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数字の良い会社には「敬意」がある非財務情報を経理視点で読み解く第10回 敬意のある会社はすぐ謝ることで損失リスクを抑える

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謝れない人や会社が持っていないもの

皆さんの周りに「謝れない人」はいるでしょうか。きっといると思います。何人もいると思います。そしてふと思うことでしょう。「どうしてこの人、ただ謝れば済むことを謝れないのだろうか」と。

私の周りにも「謝れない人」がいるのでその人達を定点観測してみると、「謝れない人」のではなく、「謝らない」と本人は思っていることがわかります。つまり人を「(何かあったら)謝らなければいけない人」と、「(何かあっても)別に謝らなくてもいい人」に分別しているのです。だからものすごく目上の人だけにはこっそり謝り、自分より下だなと思っている人には「謝らない」ということです。

そのような人には、何がないのか。この連載を読んでくださっている人にはわかると思います。「敬意」がその人には備わっていないということです。敬意は「自分より下」と思っている人にも発動できます。部下に仕事で間違った情報を伝えてしまったら「さっき伝えた情報、自分の勘違いで間違ってた。ごめんね」と敬意を備えた人なら言えます。しかし敬意を備えていない人は部下に「あのさあ、さっき伝えた情報、間違ってた」で終わらせてしまいます。部下は「別に謝って欲しいわけじゃないけど、何か一言、ごめんとかあってもいいんじゃない…?」ともやもやした気持ちになります。日本の「ごめんなさい」は謝罪という意味より相手への敬意の意味合いが強いからだと思います。

よく日本と比較して海外では簡単に謝ってはいけない、というエピソードトークを見聞きしますが、それは敬意の有無とも関係がある気がします。海外には敬意という文化がありませんから、「謝る」という行為に謝る以外の意味が存在しないため、謝ったら負け、謝ったら賠償をしなければいけなくなる、という発想に直結するのだと思います。

日本人の中でも「謝らない人」というのは、敬意がないので外国人と同じような発想をしてしまうのではないでしょうか。

日本人の「謝る」は、コミュニケーションの「道具」

「敬意」から派生する「謝る」は、単に謝罪するだけではなく、今後も友好的な関係性を築いていきたい、という意思表示の意味も多分に含まれています。だから「喧嘩両成敗」という言葉があるように、たとえばAさんとBさんが大げんかをしてBさんに非があったとしても、Bさんが謝罪をした後にAさんがさらになじったとしたら周囲のギャラリーはこう思うはずです。「Aさんは器が小さい」「謝ってるんだから許してあげればいいのに」「やっぱりAさんはそういう人間性だから人ともめるんだ」「Aさんも自分こそごめんね、と一言言えばいいのにね」と。このように、海外では敬意の文化がないので、「謝ったら損」「謝ったら立場が危うくなる」という発想になるのでしょうが、日本では逆に「意固地になって謝らなかったばかりに損をする」ケースが多分に起こります。そしてこれらのような事例は職場でも日常的にあります。

たとえば、顧客がカスタマーセンターにクレームを入れた時に、カスタマー担当者が一切謝罪的なアクションを起こさず、淡々と機械的に事務手続きを話し出したら、顧客はもやもやした気持ちのままだったり、我慢していた怒りが爆発して怒り出したりする人もいることでしょう。しかし最初に「この度はお客様のお時間とお手間をとらせてしまい、大変申し訳ございませんでした」と、核心の部分ではなく、手間をとらせてしまったことについて謝ることで、顧客の側も少し冷静になります。それは「謝罪=誠意=敬意」と顧客は受けとるからです。最初は暴言口調だった顧客も、相手に対して敬意を発生させて「こっちこそさっきは怒鳴ったりして悪かったね」と、落ち着いて本題に入ることができます。

逆に、カスタマー担当者が何度も謝っているのに、客が「おたくの会社は絶対に許さない」などと執拗にカスタマーハラスメントをしていたら、それがSNSなどで拡散した暁には、一般の人達は「この顧客のほうが最低」などと、会社側の味方につくことが多いのは皆さんもおわかりだと思います。「この顧客は、まず人としての敬意というものがないのか」と敬意文化のある日本人なら思うからです。敬意というのは日本のビジネスの商習慣では大変根深いところを占めています。だから海外流のビジネスメソッドをかじった人が「謝ったら損だから」と日本の社会で謝らないことを貫こうとするとたちまち炎上し、不買運動なり抗議や嫌がらせの電話やメールが殺到して業務に支障をきたしてしまうことが起こり得るのです。

今年だけでもあまたの数の企業や著名人が早めに謝罪をしなかったせいで大炎上してきたのも記憶に新しいところです。その一方で、すぐに謝罪した人や会社の中には「よく考えたらかなりいけないことをしているよね」というものも、私たちはすっかりそれらの記憶を忘れてしまうのです。皆さんの記憶にある不正や不祥事も、「なかなか謝らなかった、認めなかった順」に記憶していると思います。会社としての日本国内でのビジネス対応は、まずトラブルが起こったら「トラブルが起きているという状況に対して謝罪」を一旦し、詳細に関してはわかり次第、速やかにご報告いたします、という流れが会社の損失を防ぎます。それをいつまで経っても社長や当事者が謝罪をしたがらないと、風評被害も含めて、取り返しのつかない損失を招く場合があります。

「謝れない人」は、実は「甘えん坊」

謝れない人を謝れるようにするには、「なぜ君が謝らなければいけないかというと」などと、説明をしても意味はありません。その人には周囲に対する敬意が不足していますので、「日頃から敬意を持って仕事をしていますか?」「具体的にはどういったシチュエーションで敬意を持った行動を最近しましたか?」「たとえばどのような行為が敬意のない行為だと思いますか?」「では、悪いことをしたら敬意のある人だったらどのような行動をとるでしょうね?」というように敬意について学んでいただくと、「謝罪=負けや損ではなく、謝罪=礼儀、誠意、敬意なのだ」と理解ができ、一言「ごめんなさい」という言葉が出てくるようになると思います。

そして実は例外的に良い意味で敬意が消失するケースがあります。それは家族や親友など、近しい人に対してです。家族や親友と一緒に食事をしていて「すみませんが、そこの醤油を取っていただけますか」とは言わないでしょう。「ちょっとそれとってくれる?」と、言うはずです。つまり人に謝れない人というのは、その人が相手のことを家族や親友のように「自分の理解者」だと思っていて、甘えている、甘えさせて欲しいと思っているともいえます。

皆さんの周囲の上司、部下、顧客、取引先など、「どうしてこの人は謝らないのかなあ」と、もやもやすることがあった時は「誰にも甘えられなくて私には心を開いて甘えているということなんだな」と思っていただければと思います。「いくつになっても甘えん坊」というお笑い芸人さんのギャグがありますが、自分が年齢を重ねるとこのギャグがより深く理解できます。若いころは「いい年をした人が甘えん坊だなんて…」と思っていましたが、人というのは年齢を重ねてもたいして性格は変わらないことがよくわかってきます。

ただ、ビジネスパーソンである以上は、部下に甘える、顧客に甘える、世間に甘えるようではいけませんし、そのような人は会社にリスクや損失をもたらします。すぐ謝って対処できる人こそリスク回避ができる人、会社の損失を最小限に食い止めることができる人であると思います。

筆者プロフィール

前田 康二郎(まえだ こうじろう)

流創株式会社代表取締役。エイベックスなど数社で管理業務全般に従事し、サニーサイドアップでは経理部長として株式上場を達成。その後中国・深センでの駐在業務の後、独立。現在は利益改善、コンプライアンス改善、社風改善の社員研修、コンサルティング、講演、執筆活動などを行っている。著書に『メンターになる人、老害になる人。』(クロスメディア・パブリッシング)、『社長になる人のための経理とお金のキホン』(日経BP 日本経済新聞出版)、他多数。

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