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AIやITで、経理は本当になくなるのか?~共存する人とAIとIT~第3回 どの職種にも、単純作業とクリエイティブな作業がある
2015年のAIの共同研究、10年後になくなる仕事の一つとして経理作業者も挙げられていました。現状、2025年までに経理がなくなるのは難しいようです。この連載では、AIをはじめとした IT技術でできる経理業務とできない業務の具体的な境界線、また、100%IT、100%人間、ではなく、「共存」が実務上重要であるという内容を、「フリーランスの経理部長」としてコンサルティング業務を行う前田 康二郎氏が連載していきます。今回は第3回「どの職種にも、単純作業とクリエイティブな作業がある」を解説させていただきます。
どの仕事にも「単純作業」と「クリエイティブな作業」が混在している
世の中には「経理業務は単純作業」「デザインはクリエイティブな作業」など、仕事の内容について安直に分けて考えてしまう人がいます。
しかし、デザイナーなどクリエイティブ系の知人達に聞くと、「やり方さえ知っていれば、誰でもできる作業工程はデザインの中にもありますよ」と言いますし、反対に、経理にも、皆さんおわかりのように予算策定の方法や新規事業に関するお金のフローの立てつけなど、想像力を必要とする仕事はあります。極論を言えば、単純作業の中にさえ、「この業務はもっとこうすれば効率が良くならないか」という「クリエイティブな発想が必要な部分」が、本来あるはずです。
つまり、どの職種にも「単純な作業」と「クリエイティブな作業」があり、そして、それを実践する人としない人がいます。経理業務であってもデザイン業務であっても、それらのうちの単純作業の部分だけを、特に改善提案することもなくただひたすら繰り返していたら、それは経理やデザインといった職種に関係なくその部分の仕事はAIで代替されてしまう可能性はあるでしょう。職種ではなく、その人の仕事のやり方、取り組み方のほうが重要なのだと思います。
「10$」は、どこの国の領収書?
たとえば経理の仕事では、経費精算のうち、国内の電車代などの処理は単純作業に該当するでしょう。
一方で海外出張などの海外の経費精算の場合は、諸経費の精算の際のレート計算の設定や処理、チップの有無への対応など、たったそれだけのことでも、完全自動化(無人化)へのハードルは一気に高くなります。そしてまず海外の領収書を画像認識などで読み取るだけで、それが「どの国のものか」を判別できるか、ということが処理上、必要になってきます。仮に領収書に「$」の表示がある領収書だったとしましょう。単純にすべてがアメリカドルとはかぎりません。それがアメリカドルなのか、シンガポールドルなのか、オーストラリアドルなのか、ニュー台湾ドルなのかといった、どの「$」なのかが判別できなければならないのです。それは今後いくら技術が発達してもハードルは高いと思いますので、それを回避するためには「仕組み作り」が必要になってくるでしょう。
たとえばアメリカに出張に行った、という前提条件を申請時に入力することで、そこで取り込まれる領収書は全てアメリカドルの領収書だ、という仕組みを作れば、数字の認識だけできればOK、というようにするなど、完全無人化ではなく、「人間の知恵+デジタル」の発想のほうがより早く完成形に近づいていくのではないかと思います。
人間の補助を前提としたAI
このように、「経理」という仕事も、AIが代替することで簡単に無人化できる作業フローはまだまだ限定的なのが現状です。 AI関連の会計ソフト開発も、経費精算レベルのものから先に進むことが難しいのは、こうした一つひとつの課題を完全にクリアして一歩ずつ進んでいかないといけないからでしょう。
「AIによって経理は要らなくなる」という真偽がわからならい情報を100パーセント鵜呑みにしてしまい、「経理ってその程度の単純な作業らしい」というスタンスで経理用のAIシステムの研究開発を進めてしまうと、おそらくこうした「選択処理」、あるいは「例外処理」というものをどう解決するのかということが、開発の都度、壁として立ちはだかることでしょう。
「経理業務をAIで代行し、組織の生産性を上げる」ことを目指すのであれば、業務まるごとをAIに代替させて無人化する、というアプローチではなく、「経理業務の、このフローの、この部分」というように、「かなり限定して」部分導入できる部分を洗い出し、そこからアプローチをして徐々に範囲を広げていったほうが、現実的であり、導入や浸透も早く進むのではないかと思います。
もし私が予算を持たせてもらえ、経理関連のソフトウェアの研究開発をして良いと言われたら、膨大なコストを使って業務まるごとを代替するようなアプローチではなく、まず少額の研究開発費用で、「経費精算の作業工程のこの部分だけ」「請求書発行の作業工程のこの部分だけ」というものを、こまごまと開発して、「人間の補助」を前提とした製品を作ると思います。そのほうが、各会社で必要なものだけ部分的に導入でき、管理コストも抑えられ、それが実際に有効活用できれば、「AIって結構使えるね」となり、普及もしやすいのではないかと思います。実際に便利さを実感できないと、会計ソフトそのものは既に各会社にあるものなので、新たに購入というところまで行くのは難しいのです。
シンプルな収益構造の会社にはAIは相性が良い
一方で、フリーランスや少人数の会社など、売上や費用の内容がスタンダードなものしかない場合、また海外の売上や費用の発生がなく、国内の一般的な売上や経費しかない会社の場合など「インプットする情報そのものにイレギュラーなものが限りなく少ない場合」は、処理上エラーの出る可能性も低いはずなので、無人化までは難しくても、自動化はかなりできるのではないかと思います。現実のAI機能を搭載した会計ソフトを導入している顧客 層もそうした層が現状中心であることからも、この組み合わせは有益であると思います。
筆者プロフィール
前田 康二郎(まえだ こうじろう)
流創株式会社代表取締役。エイベックスなど数社で管理業務全般に従事し、サニーサイドアップでは経理部長として株式上場を達成。その後中国・深センでの駐在業務の後、独立。現在は利益改善、コンプライアンス改善、社風改善の社員研修、コンサルティング、講演、執筆活動などを行っている。著書に『メンターになる人、老害になる人。』(クロスメディア・パブリッシング)、『社長になる人のための経理とお金のキホン』(日経BP 日本経済新聞出版)、他多数。
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