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数字の良い会社には「敬意」がある非財務情報を経理視点で読み解く第1回 「敬意」が非財務情報を形成し、財務情報に連動する
2023年は非財務情報がキーワード
2023年は人的資本経営や有価証券報告書の非財務情報開示など、数字に表れないもの、数字化されないものに、より注目が集まる年になると思います。なぜ非財務情報を社外に発表していく必要があるかというと、一言でいえば「社外の人は社内のことを知ることができない」からです。投資家は投資判断をするために、何も情報がないと投資判断のしようがないので、これまでは売上や利益、資金の状況など「財務情報」の推移を定期的に見ることで投資判断をしてきました。しかし近年は、財務情報だけでは投資判断が難しいケースも出てきています。
たとえばある会社で大きな売上実績を持つ優秀な社員達が突然ライバル会社に一斉に転職をするというような場合、それは財務情報だけでは予測することはできませんが、優秀な社員が転職せずに社内に留まる施策を会社が行っているかどうか、実際に離職率は何%なのかといった非財務情報があれば、投資家は予測をすること自体はできるようになります。このような情報は「財務情報に連動する非財務情報」として、投資家にとっては非常に重要な時代になっていくのだと思います。そして非財務情報をどれだけ詳細に社外に公開、提供できるかというのが、投資家のみならず顧客や求職する人達に対して開かれた会社かどうかという指針になっていくのだと思います。
非財務情報が良い会社は財務情報も良い
私も仕事において非財務情報を重要視します。たとえばクライアント先に初めて訪問したときは、まずエントランスの状態、そして秘書や受付対応してくださる方達の受け答えの印象、そして出入りする現場の社員の人達の身だしなみや話し方や歩き方、作業スペースに一歩入ったときの一瞬の空気感、そのような「非財務情報」をキャッチアップした上で、社長や経理社員の方達の話を伺い、そしてようやく「財務情報」を見て非財務情報の印象と答え合わせをします。そうするとやはり非財務情報の印象がいい、つまり「感じがいい」「雰囲気がいい」会社は財務情報も良く、そうでない場合は財務情報も悪い、というように連動しているのです。
つまり経理的観点から分析をすると、数字の悪い会社は、非財務情報を良くすれば、数字が改善するのではないか、とも読み取れるわけです。そこで今回のシリーズでは、経理的観点から、財務情報から非財務情報へと源流に「さかのぼって」、どういった社員一人ひとりの振る舞い、言動などが非財務情報を形成し、それが財務情報にも連動して数字を良く、あるいは悪くしてしまうのか、ということを読み解いていきたいと思います。
非財務情報を形成するベースは「敬意」
私が会社員時代を含め、いろいろな会社や人と接してきて、どのような行為が人を喜ばせたり、傷つけたり、生産性を上げたり、会社を辞めようかなと思わせたりするのだろう、ということを考えて単語を書き出していったときに、それらを眺めていたら、パッと、「敬意」というキーワードが浮かびました。敬意のある会社は概ね数字も良く、敬意のない会社はそうでない、と定義すると、つじつまが合うと思ったのです。
具体的に敬意のある、なしというのはどのようなことかを例に挙げてみます。
まず敬意のある行為というのは、次のような行為です。
「敬意」で包括できるもの(尊厳、感謝、配慮、尊敬、秩序、自律、協力、善意、礼儀、信頼、真摯、誠実、傾聴、寛容、謙虚、適度な距離…)
このようなものに溢れている職場だったら、在宅でも出社でもどちらでもいいと言われても、出社して皆と話がしたいと思うことでしょうし、社内だけでなく顧客や取引先からも慕われる人達で構成された会社のように思えるのではないでしょうか。数字ももちろんいい会社のように思えます。
では、敬意のない行為はどうでしょうか。
「敬意」が存在しないもの(監視、差別、侮辱、無視、拒絶、悪意、罵倒、威圧、圧力、強制、強要、怠惰、偏見、傲慢、近すぎる距離…)
このような会社であれば、出社でも在宅でもいいと言われたら迷わず在宅を選択するでしょうし、コロナ禍で在宅になって、むしろ仕事がはかどるようになったという方は、敬意のない行為であふれた職場にいた可能性が高い気がします。社員同士の連携もできていなさそうですし、発注先に対して下請けいじめをする社員も居そうです。数字も良くなさそうに見えますし、実際に今はよくても、組織自体が長続きはしないだろうということは皆さんもイメージがつくと思います。
そして、「敬意」というのは、対象を選びません。生物、無生物に関係なく敬意というのはあらゆるものに発生、存在します。
敬意の相手先(経営者、社員、同僚、部下、上司、非正規社員、顧客、外注先、取引先、投資家、自然環境、仕事、自分自身…)
人に対する敬意はイメージできるでしょうが、人以外に対しても、自然環境に配慮した材料で製品を作ることも自然に対する敬意ですし、経理という仕事に対して誇りを持ち敬意を払いながら自分は働いている、という人もいると思います。
職場に関するこれだけの項目に関して敬意というキーワードでこれだけ明確に分類できるということは、敬意というものを無視できませんし、これをどうコントロールするかで、非財務情報、財務情報にも大きな影響が出ると私は考えています。
「敬意」を経理がマスターすることで確実に数字は良くなる
この非財務情報について財務情報を専門的に取り扱う「経理」が、正しい理解をしておくことで、敬意のある行為が良い非財務情報を形成し、それが良い財務情報として連動し数値化されるということを理論的に説明できるようになります。毎日社内にいて社長からアルバイトまで全員と触れ合う機会のある経理が敬意を持ちながら全員に対してサポート、アドバイス、提言をすることで、会社の非財務情報も財務情報も改善されるはずです。次回から、具体的に一つずつ項目をあげて考察して行きましょう。
筆者プロフィール
前田 康二郎(まえだ こうじろう)
流創株式会社代表取締役。エイベックスなど数社で管理業務全般に従事し、サニーサイドアップでは経理部長として株式上場を達成。その後中国・深センでの駐在業務の後、独立。現在は利益改善、コンプライアンス改善、社風改善の社員研修、コンサルティング、講演、執筆活動などを行っている。著書に『メンターになる人、老害になる人。』(クロスメディア・パブリッシング)、『社長になる人のための経理とお金のキホン』(日経BP 日本経済新聞出版)、他多数。
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