新規CTA

更新日:

AIやITで、経理は本当になくなるのか?~共存する人とAIとIT~第2回「AIに利用される側でなく、活用する側に立つ」

meo220201_img01_pc.jpg
meo220201_img01_sp.jpg

2015年のAIの共同研究、10年後になくなる仕事の一つとして経理作業者も挙げられていました。現状、2025年までに経理がなくなるのは難しいようです。この連載では、AIをはじめとした IT技術でできる経理業務とできない業務の具体的な境界線、また、100%IT100%人間、ではなく、「共存」が実務上重要であるという内容を、「フリーランスの経理部長」としてコンサルティング業務を行う前田 康二郎氏が連載していきます。今回は第2回「AIに利用される側でなく、活用する側に立つ」を解説させていただきます。

デジタル化が進んでいるのに、なぜか人手不足

私達はメディアなどに流れる「 AI的」な情報そのものの「信ぴょう性」と、現実との「乖離」 を常に確認する必要があります。そうしなければ「将来なくなる仕事、それは経理」という事実かどうかわからない情報に、常に右往左往しなければならなくなるからです。

もしそれが事実であるならば、経理社員は新たな能力を急いで養う必要や他の職種への転職の必要があることでしょう。もしそれが事実ではない、憶測にすぎないものであれば、むしろ経理の職種に留まっていたほうが、逆に情報に翻弄されて経理の仕事を離れていった人が増えれば増えるほど競争相手は減りますから「人間の経理社員の価値」は市場では貴重な存在としてこれまで以上に高まっていくこともあります。

実際に、これほどデジタル化が進み、経理も効率化と言われている中で、むしろ「知り合いに優秀な経理の人材、誰かいませんか」とクライアント先から聞かれることが年々増えてきています。私なりにこの現状を分析すると、あまりにも「事務職は将来なくなる」というあやふやな情報が近年世間に蔓延したため、それに扇動された若者が事務職への就職を避け横文字職種、カタカナ職種に流れるようになり、事務職員全体の人口が減ってしまっている反面、会社の数はもちろん畳む会社もあるでしょうが、これからも毎年多くの会社が起業し続けるわけですから簡単にはトータルの数としては減りませんし、効率化、自動化はできても無人化はできないため、このような現象が起きてしまっているのだと思います。

「欲しい人材の要件」はどの会社も一緒

もう一つは、「欲しい人材はどの会社も一緒」ということです。

「優秀な人材が欲しいという『優秀』というのは具体的にどのような人材ですか」と尋ねると、「自分一人で月次決算をこなした経験があって、マネジメント経験もできればあったほうが。あと、予算や資金繰り表も作れて税務調査や監査対応などもないよりあったほうがいいかな。あと人間性もいいと…」というオールラウンダーを希望される会社がほとんどです。そしてシンプルな仕訳入力など、デジタル化できる分野ではなく、デジタル化が現状完全にはできない、一定レベル以上の経理業務ができる人をどの会社も求めています。そう考えると「一定レベル以上の経理社員」というのは、デジタル化、AIが業務に躍進してきてもまず生き残っていくのではないかと思います。

自分が優秀なのか、会社の仕組みが優秀なのか

一方で、面接に立ち会っていて「悪くはないのだけれど、いいな、とまでは……」という人について考えてみると、たとえば業務内容が「データを取りまとめていただけ」というような「中間作業的」な立場や業務スキルの人の場合、「その人自体が優秀なのか、それともその会社のシステムや仕組みが優秀なのか」という判別がしにくいことがあります。そして、もしその人が優秀だったら、そんな中間作業的なことではなく、判断が必要な仕事も任せてもらえていたのでは、と採用面談側が勝手に推測してしまう部分もあります。

実際にAIがなくても、多くの会社では、表計算ソフトや会計ソフトによってかなり単純作業は今日の時点でも簡略化されています。それらのツールを使ってただ作業をしているだけなのか、それともその簡素化した仕組み自体をその人が考えて作ったのか、ということだけでも能力の差や評価はかなり違ってきます。前者の場合、結果を出しているのは、その人というより、表計算ソフトや会計ソフトになります。一方で後者の場合でしたら、採用する価値ありと判断されることが多いと思います。


AIの上に立つ人、AIに支配される人

AIが経理業務にどこまで浸透し、活用できるかというのは、未知数な部分が多々あります。ただし、経理で生き残る人とそうでない人の差をはっきりセパレートする基準になるのがAIではないかと私は思います。

経理業務には、仕訳入力などのような直線的な作業と、申請の抜けがないかチェックをしたり、全体の取りまとめをしたりといったような非直線的な業務があります。「経理がAIでなくなる」と主張する人の発想は、「経理業務=簿記の範囲内での処理だけ」、つまり経理には直線的な仕事しかないと思っている人だと思います。それを一例として現実にたとえれば、「自分の机の上にポンと置かれた領収書や請求書だけをただ処理する人」「自分宛てに届いた電子データの領収書や請求書だけをただ処理する人」ということでしょう。その場合は、AIが進化して経理業務にも入り込めるようになってきたら、AIが代替できてしまう可能性は高くなると思います。

一方で、「自分の手元に来ていない領収書や請求書や電子データ」は、本当に「来ない」「存在しない」ということで問題はないのか、というアプローチで仕事をする経理社員もいます。

実際に月次決算が早く正確な会社というのは、この視点を持った経理社員が多く存在します。なぜなら、月次決算が遅い会社というのは、その理由の一つに、一度月次決算を締めた後に、現場から申請漏れの高額な売上請求書や支払請求書、出張精算、仮払精算などが上がってきて、何度も原価計算からやり直しをする、ということがあります。「本当に現場はだらしないんだから…」と言う経理社員もいますが、本来はそうではなく、現場でどのような案件が今動いているのか、社員が今どのような動きをしているのかを常時把握していれば、「今月から新規のクライアントと契約しているって聞いてるけど売上請求書の申請が出てないけど大丈夫?」「この間出張行っていたよね?精算まだだと思うけど」と、極力申請漏れを最小限に防ぐアプローチで仕事をしているので、月次決算のやり直しを極力せずに済みます。

このような業務も実際には経理業務の一部です。これをAIで全て網羅しようとすると開発費用は莫大にかかるでしょうから実際にはビジネスとしてはペイしない、つまり実用化は難しいことでしょう。ただし、全てではなくその一部、たとえば「『先月発生した案件が今月は来ていないけれど、それは大丈夫?』という、発生した事実があるものに対してのアラーム(警告)はAIで設定すればやってもらえそうだよね」というアレンジは可能なはずです。このように「AIを手の内に入れて使いこなす人」の立場になれば確実に生き残ることはできると思います。そのためには普段から、目の前にある伝票を処理するような可視化された業務だけでなく、目の前にないものを想像、想定する「想像業務」を常に心がけているかという視点が重要だと思います。

反対に、「自分の目の前にあるものだけを処理すれば、その前後のことなどは自分の知るところではない」という働き方であれば、AIのほうがコストも安くなる可能性が高まりますから、AIに代替されてしまう、あるいは「AIの手先となって動かされる人」になる可能性が高まります。仕事の内容も、経理知識すら必要のない整理作業、入力作業の担当などになっていき、専門的スキルが必要なくなる分、待遇も悪くなっていくと思います。この「格差」は、これから大きくなっていく可能性はあると感じています。


避けずに積極的に関わっていくことでAIを手の内に入れる

AIに使われる側ではなく、使う側にまわるためには、デジタル化を避けるのではなく、自分から掴み取りに行くイメージで、新しいソフトウェアにも積極的に向き合ってみるのもいいのではないかと思います。

筆者プロフィール

前田 康二郎(まえだ こうじろう)

流創株式会社代表取締役。エイベックスなど数社で管理業務全般に従事し、サニーサイドアップでは経理部長として株式上場を達成。その後中国・深センでの駐在業務の後、独立。現在は利益改善、コンプライアンス改善、社風改善の社員研修、コンサルティング、講演、執筆活動などを行っている。著書に『メンターになる人、老害になる人。』(クロスメディア・パブリッシング)、『社長になる人のための経理とお金のキホン』(日経BP 日本経済新聞出版)、他多数。

前田 康二郎 氏 連載記事

新規CTA

※本記事の内容についての個別のお問い合わせは承っておりません。予めご了承ください。