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数字の良い会社には「敬意」がある非財務情報を経理視点で読み解く第2回 発注先に「敬意」のある社員は経費抑制の貢献をしている

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侮れない現場担当者と発注先との関係性

私が会社員時代に経理を担当していた頃は、受注先と発注先を比較するとどうしても受注先に注意を向けることが多かった気がします。なぜなら受注先は、売掛金が遅滞なく入金されているか、正しく全額入金されているか、などのチェックが、会社や経理においても重要ですし、何カ月も入金されずに滞留債権になっている受注先があると、それを督促したり、交渉したりといった作業が発生しますので、経理処理全体の中でも受注先からの入金チェックは最優先事項の一つだろうと思います。

それに比べて発注先というのは、発注先から現場担当者へ支払請求書が届き、それが経理部門に回覧されたら、請求書の内容と金額を確認し、粛々と仕訳計上や振込処理の手続きを行うことで完結しますので、時にはキックバックなどの不正の温床になるケースもありますが、普段の業務においては経理部門が特段注意を払ったり、興味を持ったりするポイントが少ない範囲とも言えます。

しかし、脱サラをして自分自身が「発注先」の立場になって仕事を受けるようになり、「現場担当者と発注先とのコミュニケーション」一つで、納品されるモノやサービスの質や請求金額そのものも大きく変わってくるのだなと気付きました。

良い担当者はとにかく発注先を気分良くさせてくれる

たとえば実際に私が仕事をしていて、良い担当者の方というのは、とにかく納品したものを褒めてくれる、感謝してくれる、よいしょしてくれます。

「今回もとても良かったです」「学びがたくさんありました」など、気分を良くさせてくれます。そうすると「じゃあまた次も頑張ろう」「喜んでもらえるようにもっといいものを作ろう」と作り手は思います。それがたとえ「気遣ってお世辞を言ってくれてるんだな」とわかるような時でもそれはそれで嬉しいのです。受発注の関係性であっても、一人の人間として「敬意を払ってくれている」ということがわかるからです。

会社によっては「発注先なんかに気を遣う必要なんてないぞ。だってこっちが仕事や金を与えてやってるんだから」という経営者の方もいますので、それに感化されて社員がそのように発注先に接してくることもあります。だから敬意をもって接してくれる人や会社というのは、発注先の立場から見るととても際立つのです。

良い担当者には値上げをお願いしづらい

そしてこのことが「値上げ」に関しても影響を及ぼします。昨今も物価が上がり、どこの会社も値上げをしたいのが本音です。私も「長年実績も積んだし値上げしていただけないかお願いしようかな」と思う時もあります。そうしたときに、いつも褒めちぎって引き立ててくれている担当者の人に「値上げして欲しい」とは、とても言いにくいのです。値上げして欲しいなんて言ったら、上司にかけ合わないといけなくなるから板挟みになって困るかなあ、とか、考えてしまうのです。そして「ちょっとのお金のことで、毎回励みになるようなことを言ってくれる関係性が壊れたら、そちらはプライスレスでお金では買えない関係性だから、値上げのお願いは、また来年改めて考えようかな」となることも実際に多いと思います。

その反対に、現場の担当者の方が、全く自分が納品したものに興味がなさそう、チェックもしてなさそうな会社に対しては、値上げをお願いしてもいいかな、とダメ元でお願いをすることが多いと思います。それが通ればラッキーですし、逆に「それだったらあなたとの契約は終わりにしようかな」と出られた時は、そもそも自分の納品物に興味がないのだからそれでもいいか、と、契約を終えて、その空いた時間をまた他の会社の仕事に充てると思います。

さらにひどいケースとしては、私はこうした経験はありませんが、担当者から「このまま契約を続けたければ、自分にキックバックをよこしなさい」ということを言われた、脅されたというケースが知り合いにはいます。

非財務情報を財務情報化してみると…

この3パターンの現場担当者が全く同じ仕事を担当したら、数字的にはどうなるでしょうか。

発注先の仕事内容に興味を持ち、褒め上手な担当者は、発注先にも気持ちよく仕事をしてもらいつつ、リーズナブルな価格で質の良い納品を発注先にしてもらい続けることができますので、費用はかからないのはもちろんのこと、納品されたものを質に見合った良い値段で売ることができるので、利益率も高くなることでしょう。

その反対にキックバックを要求するような担当者は、言わずもがな本来は不要なキックバック分の経費も会社の費用として追加計上され、納品されるモノやサービスの質よりも「いかにキックバックをやりやすいか」を基準に担当者が発注先を選定してしまいますので、おのずと質も下がり、良い値段で売ることもできにくくなることでしょう。

そしてそのどちらでもない担当者の場合は、物価や景気変動に従って発注金額も徐々に上がっていくことでしょう。このケースが通常の多くの会社のケースではないかと思います。

このように、経理的な知識や視座があると、担当者一人ひとりの言動(非財務情報)が、どのように費用など実際の数字(財務情報)に影響を及ぼすかが事例を挙げてわかりやすく伝えることができます。たとえば経理の皆さんが、このような事例を挙げることで、今回のケースでいえば、発注先と良好なコミュニケーションをとっている人達が、ただ「品行方正な良い人」で終わるのではなく、実際に会社の財務情報にも良い影響をもたらしていることを「見える化」することができます。そうすることで経営陣にも認識してもらうことができ、現場の担当者も評価されるはずです。そうすれば彼らからも経理は感謝されるはずですし、経営陣からも「他に分析できることはある?」と経理部門に対して期待や評価がされることと思います。

筆者プロフィール

前田 康二郎(まえだ こうじろう)

流創株式会社代表取締役。エイベックスなど数社で管理業務全般に従事し、サニーサイドアップでは経理部長として株式上場を達成。その後中国・深センでの駐在業務の後、独立。現在は利益改善、コンプライアンス改善、社風改善の社員研修、コンサルティング、講演、執筆活動などを行っている。著書に『メンターになる人、老害になる人。』(クロスメディア・パブリッシング)、『社長になる人のための経理とお金のキホン』(日経BP 日本経済新聞出版)、他多数。

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