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AIやITで、経理は本当になくなるのか?~共存する人とAIとIT~第5回 不正検知とAI

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AIが見破れる「嘘の」領収書や請求書の範囲

経理の仕事において、集計、分析のほかにメインの仕事の一つとして、不正に対するけん制やチェックがあります。この「不正防止」に関して、AIは機能するのでしょうか。

たとえば、領収書の数字の「6」を「8」に上書きされて経費申請がされた場合、領収書を写真撮影して画像データを取り込む際に、「偽物」「二重の書き込みがある」というようなアラーム(警告)が発信できるような機能の開発は、可能なのではないかと思います。

こうした機能があれば、全ての不正は見抜けなくても、少なくとも社内に対して「けん制」にはなります。不正というのは、「うちの会社は何もチェックしていない」「自分でもやれそうだな」という環境下で行われるので、こうした仕組み、機能があるというだけでも、領収書や請求書などを自分で偽装して不正をしようと発想する人が減り、結果的に不正の数も減ります。

そのような機能があったとしても「全ては見抜けない」という理由は、その領収書や請求書そのものが「一応、本物」のケースです。どういう意味かというと、馴染みのお店から、金額が無記名の領収書をもらい、申請者が適当な金額を書き込んで申請をしたら、それが本物か偽物かを判別する手段は、やはりないのです。本人が偽装申請しないように、各社員の筆跡をAIに事前登録していたとしても、金額の書き込みを他人にお願いしていたら、すり抜けてしまうことでしょう。また、私物の領収書であれば、「領収書そのもの」は本物ですから、それだけでは「本物」としてすり抜けてしまいます。この場合は、「申請内容」「用途」に偽装があるわけですから、そちらのほうもAIで網羅していかないと、自動での不正の検知は難しいと思います。


電卓や表計算ソフトとAIは用途が全く同じではない

経理業務を知らない人からすると、経理は「単に証憑を集計すればいい仕事」ととらえている人も多いので、電卓や表計算ソフトなどの機械の延長線上でAIについても活用の仕方を考えてしまいがちです。しかし、私はAIというのは、それらとはカテゴリーが若干違うのではないかと考えています。そのため、アプローチの仕方を間違えると、AI自体は素晴らしい機能や将来性を持ちながらも、活用方法の違いで、AIの出す成果が限定的、中途半端になってしまったり、人間が作業をしていた時よりも、不正なども簡単にすり抜けさせてしまう、といったりしたことも起こりうると考えています。

経理作業のフローの「どこにAIを置くのか」そして「AIのどの作業部分は人間がフォローしてあげるべきか」ということ自体も非常に重要なポイントであり、そうした課題を認識、解決できる能力が経理社員には今後求められていくのだと思います。

不正はそもそも「啓蒙」「教育」の不足から発生する

また、それ以前に、そもそも「なぜ不正をしてはいけないのか」という教育、啓蒙も重要です。これはAIにはできません。ビジネス書では、「経営者が不正をする」という前提で書かれているビジネス書はまずありません。なぜなら、その前提条件を入れてしまうと、本として成り立たなくなってしまうからです。しかし現実には経営者が不正をしていることもあります。「いい大人」に、「悪いことをしてはいけません。だから経理の申請はきちんとしてください」というのも、経理担当者としては、言うのすら惨めな気持ちになるのではないでしょうか。それに、そんなことは「わかっていてやっている」わけですから、善悪の判断が発展途上でいたずらをしている幼い子供とは違うアプローチで啓蒙、教育をしないといけません。

不正で小遣い稼ぎしたところで、結局「ブーメラン」になるだけ

会社でなぜ不正の申請をしてはいけないのか。経理的なアプローチでいえば、それは「正しい経営判断ができなくなる」からです。

なぜ正しい経営判断ができなくなるのか、それは経営判断が、必ず決算書などの数字を見た上で行われるからです。だからその材料である決算書の数字の中身が不正まみれの申請でぐちゃぐちゃになっていると、経営者が間違った数字を見て経営判断をしてしまうため、結果的に会社は間違った経営判断を推し進めることになり、正しくない方向へ進んでいきます。その結果、会社の業績も下がり、給与も下がりリストラも行われ、ブーメランとして社員に返ってきます。

「お小遣い稼ぎ」のつもりでやっていた不正が、そのことが原因で会社全体の業績が下がり、自分のメインの給与や賞与の金額を下げてしまう、あるいは失うことにつながるのです。だから会社での不正はやめておいた方がいい、と、私は不正をしてはいけない理由を社員にご説明します。そして、経営者が不正をしている場合、それは、その経営者が決算書などの「数字」を見ずに経営判断をしているという証拠です。直感と過去の経験だけで経営判断することほど恐ろしいものはありません。

人は誰でも勘違い、思い違いなどのケアレスミスがある生き物です。自分の「直感と経験」と「客観的な数字」の突合が、「間違いのない経営判断」には必須です。

人間が教育、啓蒙に時間を割くためにはITの力は必要

経理というのは、このような「本質」を啓蒙する部署でもあります。

そのためには、なるべく「経理処理だけ」で1年を終わらせるのではなく、機械化できる処理は機械を取り入れ、AIで判別できるものはAIにお願いして時間を作り、人間の経理社員でしかできないことに時間を割くことも健全な会社を構築する術なのではないかと思っています。

筆者プロフィール

前田 康二郎(まえだ こうじろう)

流創株式会社代表取締役。エイベックスなど数社で管理業務全般に従事し、サニーサイドアップでは経理部長として株式上場を達成。その後中国・深センでの駐在業務の後、独立。現在は利益改善、コンプライアンス改善、社風改善の社員研修、コンサルティング、講演、執筆活動などを行っている。著書に『メンターになる人、老害になる人。』(クロスメディア・パブリッシング)、『社長になる人のための経理とお金のキホン』(日経BP 日本経済新聞出版)、他多数。

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