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数字の良い会社には「敬意」がある非財務情報を経理視点で読み解く第5回 月次決算の早期化は投資家への「誠意」
どうして月次決算を早く作る必要があるのか
私は会社員時代、IPO(株式上場)準備企業に3社勤めていて、そのいずれも幸運にも上場できましたが、ずっとそのような環境にいたので、月次決算を早く作成することに関して、「とにかくそういうものなのだろう」と、理由も考えず当たり前のように考えていました。現場社員の方達から「どうしてこんなに領収書や請求書を急いで提出する必要があるのですか」と問われても「IPOの審査が通るためには必要なので」「月次決算を早く作成して外部に提出しないといけないんです」と答えて協力をお願いしていました。
その時は自分が会社員の立場でしかも多忙な会社ばかりでしたので、冷静に自分の行っている仕事を経理目線でしか見ることができなかったのだな、と振り返ると思います。今のように独立して初めて「月次決算の早期化は迅速な経営判断には欠かせないことなのだ」と実感し、経理の仕事というのは、作業中は孤独な作業ですが会社全体から見ても欠かせない業務であり、そして経理社員というのは同様に欠かせない人材なのだと客観視できるようになりました。
社外の人に月次決算を早く知らせる必要性
会社内における月次決算の役割に関しては、経営判断に欠かせない材料だということはもちろん理屈上は会社員時代も理解していましたし、皆さんもそうでしょうが、では「社外」に関してはどうかというと、この点に関しては「透明性の確保」「どれだけお金の管理がきちんとできているか、つまり内部統制機能が働いているかを示すため」ということなのかなと漠然と考えていました。しかし、ある会社との出会いで社外の人達にとっては「迅速な月次決算」がいかに重要かということを即座に理解しました。それは、「経営が芳しくない会社に貸付・投資をしている金融機関・投資家」の存在を認識してからです。
会社員時代は黒字経営の会社ばかりに私は在籍していました。今の時代は起業直後に投資家からまとまった資金を投資してもらうスタイルも増えましたので、ずっと赤字経営でも会社が存続していたり、赤字のまま上場したりする会社もありますが、私がIPOを担当させていただいていた時代はまだそのようなスタイルはありませんでした。そのため、IPO準備企業は一般的には黒字経営で、特にIPO申請直前は3期連続で右肩上がりの黒字でないと審査が通りにくいということをIPOコンサルタントに言われた記憶があります。IPOに係る費用もありますから、基本的に会社経営が黒字で且つ自己資金がそれなりにある会社が、さらに飛躍するためにIPOを目指すというケースが多かったので、社外の人達がその会社の経営そのものを心配する要素が当時はありませんでした。そのため、月次報告も適宜ご報告すれば外部の方達も特に問題ありませんでした。
経営が傾くほど迅速で正しい月次決算が作りにくくなる
しかし、経営が厳しい会社というのは、外部の方達にとっては気が気ではなくなります。「今月はあとキャッシュがいくら残っているのか」「売上は予算通り達成しているのか」など、知りたいこと、聞きたいことが山のようにあります。その「山のようにある聞きたいこと」が一つに詰まっているのが「月次決算報告書」です。だから外部の方達は「月次決算の資料は、今月は何日になったらできますか」と、気をもんでいるのです。
ところが、私も独立をして初めてその過酷な現実を知るのですが、経営が厳しい会社ほど月次決算は遅延していきます。通常であれば翌月の10日~15日前後で月次決算を締めている会社が多いでしょうが、1カ月遅れというのも当たり前という状況が経営が厳しい会社には多いですし、中にはそれ以上というケースもあります。私が考える主な理由としては
- 経営者の月次決算への軽視
- 現場の月次決算への理解不足
- 経理担当者の退職などによる人手不足
これらが挙げられます。経営が厳しい会社は、経営者が月次決算に対する意識や認識が高くないケースが非常に多いです。皆さん「粗利」まではご理解いただいているのですが、その先の販管費以降の項目に関しての認識や感覚が、経営が厳しくなるにつれてずれてきてしまい、結果として資金ショートを起こす、という悪循環に陥っています。さらに、「悪い数字を外部に見せたくない」という心理が働き、「外部から聞かれるまでは月次決算は報告したくない」という習慣がついてしまっています。すると外部の金融機関や投資家からすると「信頼してお金を貸したり預けたり出資したりしているのに、誠意がない会社だ」という認識が増幅していきます。そして外部の方達も疑心暗鬼になり、徐々にその会社への信頼を失っていきます。悪循環はさらに加速し、月次決算を報告してもらった外部の人達がその内容について確認、質問をすると、2や3の理由で、計上漏れや計上のズレ、単純な処理ミスなどが発覚し、「これは本当に正しい月次決算ですか?」となり、さらに信頼を失ってしまいます。
外部への誠意の示し方は、正しい月次決算の早期化しかない
こうした会社に、今現在の私が業務としてコンサルタントを請け負った場合に最初に何をするかというと、「正しい月次決算の早期化」から手をつけることに尽きます。経営者が「こんなに悪い数字を見せたらもうお金を貸してくれたり、投資をしてくれたりしなくなりませんか?」というのを説得し、「悪い数字の時こそ早く見せれば、金融機関や投資家の方達はお金のプロですから一緒に対応を考えてくれて解決できる道もあります。しかし後から悪い数字を見せられたら、いくらプロでも手遅れで何もできませんし、そもそも誠意がない、信用がおけない、と思われてしまいます。逆の立場だったらそう思いませんか」とお話します。
そして外部から2や3についてのフォローやサポートをして、正しい月次決算を翌月の中旬頃までに金融機関や投資家の方達にご報告することで、まず皆さん安堵されます。個人投資家の方以外は、担当者の方もそれぞれ投資会社や銀行などの「会社員」です。その方達が社内で上司や会議などに投資先、貸付先についての経営状況を報告しなければいけません。そこまで考えて差し上げるが本来仕事で関わる方達に対する「敬意」であり、「誠意」であると思います。黒字のときはそれが頭の中にあっても、赤字になってだんだんとお金がなくなってくると焦って余裕がなくなり、他人のことを考えられなくなってきてなくなってきてしまう、ということも言えます。
経理部門というお金の管理を司る場所は、社外に対する敬意や誠意を示し続けるためには重要な役割を担っていることを、組織から飛び出して外側から会社を客観視できるようになってみて、改めて実感しています。
筆者プロフィール
前田 康二郎(まえだ こうじろう)
流創株式会社代表取締役。エイベックスなど数社で管理業務全般に従事し、サニーサイドアップでは経理部長として株式上場を達成。その後中国・深センでの駐在業務の後、独立。現在は利益改善、コンプライアンス改善、社風改善の社員研修、コンサルティング、講演、執筆活動などを行っている。著書に『メンターになる人、老害になる人。』(クロスメディア・パブリッシング)、『社長になる人のための経理とお金のキホン』(日経BP 日本経済新聞出版)、他多数。
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