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数字の良い会社には「敬意」がある非財務情報を経理視点で読み解く第3回 経理や現場ができる受注先への敬意

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ポジティブでない経理業務

経理が業務上で社外に連絡をする数少ない業務の一つに「受注先への入金に関する問い合わせ」があります。

期日を過ぎても入金されない滞留債権の督促、また、入金額が自社の売掛金残高とうまく消込ができず、何の案件の入金なのか内訳明細を教えて欲しい、という問い合わせなど、私自身は経理業務の中でも苦手な仕事の一つでした。

会社員時代、とある会社の経理部に電話をし、昨日入金があった金額の内訳がわからないので、当社の請求書Noなどの明細を教えていただけませんかと連絡をしました。すると「何で御社が出した請求書なのに内訳がわからないんですかぁ?」と、電話口で、鼻で笑っているのがわかる口調で小馬鹿にされたことがありました。その会社へは毎月何十枚も現場担当者から売上請求書を送っていて、しかもどれも似たような金額ばかり、おまけに当社の請求書の日付は関係なく、相手先の経理部に10日までに届いたらその月の月末に入金される、というような形でしたので、自社の売掛金台帳で消込をしようとしてもパズルのようで時間をかけても消込できない状態でした。

自社の現場担当者が、社内では計上しているのに相手先に請求書を送り忘れていて抜けていたり、送るのが遅れたりして、本来、翌月末に入るものが2カ月後、3か月後に入金される、いうものが毎月何件もあったので、それが繰り返されて経理の力だけでは推理して消込しないとできない状態でしたので、自社の管理不足や責任もあるのですが、だからといって鼻で笑われる筋合いはないよな、同じ経理同士なのにそれくらいのことがあるのはわかっているだろうに、と、私も若かったので当時は嫌な気持ちになりました。それでも明細をメールで一覧にして教えてくれて、実際に付け合わせをしたら明細が確定し、歯抜けになっている明細を現場担当者に確認をし、自社の担当者が請求書を先方に送るのが遅くなったもの、また先方の現場担当者が何日も請求書を手元にもっていて先方の経理担当者に回覧するのが遅れたもの、その両方があることがわかりました。

それらに関しては、今後はそういうことがないようにルール作りをして現場担当者にお願いをした後、内心腹が立ちつつも、もう一度その会社の経理担当者に電話をして、「先程頂いたメールで原因がわかり、自社の担当者に注意をし、御社の担当者の方にも速やかに経理部門に回覧していただくよう、うちの担当者からお願いをしましたので今後ともどうぞよろしくお願いします。大変助かりました」と御礼を伝えました。するとその経理担当者は同じ人だったとは思えないほど「あ、いえ…当たり前のことなので…。でも、私も御社以外にも「内訳明細を教えて欲しい」とたくさん連絡がきて処理をこなしきれないこともあるので、明細の問い合わせが来ると『またか』となってしまうんです…。でもまた次回わからなければお電話ください」と殊勝に言われて拍子抜けしてしまいました。

その時にはその豹変の理由が理解できなかったのですが、年齢を重ねて改めて思い返してみると、きっとその経理担当者も、その会社が独特なルールの支払サイトで処理をしているので私と同じように他社からも問い合わせがたくさん来ていて、それでついイライラの一線を越えてしまったのだろうと思います。ですが、改めて御礼の連絡をしてくる人などそれほどいないでしょうから、まずそれに驚いたのでしょうし、「やって当たり前」と思ってした仕事に相手から敬意を払われ、我に返って嬉しかったのかもしれません。私も迷いながらも電話をしてやっぱりよかったなと思いました。


経理担当者が会社の「顔」になることがある

仕事をしていて嫌なことがあると、冷静になろうと思っていても感情が高ぶって自分自身をコントロールできない時もあります。

だからこそ、「どのような相手に対しても敬意を払う」という意識付けを日頃からして、自分の感情をコントロールして業務に向かうことが大切だと思うのです。受注先の経理担当者と揉めれば「あんな経理がいる会社と付き合ったらヤバイですよ」と、経理担当者から社長や現場担当者に告げ口をされて取引を停止させられることもあるかもしれませんし、反対に好印象を持ってもらえれば「あの会社は経理担当者がしっかりしているからもっと取引を増やしても問題ないと思いますよ」となることもあるかもしれません。経理が受注先にできることは限られていますが「当社は高額な取引をしても安全安心な健全な会社です」というアピールはできると思います。

現場担当者が受注先にできること

また、現場の社員が受注先にできることも考えてみましょう。

前回、発注先から受注先に対しては、良い関係性ほど値上げの申し出はしづらい、と言いましたが、ではどうしたら良い関係性のまま、受け身ではなく積極的に既存の取引額を増やすことができるでしょうか。

その一つには、自分達だけが得することを考えるのではなく、相手にも敬意を払い受注先の成長を考えることが大切だと思います。

受注先が成長すればおのずと自社の取引量や取引金額も増えますから、「御社であれば、もっとこんな商品があったら私だったら欲しいです」など、外部社員のように、どんどん受注先の担当者に提案することがその一つだと思います。そして、「御社ともっと一緒に仕事をしたいですし、御社の成長も期待しています。そして自社も御社のように成長したいと思っています。つきましては、御社への取引金額を今の2倍にするためには、当社は何ができればそうなりますか」と聞いてみるのもいいと思います。

そうすることで、「あ、何年もお付き合いしていて単価が当初のままですね。そうしたら少し単価を上げて請求してくれて大丈夫ですよ」と言われるかもしませんし、あるいは「お願いしていいならもっと別の仕事もぜひお願いします。忙しそうだから悪いかなと思って遠慮してたんです」と言われるかもしれません。新しい仕事に関しては見積単価を既存の仕事より上げて提案してもいいと思います。このようにすれば、取引単価や取引金額も上げられる可能性が高まります。こうした発想で経理から現場担当者に共有して作戦を練り、実際に受注額が増額したら、現場担当から社長や役員に「経理から提案協力してもらった」と言ってもらい、査定評価時には、その取り組みや実績を現場のインセンティブなどの係数を使って実際に賞与などの手当として支給してもらっても良いと思います。

敬意ある関係性が、お互いの会社の仕事をやりやすくし、またお互いの会社の売上を伸ばし、その利益の一部が、それぞれの社員に還元されると私は思います。


筆者プロフィール

前田 康二郎(まえだ こうじろう)

流創株式会社代表取締役。エイベックスなど数社で管理業務全般に従事し、サニーサイドアップでは経理部長として株式上場を達成。その後中国・深センでの駐在業務の後、独立。現在は利益改善、コンプライアンス改善、社風改善の社員研修、コンサルティング、講演、執筆活動などを行っている。著書に『メンターになる人、老害になる人。』(クロスメディア・パブリッシング)、『社長になる人のための経理とお金のキホン』(日経BP 日本経済新聞出版)、他多数。

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