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数字の良い会社には「敬意」がある非財務情報を経理視点で読み解く第11回 敬意のある会社は社員教育を重視している

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インボイス制度の書面に出る敬意の有無

経理の皆さんの中にもインボイス制度の登録状況などを確認する書面を作成して送付したり、または反対に受け取ったりした人も多いことでしょう。中には「ん?」と思う文面もあったかもしれません。

あるフリーランスの知人のところにも、今年さまざまな取引先からインボイス制度に関する通知書や通知メールが届いたそうです。その中に「インボイス未登録の場合は、今後お取引内容やお取引そのものの見直しを検討させていただく可能性があります」と書いてあった会社があったそうです。

その会社というのは、知人の知り合いが起業した会社で、起業したてのお金のない時代から、社長から直接お願いをされて「安く」仕事をしてあげていたところだったそうです。他の会社は純粋にインボイスの登録状況の確認依頼だけで、今後の取引についてはまだ特に言及していなかったので、知人は余計に強烈な文面に覚えて、思わず直接社長に「こんな文面の通知書が来ているんですけど」と、電話をしてしまったそうです。すると社長が平身低頭で「大変失礼な通知書をお送りしてすみませんでした。インボイス制度の文面くらい担当者に任せておけばいいと思ったのが間違いでした」と謝罪されたそうです。

業務としては間違っていなくても、それがビジネスとして正しい対応かは別の話

詳細を聞くと、転職してきたばかりの社員が、会社のメリットになると思い良かれと思ってこのような文面を書いたとのことでした。確かにこの文面自体は暴言を吐いているわけでもないですし、事実でないことを書いているわけでもありません。ただ「敬意」がない文面だったかもしれません。

そもそも取引先によって、どのような経緯で取引が始まったのかはまちまちでしょうから、ひょっとしたら前述のように社長や現場担当者が社内のリソースでは対応できない作業を血眼になって探した発注先も中にはあるかもしれません。そのような発注先がこのような文面を受け取ったらどう思うでしょうか。「担当者はすごく親切だけど、会社そのものは随分不遜な会社だな」「以前は社長自ら敬意のある接し方で仕事を依頼してくださったけれど、やっぱり会社が大きくなると、人は変わるんだな」などと直感的に思うことでしょう。

確かに、税務の面でも、経理処理的な面でも、発注先の全てがインボイス制度に登録しておいてくれたほうが管理しやすいのは事実です。ただし、ビジネスというのはそれだけでは推し量れないところがあります。前述したように、社内のリソースで対応できないものを発注先に依頼しているものもあるかもしれませんし、社内で作業をするより「安いし質が良いから」発注しているものもあるかもしれません。

「業務」も大事だが「ビジネス」「経営」について社員教育ができているか

仮にそのようなものが含まれている場合、たとえば会社が「今後、既存の取引先は仕方ないにしても新規の取引先についてはインボイスに登録している会社や個人にしか発注しないでください」という指示を出すと、インボイスに登録する会社や個人は、23万円くらいの仕事は請け負わないケースも多いでしょうから、発注先の選定そのものに今後、発注担当者が苦労することが予想されます。「良い発注先候補が見つかったけれど、その人はインボイスに登録していないから発注ができない。仕方がないので大手の発注先に見積依頼したらこれまで3万円で発注できていたものが10万円の見積もりが出てきた」という、逆にお金がかかってしまうこともあるでしょう。また、それはもったいないので内製化しよう、ということになったとしても、結局社内も人手不足で対応できない。どうしようか…ということもこれから増えるでしょう。

これらをどのようにバランスをとって経営をしていくかは経営者の判断にゆだねられるとことですが、いずれの選択をするにしても、経営者の経営方針やその意図を正しく社員に伝えておかないと、この事例のように、やっていること自体は間違ってはいなくても、外部から敬意のない非礼な対応と思われる行動を社員がしてしまう可能性があります。ましてや普段から友好的に仕事をしている相手先ほど、そのギャップを大きく感じますので、「自分の仕事の都合」だけでなく「ビジネス全体」のことを考えられる社員を教育していく必要がありますし、敬意のある会社はそのように会社が教育しています。だから社内だけでなく社外の人達も協力、活躍してくれ、数字も伸びるわけです。

「敬意」をキーワードに社員教育をすれば、数字は良くなる

特に今の時代は昔と違って中途入社が多いので、前職できちんとした社員教育を受けないで転職してくる人もいます。そのような人が暴走をしてしまうと、社内外が混乱をきたしてそれが売上や利益にも影響を与えます。これまで以上に社員教育が重要になってくる時代だと思います。ただし、1から10まで、社員教育をしている時間も多くの会社では現実的にはないと思います。そこで使えるワードが「敬意」です。

「それは敬意のある対応?」「これは敬意のある文章?」など、「敬意」をキーワードにして社員に質問、指導などしていくと、行動も変わってくると思います。たとえば発注先が不利になる条件提示をこちらがしなければいけない場合、紋切り型で一方的に通知をするのは「敬意があるとはいえない」ので、個別に、担当者が事情を説明してお願いをするのが「敬意のある依頼、交渉の仕方」、という判断もできると思います。

社員一人ひとりの敬意の有無によって、その行動の仕方や周囲の受け止め方も変わり、それが売上や利益にも影響を及ぼすと私は思います。

筆者プロフィール

前田 康二郎(まえだ こうじろう)

流創株式会社代表取締役。エイベックスなど数社で管理業務全般に従事し、サニーサイドアップでは経理部長として株式上場を達成。その後中国・深センでの駐在業務の後、独立。現在は利益改善、コンプライアンス改善、社風改善の社員研修、コンサルティング、講演、執筆活動などを行っている。著書に『メンターになる人、老害になる人。』(クロスメディア・パブリッシング)、『社長になる人のための経理とお金のキホン』(日経BP 日本経済新聞出版)、他多数。

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