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AIやITで、経理は本当になくなるのか?~共存する人とAIとIT~第9回 業務のコミュニケーション手段にAI・ITを活かす

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AIにやってほしい経理業務

AIが自分の代わりに経理業務をやってくれるとしたら、皆さんなら何をお願いするでしょうか。経理精算のチェックでしょうか。それとも振込処理でしょうか。私でしたら、滞留債権の督促、自分と相性の良くない人への対応などをまず優先的にお願いするかなと思います。それはAIがそれらの業務に向いているかどうかは関係なく、単に、「できれば自分がやりたくない」業務をAIにお願いしたいという安直な理由からです。

むしろ経費精算や振込などは、自己完結できる仕事ですので、膨大な処理でしたら手伝って欲しいですが、仕事そのものは別に嫌いではありません。このように考えると、私はコミュニケーション、それも言いづらいこと、相手の機嫌を伺わなければいけない状況の仕事に関して苦手で、直接的なコミュニケーションの必要がない仕事は好きということがわかります。皆さんも、自分の業務の中のうち、何をAIにお願いしたいかで、自分の内心苦手としていること、反対に好きや得意としていることを客観的に知ることができるかもしれません。

ただ、残念ながら私のような特性の人の場合は、AIを頼ることはあまりできないようです。AIといっても基本はプログラミングですから、経費精算など証憑のチェックや集計、仕訳生成などは相性が良いのですが、滞留債権などは、先方と交渉をして無事資金を回収する業務はプログラミングでは難しいので、引き続き人間がやったほうが早いですし、コストも安いということです。


「丸投げ」ではなく「分担」「住み分け」の発想だと経理業務とAIの相性は良い

ただ、業務の一部をAIに手伝ってもらうことはできると思います。たとえば滞留債権を会計データから洗い出してピックアップしたり、滞留債権になりそうな案件に関してアラーム(警告)を自動で発してもらったりすることはAIでできるでしょう。たとえば会社の滞留債権の基準が3カ月だとしたら3か月以上未入金の案件を瞬時に洗い出したり、2か月未入金のものはアラームを発してもらったりすることはできるので、それまで手作業で元帳などから拾い上げている会社があれば、それは大幅に時間短縮ができます。

また、社内のその案件の担当者への連絡や、滞留債権先への問い合わせをするメールや文書などの作成や配信なども、AIで設定をしておけば可能でしょう。案件の受注時に、自社担当者と相手先の担当者のメールアドレスなどを登録しておけば、滞留債権だと確定したと同時に、それぞれにメールが自動配信されて「〇〇の案件が未入金ですのでご確認いただけますでしょうか。よろしくお願いいたします」という通知を送るまでは、自動化することは可能だと思いますし、コストもそれほどかからない技術レベルだと思います。

一般的には滞留債権が発生した場合は、経理から現場担当者に連絡をして現場担当者から先方の現場担当者に確認をするか、直接経理から先方の経理に連絡をするかのどちらかになりますが、そのような作業も、交渉の手前までの事実確認と連絡を社内外の関係者にする作業までは、完全自動化は技術的に可能でしょうし、煩雑なコミュニケーションも省略でき、とても有用ではないかと思います。


AIが介入することで人間同士のコミュニケーションが改善する

滞留債権の督促のほかにも、経費精算や請求書の提出期限が過ぎているのに提出していない社員への連絡や、申請内容が間違っている社員への連絡など、経理の仕事で発生するコミュニケーションは、ポジティブなものでないものが数多くあります。それが余計に、私たち経理社員がコミュニケーションというものに対して苦手意識を持ってしまう原因になっている気すら私はします。それを解決するために、今事例に挙げたような内容のコミュニケーションは、人間ではなくAIなどのデジタルツールに任せることによって、人間同士のコミュニケーションが改善されていくこともあるのではないかと思っています。

たとえば、AIが自動的に提出期限を超えて申請をしていない人に対して「申請をしてください」と一斉通知をした場合、受け取った社員は、相手が機械ですから、特にネガティブな印象を持つことはありません。単に「あ、忘れてた。早く申請しなきゃ」と思うだけです。そして通知を受け取った社員は申請を行い、無事全員提出がされます。それを確認した経理社員が、AIから催促されて申請をした社員に対して「申請してくださってありがとうございました」と一言連絡をすれば、「いえいえこちらこそごめんなさい」というような円滑なコミュニケーションを取ることができると思うのです。

AIの使い方というのは、AIに丸投げというよりは、AIに一部分をアシストしてもらい、本来そのアシストしてもらった部分をやるはずだった自分の労力を、「より良い関係性の質を高めること」に使うと、AIと人間、それぞれの良さが組織の中で活かせるのではないかと思います。


AIやITに「気遣い」を注入できるスキルを持っているか

総務人事部門が、解雇通知や減給などのネガティブ事象をAIで伝えたら感情的な部分で大問題になるでしょうが、経理の場合は同じネガティブでもそのような内容のネガティブではなく、「催促」「お願い」が内容の中心となるので、「イライラしている生身の経理社員」から伝えるよりも、「イライラしていないデジタル」から情報を受け取ったほうがすんなり受け入れやすいと思います。ただし、デジタルツールの使い方にはコツがあります。

既に実際に経費精算にそのようなAI的な機能をつけたツールを導入している企業の営業社員の方から伺った話ですが、外回りでへとへとになって社内に戻ってきて経費精算の入力をしていたら「この申請内容は本当に正しいですか」など、上から目線で偉そうなメッセージがたびたび表示されて、イライラすることがあります、と言っていました。

それは、おそらく制度設計した人が、プログラミングはわかっていても、現場社員の気持ちがわかっていないということなのでしょうね、とその方にはお話しました。もし私がそのソフトウェアの設計に関われたら、まず月末になって経費精算の画面を開いたら、「〇〇さん、今月も1か月本当にお疲れ様でした!」と表示させると思います。プログラマーからしたら「何でそんな表示が必要なんですか」となると思いますが、こうした視点がAIの技術を活用する際には重要です。「すみませんが、経費精算の入力をよろしくお願いします!」「確定ボタンを押す前にもう一度だけ全体をチェックしていただけると助かります!」「申請ありがとうございました!今日はゆっくり休んでくださいね!」などというメッセージであれば、機械でありながら良い人間性を持たせることも可能です。AIやITそのものは、最初は、感情はなく無色透明ですので、それを良い活用の仕方をすれば、AIやITにも「人間らしい感情」を色付けすることができると思います。AIやITに「気遣い」を注入できるスキルを持っている人であれば、AIやITを駆使して、さらに活躍ができるのではないかと思います。


筆者プロフィール

前田 康二郎(まえだ こうじろう)

流創株式会社代表取締役。エイベックスなど数社で管理業務全般に従事し、サニーサイドアップでは経理部長として株式上場を達成。その後中国・深センでの駐在業務の後、独立。現在は利益改善、コンプライアンス改善、社風改善の社員研修、コンサルティング、講演、執筆活動などを行っている。著書に『メンターになる人、老害になる人。』(クロスメディア・パブリッシング)、『社長になる人のための経理とお金のキホン』(日経BP 日本経済新聞出版)、他多数。

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