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数字の良い会社には「敬意」がある非財務情報を経理視点で読み解く第6回 敬意のある会社は顧客と良い関係性を築ける

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お客様は神様か否か

近年の会社の課題の一つに、「カスタマーハラスメント」があります。カスタマーセンターの担当者は基本的に顧客に失礼な言動ができない環境にあります。それを逆手にとった顧客が、暴言を浴びせたり、無理難題な要求をしたり、それらを悪意でSNSに拡散したり、といった行為を繰り返して会社に風評被害を与えたりします。また、それらによってメンタルをやられてしまったカスタマー担当が退職し、そもそもカスタマー担当を誰もやりたがらなくなり人材不足に陥る、といった労務的な損害も会社に与えます。

このようなことがより深刻になるにつれて、「お客様は神様だ」という考え方の是非が議論されるようになりました。「『お客様は神様だ』、などという風潮があるからカスタマーハラスメントがより助長されるのだ」という考えの人の中には、「ひどい顧客は最初から拒否してもいいし、躊躇なく外部機関に連絡すればいいんだ」という意見も聞かれます。ただ、現実的に難しいのは、日本の組織の場合、「カスタマーハラスメントを受ける当事者=裁量権のない担当者」であり、責任者ではないため自分の裁量で臨機応変にリスク対応を決められないケースが圧倒的だという点です。

これが個人経営で接客も一人でこなしている店舗や、現場に裁量が任されている職場でしたら、「接客する担当者=責任者」になりますので、カスタマーハラスメントをされた際に、その場で自分の裁量で顧客への対応方法を決めることができますが、そうでない場合は、ハラスメントを受けた担当者は「とりあえず我慢し続けるしかない」という状況に置かれてしまいます。

そこで私は、お客様が神様かどうかは別として、「顧客は敬意の対象である」という考えを基準にして接客をする習慣を社内に浸透させると良いのではないかと考えました。

顧客は「敬意」の対象である

そのようにすることで、たとえば顧客からの問い合わせ内容が、ハラスメントかそうでないのかの区分けを担当者自身が明確にできるようになります。たとえば製品が故障してカスタマーセンターに電話があった際に、顧客が丁寧な言葉遣いで「緊急を要するので何とかすぐ対応して欲しい」と言えば、それはハラスメントではないことは明らかです。一方、乱暴な言葉遣いで「だからお前の会社は駄目なんだよ」「お前なんかじゃ話にならないんだよ」と言われたらどうでしょう。その言葉は顧客とはいえども、一担当者に対する発言としては敬意がないことは明らかです。そのため、対応した担当者が引き続き自分で対応可能であればいいですが、明らかに依頼主旨からはずれた侮辱する言動に耐えられない場合は、それ以上我慢する必要はなく、「一担当者の自分としては暴言を吐く顧客に暴言で返すことなく、最大限の敬意を払ったけれども、それでも相手は納得してくださらなかった」として、社内の責任者にバトンタッチし、さらに責任者レベルでも難しい場合は速やかに外部機関に協力要請をする、という判断基準にすれば、フロントに立つ担当者の精神的負担も減りますし、業務への安心感にもつながります。

顧客への「敬意」の意識が、社員の行動を変える

そしてこれは、社員が顧客に対する接し方にも良い効果をもたらします。先程と同じく製品が故障してカスタマーセンターに連絡をする例を取り上げると、顧客の立場に立てば、「本当は怒りたい気持ちでいっぱいだけれど、とはいえカスタマーセンターの担当者に怒りをぶつけるのも常識として失礼だから」という気持ちで連絡している顧客も多いはずです。私が会社でいろいろな方を見ていて顧客を余計に怒らせる傾向のある方は、こうした相手の「言外」の気持ちに鈍感、汲み取れない人です。そのような心理状態の状況で何度も担当をたらいまわしにしたり、折り返し連絡すると言ったきり何日も連絡しない、ということをされたりしたら顧客は「敬意のない担当者や会社だ」と思うことでしょう。

このような行為は顧客への敬意があればまず起こりません。一度説明したことを何度も説明しなくても良いように社内で問い合わせ内容を伝達したり、すぐ回答が折り返しできなかったりする場合は、次の日にでも「もう少し回答にお時間いただけますでしょうか」と一言連絡することでしょう。そしてたったそれだけのことでも対応の質が変わりますし、対応を受ける側の印象も変わります。「敬意を払ってもらっているんだな」ということが顧客に伝われば、トラブルの問い合わせがきっかけでも、逆に「良い会社だな」「何かあったら丁寧に対応してもらえることが今回わかったから、これからもこの会社の商品を購入しよう」と、プラスの印象を顧客は持ち、これからも良い顧客となってくれることでしょう。反対に敬意のない対応をされたら、当初はそのつもりがなかったのに、返品、交換、さらなる追加サービス、損害賠償などを求められたりすることもあるでしょう。経費精算をチェックしていると、「先方へ謝罪のための手土産代」といった領収書が上がってくることがありますが、顧客対応の悪さが、さらに会社の経費を発生させることもあります。顧客への敬意の有無は、売上や利益にも影響を及ぼすのです。

顧客への敬意は数字のマイナス要因の発生を防ぎ、プラス要因を発生させる

顧客との敬意のない関係性は、売上の減少、損害賠償金の発生、人材の流出に伴う新たな採用コストなど、利益を減少させる事案の発生に次々とつながります。反対に顧客との敬意のある関係性は、前述したようなリスク要因を回避し、顧客が会社や商品のファンとなり口コミを拡散するなど、売上伸長につながっていきます。

筆者プロフィール

前田 康二郎(まえだ こうじろう)

エイベックス(株)など数社の民間企業にて経理業務を中心とした管理業務全般に従事し、(株)サニーサイドアップでは経理部長としてIPO(株式上場)を達成。その後中国・深センでの駐在業務の後、独立。現在は、社内体制強化を中心としたコンサルティングのほか、講演、執筆活動なども行っている。

著書に、『スーパー経理部長が実践する50の習慣』、『職場がヤバい!不正に走る普通の人たち』、『AI経理 良い合理化 最悪の自動化』、『伸びる会社の経理が大切にしたい50の習慣』(以上、日本経済新聞出版社)、『スピード経理で会社が儲かる』(ダイヤモンド社)、『経営を強くする戦略経理(共著)』(日本能率協会マネジメントセンター)、『ムダな仕事をなくす数字をよむ技術』、『自分らしくはたらく手帳(共著)』、『つぶれない会社のリアルな経営経理戦略』、『図で考えると会社はよくなる』(以上、クロスメディア・パブリッシング)、『「稼ぐ、儲かる、貯まる」超基本』(PHP研究所)など。


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