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AIやITで、経理は本当になくなるのか?~共存する人とAIとIT~第4回 AIで選別されるのは、「職業」や「職種」ではなく、「人間性」
職場のAI化で、人間性がより重要視される
「 AIによってさまざまな仕事がなくなる=その仕事に就いている人も必要なくなる」と、よく言われます。しかし私は、現実世界というのはそのような理屈とは違い、実際にはそこまで仕事と人は紐づいていないと思います。なぜなら、優秀な人はもちろんのこと、お互いに相性の合う人、会社に居てもらってプラスになるだろう人には、社長も管理職も社員も皆、仮に「一緒に働き続けたい人」の仕事がAIで代替可能になったとしても、「じゃあ、今度は別の仕事をお願いしていい?」となるだけで、その人に辞めてもらおう、という発想にはならないからです。
反対に、その人のことは好きではないのだけれど、仕事上、居てもらわないと困るから仕方なくやってもらっているというケースであれば、その人の仕事がAIでも代替できるようになったら、誰も引き留めず「お疲れ様でした」となってしまうかもしれません。
このように考えると、 AIの時代に私達があらゆる職場で生き残り続けるには、 AIに負けない頭脳を鍛える、処理能力を持つ、というアプローチで対抗するのではなく、別の側面からのアプローチが必要になるとも考えられるのではないでしょうか。
経理でいえば、純粋な集計能力などに関しては、最初は経験値で人間が勝っていたとしても、学習機能のあるAIが経験値を積み上げていけば、AIのほうがいずれ早く処理できるようになっていくでしょう。最終的には、どちらがコスト的に会社にとってペイするかの問題になってくると思います。ですから、 AIが得意そうなジャンルで対抗するのではなく、 AIにはできない業務を洗い出して、その部分のスキルをしっかり伸ばすことで自分の場所を確保する、というアプローチが良いはずです。その一つが「判断能力」だと私は思います。
社員からの経理に関する質問にどのように応対しているか
たとえば、社員から経理宛てに来る質問への応対があります。簡単な例として「領収書をなくしてしまったのですが、経費精算の処理はどうしたらいいですか?」という質問があるとします。
この場合、応対の仕方はおおまかに三種類あると思います。
- 面倒でも先方に連絡して領収書を再発行してもらうように依頼をしてもらう。
- 金額が少額でかつ先方から再発行してもらうにも手間やお金がかかるようであれば、社内の出金伝票に記入して、上司の承認をもらって経理に回覧してもらい、それで代用する。
- いかなる理由を問わず、領収書が出せないものは原則受け付けず自己負担とする旨伝える。
現実世界では「1」「2」「3」どれも可能性があり、併用している会社が多いのではないかと思います。
たとえば飲食費の領収書であれば、金額の大小によってその判断も分かれることでしょう。数万円の領収書であれば、発行した側もそれなりの格式のある店でしょうから、再発行をしてもらいやすい環境が整っているでしょうし、金額自体も高額ですので、再発行してもらったほうがいいと判断する会社が多いでしょう。一方、コーヒーチェーン店の600円の領収書をなくしてしまったというのなら、店側の手間や金額などを鑑みて、社員に「次回からは気を付けてください」と指導した上で、社内の出金伝票で処理することもあるでしょう。また、金額の大小に関係なく、しょっちゅう領収書を紛失するような社員から、「また失くしちゃったんですけど」という、反省の色が伺えない場合は、本人の上司にも同意を得て、領収書を出せない限り自己負担としてしまうこともあるかもしれませんし、経費精算の申請そのものを今後させないという判断をすることもあるかもしれません。
これらの「判断後」の設定を、人間が機械に落とし込んで管理をすることはできるかもしれませんが、「判断そのもの」をAIに委ねて、会社の意向に合う完全に正しいジャッジメントをしてもらうということは、かなり難しいと思いますし、現実には人間が判断を行ったほうが、早く、正確で、コストも見合うのではないかと思います。このような業務やシチュエーションは、一見、正解が常に一つしかないように思える経理の仕事の中にも相当数ありますし、他の職種も同様です。
職場全体のことを考えた上で、その場その時に応じた最適解を提示してくれる人は、周囲から見ても「臨機応変な対応ができる人」「融通が利く人」として認知され、必要とされ、頼りにされます。それは人間だけでなく、AIにとってもそうです。AIは自分を設定してくれる人が優秀であればあるほど能力を発揮するからです。「人間にもAIにも頼られる人」、というのをイメージすると「将来にわたり、誰からも需要があり続ける人」にもなれるのではないでしょうか。
「最適解」は「適解」を二つ以上持っている人からしか生まれない
では、このような「臨機応変な対応」「融通が利く」人になるためには、何が必要とされるのでしょうか。それは、どのような仕事においても、「適解」を何パターンも持つ、ということだと思います。
真面目に仕事をしているのに「融通が利かない」と思われてしまう人がいたら、それは答えや解決法を一つしか持っていないからです。どのような仕事においても、答えや提案を二つ以上持っていれば「どちらにしましょうか」、と相手に「融通」をきかせられます。それが、「臨機応変な人」「融通が利く人」という評価にかわるのです。
職場における「人間性が豊か」に見える人というのは、どのようなトラブルや緊急時でも、答えを何パターンも持っていて、誰もが納得する解決法を常に持っている人ともいえます。高圧的にもならず、ヒステリックにもならず、取り乱したりもせず、余裕のある対応ができ、それを周囲が「頼りになる」「これからも一緒に働き続けて欲しい」「この人の能力はAIでもかなわない」となっていくのだと思います。
他者の視座に立てば、最適解につながる新たな答えや解決法が見つかりやすい
どのような仕事も「答えや解決法は一つしかない」と思わず、「ひょっとしたら別のやり方や答えがあるかも」という日々の意識が、どのような時代になっても、求められる人材で居続けられるのではないかと思います。経理の理屈から見たら「どうしても答えが一つしか見つけられない」と思えるようなものは、「現場から見た経理」、「経営者から見た経理」、「会社全体から見た経理」、それぞれの視座から見ると、新たな答えや解決法などの「適解」が見つけやすくなると思います。
筆者プロフィール
前田 康二郎(まえだ こうじろう)
流創株式会社代表取締役。エイベックスなど数社で管理業務全般に従事し、サニーサイドアップでは経理部長として株式上場を達成。その後中国・深センでの駐在業務の後、独立。現在は利益改善、コンプライアンス改善、社風改善の社員研修、コンサルティング、講演、執筆活動などを行っている。著書に『メンターになる人、老害になる人。』(クロスメディア・パブリッシング)、『社長になる人のための経理とお金のキホン』(日経BP 日本経済新聞出版)、他多数。
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