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病気の療養と就労の両立支援についてVol.2

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2020年をふりかえると、コロナ禍でさまざまな混乱が起きつつも、一人ひとりが心身の状態に意識を傾けるようになった時期とも言えます。今回は、前回に続いて「治療と職業生活の両立支援(治療を必要とする従業員の就労の継続による病状悪化を回復し、企業も適切な措置によって治療に対する配慮を行なおうとする動き)」について、ケースに分けてご紹介したいと思います。

ぜひ、職場で必要な方がいたら、これらをお見せいただければと思います。


治療と就労の両立支援を考える上でおさえておくべき言葉

今回ご紹介する各ケースの中で用いられている言葉の解説です。専門用語ではありますが、知っておくことで、万が一の時の解決策を考える幅が広がりますので、頭に入れておいていただければと思います。

  • 保健福祉センター:地域の保健(公衆衛生)活動の中心となる行政機関。難病相談、不妊相談等の各種相談や、児童虐待相談、DV相談等の福祉に関する相談に対応。
  • 基幹相談支援センター:地域の相談支援の拠点として総合的な相談業務(身体障害・知的障害・精神障害)及び成年後見制度利用支援事業を実施。
  • 団信(団体信用生命保険):住宅ローンの返済中に万が一のことがあった場合、保険金により残りの住宅ローンが弁済される保障制度。
  • 傷病手当金:病気休業中に被保険者(従業員)とその家族の生活を保障するために設けられた制度。被保険者が病気やケガのために会社を休み、会社から十分な報酬が受けられない場合に支給される。
  • 高額療養費制度:同一月(1日から月末まで)にかかった医療費の自己負担額が高額な負担となった場合、のちほど申請して自己負担限度額(年齢・所得状況等によって設定)を超えた額が払い戻される制度。
  • 限度額認定証:高額療養費制度を利用するために申請し、交付されるもの。健康保険証と共に医療機関の窓口に提出する。

以下で、家庭の状況に応じてケース分けして対応策をご紹介します。

※「一人暮らし・独身」と「既婚者(子供なし)」の場合はいずれのケースも目を通していただくと良いでしょう。

一人暮らし・独身のケース

<本人が自力で生活可能できる場合>

:まずは、体調と仕事量がこなせるか様子をみましょう。
:そして、医師に仕事量の調整が必要か相談しましょう(障害認定が取れるかどうかも確認)。
:会社にも相談すると共に、家族の協力が得られるか確認します。

<自力での生活が困難な場合>

:実家に帰るかどうか検討しましょう。
:一人暮らしを続ける場合は、医療・福祉制度が使えるか確認します(各市町村の保健福祉センターまたは基幹相談支援センター)。
:生活環境を整えられる見通しが付いたら会社と相談します。
:40歳以上であれば介護保険の利用を検討します。

※介護保険=40~64歳でも、16種類の特定疾病で介護や日常生活の支援が必要になった場合要件を満たせば介護保険は利用できる。
(特定疾病=末期がん、関節リウマチ、筋委縮性側索硬化症(ALS)、骨折を伴う骨粗鬆症、糖尿病性神経障害、脳血管疾患など)

<障害認定が利用可の場合>

:1年6か月経過後に障害認定が取れるか医師に確認→障害者手帳の取得→障害年金申請→障害者サービス利用申請

まずは病院の医療相談員に相談してみましょう。また、会社では、本人および家族の相談先をつくることも重要です。

ご本人にとって、職場が一つの居場所・コミュニティとして作用していれば、心理的安全性が働き、このような大変な状況の中でも「何かあったら相談してみよう」「万が一に備えてこの点は話しておこう」と開示・共有することができ、ご本人の安心にもつながります。日頃からお互いの関わりを大切に、信頼関係がある職場づくりを心掛けてゆきましょう。


既婚者(子供なし)のケース

<本人が自力で生活可能な場合>

:まずは、体調と仕事量がこなせるか様子をみましょう。
:配偶者の収入を見込めると思われますが、介護の領域に入るため、家庭内での準備は必要です。
:医師に仕事量の調整が必要か相談しましょう(障害認定が取れるかどうかも確認)。
:会社と相談します。
:40歳以上であれば介護保険の利用を検討します。
:経済的な補助を受けられるかどうか、受けるかどうか、確認します。

<自力での生活が困難な場合>

:経済的な補助を受けられるかどうか、受けるかどうか、確認します。
:障害認定が受けられない間は、医療(保険)サービスを活用します。
:どこまで回復するか、リハビリなどに取り組みます。
:障害認定が下りるまで持ちこたえます。
:若年層は貯蓄の準備が整わないことも多いので、できるかぎり経済的な制度は利用しましょう。
:病気の種類が定まったら、高額療養費制度を活用し、限度額認定証の利用も検討します。

<障害認定が利用可の場合>

:1年6か月経過後に障害認定が取れるか医師に確認。
:障害者手帳の取得
:障害年金申請
:障害者サービス利用申請

まずは病院の医療相談員に相談してみましょう。また、会社では、本人および家族の相談先をつくることも重要です。

「ES」と共に「FS(家族の満足)」という言葉もあります。このケースに限らず、ご本人の家族も大きな不安を抱えながらこれからの期間を過ごすことになりますので、「何かあればいつでも相談してね」という窓口を設けて家庭内だけで不安を抱え込まないような体制を創っておきましょう。


既婚者(妻・子供あり)のケース

<本人(夫)へのサポート>

:本人が家計の中心である場合が多く、急速に経済的な悪化が進むと予想されます。まずは経済的な安定の確保が最優先です。
:本人の障害認定が下りるまでの対応を検討します。
:病気の程度により、どのくらい仕事量が保てるか、経済的なサポート(傷病手当金、団信など)を利用できるか確認します。
:40歳以上ならば介護保険の利用を検討します。
:65歳未満で、障害認定が下りたら、障害者サービスの利用を検討します。

<妻へのサポート>

:妻に限定した制度的なサポートは特にないが、夫名義の住宅ローンなどがあれば団信でローンの免除申請を行なうと良いでしょう。
:仕事を探すというすべもあります。
:仕事・家事・育児・介護が全て妻の采配にかかるので精神的負担が増加します。各制度の相談窓口・相談員を活用し、負担を軽減しましょう。
:会社で相談できる窓口を決めましょう。

<子供へのサポート>

:本人の障害が重度であれば児童扶養手当の申請をします。
:家計急変であれば、各学校で救済措置(教育給付申請など)があるので、確認してみましょう。
:進学・入学金など時期により大きなお金が必要な場合は、福祉貸付を利用し、借金を大きくしない工夫をします。進学をあきらめず、国の制度など活用しましょう。

相談先は他のケースと同様ですが、未就学児がいる場合は、市町村の子ども家庭課(地域により名称異なる)に相談すると良いでしょう。

経済的困難が生じた場合、一つの家庭の中でも子供のことも含めるとさまざまな情報が必要となります。不安が大きい中ではありますが、一つひとつ情報を集め、解決策を探ってゆくと良いでしょう。


既婚者(夫・子供あり)の場合

<本人(妻)へのサポート>

:本人が正社員かパートかで対応が異なります。正社員の場合は「既婚者(妻・子供あり)」に準じます。パートの場合、社会保険に加入しているかどうかで経済的支援(傷病手当金等)が受けられるか変わります。社会保険に加入していない場合でも、見舞金などが申請できる場合があるので確認してみましょう。
:40歳以上ならば介護保険の利用を検討します。
:65歳未満で、障害認定が下りたら、障害者サービスの利用を検討します。

<夫へのサポート>

:夫に限定した制度的なサポートは特にないが、仕事と家庭・育児の両立が難しいことも多いので、心配な場合は市町村の子ども家庭支援課(地域により対象異なる)に相談しましょう。
:夫が調理できない場合は、外食・惣菜の利用が増えて家計が悪化することもあるので、注意しましょう。
:男性は家庭内の困難を外部に相談しない傾向があるため、家庭崩壊が起きやすいと言えます。周囲からマメな声がけを心掛けましょう。

<子供へのサポート>

:妻の障害が重度であれば児童扶養手当の申請をします。
:家計急変であれば、各学校で救済措置(教育給付申請など)があるので確認しましょう。
:進学・入学金など時期により大きなお金が必要な場合は、福祉貸付を利用し、借金を大きくしない工夫をします。進学をあきらめず、国の制度など活用しましょう。

相談先は他のケースと同様ですが、未就学児がいる場合は、市町村の子ども家庭課に相談すると良いでしょう。


まとめ

以上、ケースに分けてご紹介させていただきました。

各種制度は複雑なため、各家庭で調べるよりも、専門窓口・専門家につなげる方が早く手を打てます。しかし、日本では縦割りになりがちで、また、会社が業務の傍ら対応するにも限界があります。病院や行政では補いきれない総合的な相談窓口として独立系社会福祉士事務所に頼み、いろいろな制度のコーディネートをお願いしてみても良いでしょう。費用はかかりますが、結果的には家族の負担を軽減し、早く安定した生活を確保できるので、おすすめです。


筆者プロフィール

金野 美香(きんの みか)

有限会社人事・労務 ヘッドESコンサルタント
厚生労働省認定CDA(キャリアデベロップメント・アドバイザー)
一般社団法人 日本ES開発協会 代表理事\

福島大学行政社会学部卒業後、有限会社人事・労務にて、日本初のES(人間性尊重経営)コンサルタントとして、企業をはじめ、大学、商工団体で講師を務めるなど幅広く活動する。“会社と社員の懸け橋”という信念のもと、介護事業所や福祉施設、製造業、サービス業などさまざまな中小企業でのクレドづくり・ES組織開発に取り組む。また、「日本の未来の“はたらくカタチ”をつくる」をテーマに、社員一人ひとりが地域社会との接点を持ち共感資本を高めるための活動を推進。自律心高い越境人材の育成や地域活動プロジェクトの運営などに力を入れ、ESを軸にコミュニティ経営の視点を中小企業で実践し、高い評価を得る。
宮城県仙台市生まれ。「東北の土地の記憶を知ること」「働く犬の研究」がライフワーク。

主な講演実績・著書等

  • 社会によろこばれる会社のためのESを軸とした組織づくり (熊谷法人会、上尾法人会)

  • キャリアデザイン入門 (日本大学法学部)

  • シゴト選びのモノサシを変える!新しい一歩を踏み出すキャリアデザイン講座(東北芸術工科大学)

  • 『人財経営実践塾』愛社精神溢れる-体感経営~ES(従業員満足度)が会社を伸ばす~ (ふくいジョブカフェ)

  • 対話の習慣を軸とした自律型人材育成法/ESを軸につながりを大切にする経営/新任管理職の為のリーダーシップ強化セミナー(ヒューマンリソシア「定額制公開講座ビジネスコース」)

  • イノベーションを巻き起こすES向上型人事制度 (ピーシーエー株式会社)

  • 千葉県指定工場協議会 第三ブロック向けセミナー~今日からすぐに始められる会社が元気になる7つの施策 (あいおいニッセイ同和損害保険株式会社)

  • 後継者向けESマネジメント研修 (あいおいニッセイ同和損害保険株式会社)

  • 人と環境と社会にやさしい社内体制の作り方セミナー~グレートスモールカンパニーが社会を変える!~ (日本ES開発協会)

  • 若手社員の採用と定着を上手に行う秘訣 (常陽産業研究所)

  • ES型人事制度構築のポイント (淡路青年会議所)

  • 「共感資本時代のリーダーはここが違う」(株式会社USEN)・・・他


  • 『ニュートップリーダー』「はたらく個も、組織も輝く経営」(日本実業出版社)
    2013年7月号:「独自に定めた「旅籠三輪書」を軸に地域のつながりを重視した変革に挑む-HATAGO井仙」
    2013年8月号:「本業を通した社会貢献」を掲げ、地域のつながりの基点となる-株式会社大川印刷」

  • 「人材アセスメントの時代」連載 (フジサンケイビジネスアイ)

  • 『ESクレドを使った組織改革』(税務経理協会)

  • 「従業員のモチベーションアップに役立つ社内コミュニケーション」(日本経団連事業サービス)

  • 『ESコーチング&ESマネジメント 感動倍増組織のつくり方』(九天社)

  • 『儲けを生み出す人事制度7つの仕組み』(ナナブックス)

  • 『社員がよろこぶ会社のルール・規定集101』(かんき出版)

  • 『今から間に合う! 小さな会社の働き方改革対応版 就業規則が自分でできる本』(ソシム)1

  • 「人事労務のいろは」連載(東商新聞)

  • 『労務事情』「人事労務相談室」連載(株式会社産労総合研究所)

  • 『月刊総務』(株式会社ナナ・コーポレート・コミュニケーション)

  • 『ニュートップリーダー』「ES経営が会社を伸ばす」(日本実業出版社)
    2010年2月号:「社員がここにいたいと思う会社にする-株式会社アドバネクス」
    2009年12月号:「患者の立場に立ってよりよい病院づくりをしたい-医療法人井上整形外科」
    2009年11月号:「印税を通して地域や社会に貢献したい-株式会社大川印刷」

  • 就活支援ジャーナル
    2014年10月15日「秋の内定をこうして勝ち取る!!」「企業人の視点 地域密着を果たし、社会を良くする企業に出合おう!」


金野 美香 氏 連載記事

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※本記事の内容についての個別のお問い合わせは承っておりません。予めご了承ください。