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数字の良い会社には「敬意」がある非財務情報を経理視点で読み解く第9回 敬意のある会社は余計な経費がかからない
敬意は「モノ」にも有効
昔から「モノを大切に扱いなさい」と、家や学校、そして職場で言われて育ってきた人も多いのではないでしょうか。これを私なりに解釈すると「モノにも敬意を払いなさい」という意味にもなるのではないかと思います。
敬意の特徴の一つに、「人間以外にも適用できる」という点があります。日本のスポーツ選手が、海外の試合会場で試合をする前後に、グラウンドやコート、会場などに一礼をするシーンが話題になることがあります。その光景を見た海外の人の中には、「なぜ人間ではないモノにまで、頭を下げるのだろう」と、不思議に思ったり、中には気味が悪いと思う人もいたりするかもしれません。しかし日本人は、それを見ても不思議には思いません。世の中のものを「人」か「モノ」かで区別せず、全てのものに対して同じようにふるまうという概念が他の国よりも深いのかもしれません。
ここに経理的観点を加えると、モノを大切にする会社は経費がかからないので利益が出やすい、ということが言えるのではないかと思っています。たとえば、次のようなたとえ話だとわかりやすいかもしれません。
自分で自分の首を絞める愚
以前、知人のマンションに遊びに行った時のことです。そのマンションは、外観も華やかで広いロビーや展望室などもあり、レンタサイクルやカーシェアリングなど、共用設備がとても充実していました。そこで、マンションのレンタサイクルを利用して出かけようということになり、駐輪場へと行きました。そこで驚きの光景を見ました。何十台とあるレンタサイクル用の電動自転車の多くが、「ベコベコ」と言っていいほど傷ついていたり、パーツが歪んでいたり、とても外観のマンションの豪華絢爛さとは似ても似つかぬものばかりでした。そのうちの数台は「故障中」と張り紙がしてあり、乗れない状態になっていました。その自転車達を見て、本当にかわいそうになってしまいました。どうやったらこんなにひどく乗れるのだろうか、このマンションに来なければ、この電動自転車達はもっと持ち主に大事にされただろうに、と思いました。きっと、このマンションの住人の人達は「この電動自転車は私物ではない、マンションの共用自転車だから、乱暴に扱っても別にいいだろう」と思っているのでしょう。思わず私は知人に、「ちょっと、ここのマンションの自転車の扱い方、ひどくない?」と言ってしまいました。すると知人も「そうなんだよ。もっとひどいのは、この間、ロビーの高価な家具に大きな落書きをした事件が起こったんだよ」と言っていました。監視カメラには落書きをしている人が映っていたそうですが、結局名乗り出ず「警察に届け出ます」というお知らせが掲示板に張ってあったそうです。
自分のお金で買った自転車や家具なら大切に扱うけれど、共用の自転車や家具だから粗雑に扱ってもいいと思っている人達がそのマンションにはいるのでしょう。しかし経理的視点でこれを鑑みたらとても滑稽なことがわかります。共用設備が故障したり汚されたりしたら、それはそのマンションの管理費、つまり、住人から集めたお金で買い変えたり修繕をします。結局は自分達のお金から出しているわけです。そのようなことを続ければ、さらに自分達が支払う月額の管理費が高くなり「維持費のかかるマンション」として、自分達がさらに苦しむだけなのです。
このたとえ話を聞けば、誰もが滑稽だと思うことでしょう。しかし、全く同じことが多くの職場でも起こっています。たとえば会社の備品を壊してしまったらすぐ総務人事部に名乗り出ればいいものを、壊れたままそっと元に戻して、次に急いで使おうとしていた人が使えなくて困ったりする。あるいは、備品を使ったら元の場所に戻すように何十回も言っているのに、誰かが持ち出してそのまま行方不明となり結局買い直したりする。皆さんも一度や二度は職場で経験があるのではないでしょうか。そのようなことをした人は、「別に会社の備品だから、なくなったり壊れたりしてもまた会社が買ってくれればいいじゃん」と思っているのでしょう。しかし、そのようなことばかりしていると、「経費がかさむから、今年の賞与総額は、当初の予算から、買い替えや修繕にかかった備品の費用を差し引いた額で計算しよう」「うちの会社は経費がかかるから、社員の昇給額は、想定していた金額よりも少なめにしておこう」という発想に経営陣はなるでしょう。結局自分に入るはずのお金が減ってしまう、というお金のサイクルに気付かないのです。
「モノ」への敬意の有無は、売上にも影響を及ぼすことがある
さらに「モノ」への敬意は、売上にも影響を及ぼすこともあります。たとえば社用車を「自分の車じゃないから」と社員が乱暴に運転してベコベコになっていたら、それを見た取引先はどう思うでしょうか。「この会社、大丈夫かな」と思うことでしょう。仮に不動産屋の社用車がベコベコになっていて「これから物件を見に行きましょう。さあ車に乗って乗って」と言われても、客は、「物件も社用車のように適当に管理されているのではないか」と不安になることでしょう。でも反対にピカピカに磨き上げられて大切に管理されている社用車を客が見たら「この会社はきちんとしているから信用できそうだな」と思うことでしょう。そのようなこと一つでも、成約につながったり、反対に破談になったりすることもあります。日本人は「モノを大切にする人は、人も大切にするだろう」「モノを粗雑に扱う人は、人にも同じように粗雑に接するだろう」という発想を持ちやすいのかもしれません。
経理はお金の流れについてわかりやすく啓蒙できる部署
モノを粗雑に扱えば扱うほど経費はかかり、売上の好機を逸し、結果として利益は下がります。経理「社員の皆さんがモノを大切にしなければ、その分、皆さんへの還元も減ってしまうのですよ。なぜなら…」とお金の仕組みや流れを社員に啓蒙できる部署です。総務部門とも連携をして職場環境の整備や美化の啓蒙などを行うことで、経費が過剰にかからず済み、会社の数字を改善することもできると思います。そのような取り組みを経営者にも報告していただくと、バックヤード部門も評価をしていただけると思います。
筆者プロフィール
前田 康二郎(まえだ こうじろう)
流創株式会社代表取締役。エイベックスなど数社で管理業務全般に従事し、サニーサイドアップでは経理部長として株式上場を達成。その後中国・深センでの駐在業務の後、独立。現在は利益改善、コンプライアンス改善、社風改善の社員研修、コンサルティング、講演、執筆活動などを行っている。著書に『メンターになる人、老害になる人。』(クロスメディア・パブリッシング)、『社長になる人のための経理とお金のキホン』(日経BP 日本経済新聞出版)、他多数。
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