「一人も」いないのです。どれだけ優秀な人でも、シングルチェック、シングル判断をしていれば、間違えることはしばしばあるのです。だからどのような職種、業務でも、本当に重要なものは何人も、何回もチェックを重ねるわけです。経理における「ダブルチェック」がなぜ重要なのかは経理の皆さんならご存知の通りです。もし間違った数字資料を社長に渡してしまい、それを基にして社長が経営判断をしてしまったら大変なことになるからです。

経営も全く同じです。どれだけ優秀な社長であっても「一人の人間」です。別の考え事をしていたり、プライベートで悩みがあったりしたときに、ふと記憶違いや勘違いをしてしまうことがあるかもしれません。それだけではなく、現場社員が社長に報告すべきことをしていなかった場合、「勘と経験」でそれを見抜ければいいですが、社員がたくさんいたら超能力者でない限りそれも無理でしょう。社長の勘と経験で出された数字は、「だいたい」は合ってはいるでしょうが、それだけでは足りません。いかなるときも社長の経営判断は「100%」常に合っていなければいけないからです。そのためにどうしたらいいのか。そこで月次決算などの経理資料が登場するわけです。

社長の勘や経験が「100%」「完璧に」正しいのかを確認するために経理資料は存在する

社長が知っていること、知らないことも含めた全ての請求書や領収書などの帳票を集計した月次決算を経理に作成してもらい、社長に提出、解説してもらうことで、社長は「自分の勘と経験」と付け合わせをします。これが社長にとっての正しい月次決算の活用の仕方だと私は思います。そこで自分の勘や経験と月次決算との数値がほぼ合致していれば、「自分の勘や経験も正しいし、社内も内部統制がとれている」と判断ができます。そしてその数字結果をもとに、次の経営判断が行えます。月次決算が早く正確に作成できればその分経営判断も早くできるということです。

そこでもし、月次決算の数字と社長が自分でイメージした数字と違っていたら、その差は何かということを経理と確認することで、自分の勘と経験、あるいは内部統制、そのどちらかずれていたほうを微調整することができます。

繰り返しになりますが、私達人間というのは、ちょっとしたことでもすぐ勘違いや間違いをしてしまう生き物です。以前行ったことのある美味しいレストランにまた行こうとして「あれ、この辺だったはずだけどなあ…」と思ってスマートフォンで地図を調べたら一本通りを間違えていたなんてこともあるでしょう。お店の場所を間違えるくらいだったら大したことはありませんが、経営判断を同じように1回でも間違えたらそこから転落の一途をたどることなど、ざらにあるのが経営の現実なのです。

経営は登山と同じで、たった一度のミスが取り返しのつかない大惨事につながります。だから社長は「自分の勘や経験」のダブルチェックとして経理を知っておく必要があるのです。登山に使う地図が、いつ更新したかわからないような地図だったり、いい加減な地図だったりしたらダブルチェックとしての機能を果たすことはできません。信用のできる人が作った地図、最新の地図でなければいけません。経理においても、信用に足りる経理資料を作れる経理人材の採用や育成、最新の経理資料が作成できるソフトウェアの導入、早期に月次決算ができる体制作り、仕組み作りが必要となります。

山の達人ほど重装備。経営の達人ほど重装備

潰れない会社は、皆、バックヤードを重装備しています。バックヤードが軽装備の会社は、普段は調子が良くても急激な環境悪化に対応できないのです。だから軽装備の会社は消えていきます。急激な経営環境の変化に耐え抜き生き続けるためにも、経理の本質や役割を社長が知っておくことは重要です。

筆者プロフィール

前田 康二郎(まえだ こうじろう)

流創株式会社代表取締役。エイベックスなど数社で管理業務全般に従事し、サニーサイドアップでは経理部長として株式上場を達成。その後中国・深センでの駐在業務の後、独立。現在は利益改善、コンプライアンス改善、社風改善の社員研修、コンサルティング、講演、執筆活動などを行っている。著書に『メンターになる人、老害になる人。』(クロスメディア・パブリッシング)、『社長になる人のための経理とお金のキホン』(日経BP 日本経済新聞出版)、他多数。

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