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AIやITで、経理は本当になくなるのか?~共存する人とAIとIT~第8回 なぜIT化AI化すればするほど「優秀な経理」がいたほうがいいのか

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RPAをより活かすには

会計ソフトの展示会に行くと、RPA(Robotic Process Automation)のデモンストレーションをしているのを見かけますが、Excelを使った作業を機械が人間の代わりに手順を追って行っているのを見て、しばしば気になることがあります。

「自分だったら、こんな面倒な表ではなくて、もっと簡単な表にしてRPAに早く作業をしてもらうかな…」「このExcelの表の中の2か所だけ検算すれば、あとは計算式が入っているはずから、こんなに一段一段RPAがチェックしなくてもいいのに…」など、デモに使っているExcelの表がそもそももっと簡便化ができると思ったり、RPAにさせている作業フローそのものに無駄があったり、そうしたことが気になってしまうのです。

経理作業も「王道」のやり方もあれば、数字の法則性や自分なりのテクニックを駆使して、作業そのものを短縮化することもできます。特にデジタル技術が活用できるのであれば、計算式や関数も活用していいということですから、たとえば王道のやり方だと123456789…と、一つずつ工程を順番に集計、検算チェックする経理作業は、集計はその手順を踏むとしても、検算チェックは全て1つ1つチェックなどしなくても、最初と最後の1と9の2か所だけチェックすれば、あとの2345678は、理論上合っているはず、というようなケースが数字の世界ではよくあります。自分の経理作業をただ漠然と言われた通り、前任者から引き継いだ通りに忠実にやるだけでなく、それに慣れたら今度はもっと短時間で正確にできないかと考え、工夫をしてもいいのではないかと思います。そして新しいデジタルツールが登場したら、それを自分の仕事の最適化に活用できないかなと考えるような人が一番デジタルツールを上手に使いこなせる人です。


優秀な経理が社内にいるといないのとでは何に影響するのか

ExcelやRPAなどはデジタルツールではありますが、人間の設定に従って稼働するものですから、いかに人間が効率の良い設定をするかによって、その作業時間や正確性も変わってきます。経理社員がITに押し出されずに生き残る要素の一つとして、まずITを活用するにあたり、その特性を活かして、どのようにアナログ作業をデジタル化し、それもいかに最速、最短で正確性も備えたワークフローやチェックの作業プロセスを自ら考え、提案できるか、という点にあると思います。

実際に、そのような経理社員がいる会社といない会社の違いというのは、最新のクラウドソフトを入れた事例を見るとわかります。

ソフトウェア会社のソフトの導入事例の紹介として、たとえば100時間かかっていたものが10時間になった!というような広告を以前はよく見かけました。一見、そのソフトウェアがそんなに優秀なのかと思ってしまいますが、私はひねくれているので、「ちょっと待って。クラウドを入れたらたった10時間で終わるような仕事を、これまで100時間もかけていたってどういうこと?今までどんなマネジメントをしていたんだろう」と、100時間のほうに目がいってしまいます。その会社の概要と社員数などを見ると、どう考えてもアナログで作業をしても30時間くらいで終われそうな仕組みが作れる気がするけどな、と思ってしまうのです。私の言う30時間というのは「経理社員が社内にいる」前提ですので、その事例に出てくる会社はやはり経理社員が専任でいない中で現場の人達が手探りでやっていたとか、Excelすら活用していなかったとか、そのようなマネジメントをしていた会社ですので、やはり100時間かかってしまう場合もあるのだろうと思います。

では、そのような会社は、クラウドソフトを入れたらそれで解決かといったら、そこには疑問が残ります。良いクラウドソフトを入れた後も、ソフトウェアはまたどんどんバージョンアップをして、AIの機能や精度もさらに飛躍的に向上していくことでしょうから、それらの機能を活用できる、使いこなせる社員が社内にいなかったら、また同じように数年後には同業他社に作業効率で大幅な遅れをとる会社になるのだろうなと思うのです。他社が最新の機能を活用して10時間かかっていた作業を1時間で終わっている時に、経理社員のいない中でクラウドソフトを入れている会社は、導入時のまま変わらず10時間かけて作業をしているのだろうなと思います。

つまり、IT化、AI化すればするほど、それを「誰がセッティングするか」によって、ITやAIの成果は雲泥の差が出てしまう、それがITやAIの特徴でもあるので、経理業務に関して言えば、処理そのものは自動化されていく時代としても「最高にITやAIの能力を引き出せるセッティングや活用ができる優秀な経理」が最低一人は社内にいた方がいい、ということです。優秀な経理がいなくても会社そのものはまわりますが、優秀な経理がいる会社に比べればバックヤードの管理における効率や生産性などは時間の経過につれて二段落ち、三段落ちしていくのだろうとは思います。


IT化、AI化の環境下で求められる「優秀さ」とは

一方で「優秀な経理」の「優秀」というのは、学歴や社歴がいいという意味ではなく、今まで申し上げたような「常に良い環境改善をしようと考えて工夫ができる人」という意味です。そのような人材であれば、最新のITやAIのツールを「どうアレンジして活用できるか」という立ち位置で引き続き経理社員として活躍できますが、経理をただの処理と考えている経理社員は、処理だけでしたらITやAIでできてしまうものも今日現在でも多数ありますので、これからさらに居場所を確保していくのが難しくなっていくかもしれません。

最新のIT、AIのツールと、少数精鋭の優秀な経理、この組み合わせが将来的な経理組織の標準の形の一つにはなっていくのではないかと思います。


筆者プロフィール

前田 康二郎(まえだ こうじろう)

エイベックス(株)など数社の民間企業にて経理業務を中心とした管理業務全般に従事し、(株)サニーサイドアップでは経理部長としてIPO(株式上場)を達成。その後中国・深センでの駐在業務の後、独立。現在は、社内体制強化を中心としたコンサルティングのほか、講演、執筆活動なども行っている。

著書に、『スーパー経理部長が実践する50の習慣』、『職場がヤバい!不正に走る普通の人たち』、『AI経理 良い合理化 最悪の自動化』、『伸びる会社の経理が大切にしたい50の習慣』(以上、日本経済新聞出版社)、『スピード経理で会社が儲かる』(ダイヤモンド社)、『経営を強くする戦略経理(共著)』(日本能率協会マネジメントセンター)、『ムダな仕事をなくす数字をよむ技術』、『自分らしくはたらく手帳(共著)』、『つぶれない会社のリアルな経営経理戦略』、『図で考えると会社はよくなる』(以上、クロスメディア・パブリッシング)、『「稼ぐ、儲かる、貯まる」超基本』(PHP研究所)など。


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