公開日:2021/09/01
令和3年度税制改正に伴い、今年から年末調整書類への押印が不要となった点を除くと、今年の年末調整は大きな改正点は見られません。
そこで、昨年の改正点を含め、年末調整のポイントを確認していきたいと思います。
令和3年度税制改正に伴い、今年の年末調整より従業員の方から提出を受ける下記の書類につき、押印が不要となります。
⑴ 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
⑵ 給与所得者の保険料控除申告書
⑶ 給与所得者の基礎控除申告書兼給与所得者の配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書
⑷ 住宅借入金等特別控除証明書(いわゆる「住宅ローン控除証明書」)
(なお、⑴~⑶の令和3年提出分書式は本稿執筆時点で未公開です。)
基礎控除額はこれまで収入・所得金額に関係なく一律38万円でしたが、平成30年度税制改正に伴い、令和2年からは一律48万円に引き上げられました。(住民税については33万円→43万円)
但し、合計所得金額(所得控除前の所得金額)が2,400万円~2,500万円の場合は控除額が逓減し、2,500万円超の場合は控除額がゼロとなります。
合計所得金額 | 控除額 |
2,400万円以下 | 48万円 |
2,400万円超2,450万円以下 | 32万円 |
2,450万円超2,500万円以下 | 16万円 |
2,500万円超 | 0円 |
基礎控除額の引き上げに対応する形で、平成30年度税制改正に伴い、令和2年より給与所得控除額が一律10万円引下げられる事になりました。
基礎控除額の引き上げを相殺する結果となりますが、これは基礎控除額引き上げの狙いが政府の「働き方改革」促進の観点から個人事業者を拡大するためとされています。
また、給与所得控除額は「高額給与所得者に対する控除額が過大である」という税制調査会の見解を受けて、平成25年以降段階的に上限額が引き下げられており、令和元年では給与年収1,000万円が頭打ちラインとなっていましたが、令和2年より頭打ちラインが850万円に引き下げられています。
このため、給与年収が850万円超の方は下記の「所得金額調整控除」の適用を受ける方を除いて、実質的に増税となります。(給与年収850円以下の方は今回の改正に伴う税額への影響はありません。)
(改正前): 給与収入1,000万円(控除上限額=220万円)<平成29年~>
(改正後): 給与収入 850万円(控除上限額=195万円)<令和2年~>
給与所得控除額の見直しに伴い、給与年収850万円超の場合は税負担が増加しますが、この年収帯の多くが子育て・介護世帯と見られる事に配慮し、一定の要件に該当する場合には給与所得控除額の増額調整が行われます。この場合には改正に伴う税額は改正前と同額になります。
① 要件
給与収入が850万円を超える居住者で下記のいずれかに該当する者
ⅰ 自身が特別障害者
ⅱ 年齢23歳未満の扶養親族を有する者
ⅲ 特別障害者である同一生計配偶者若しくは扶養親族を有する者
② 所得金額調整控除額
下記の算式により計算した金額を給与所得の金額から控除する。
(給与収入(1,000万円上限)-850万円)×10%=所得金額調整控除額
いわゆる「ひとり親」に対する税制上の措置として寡婦(寡夫)控除がありますが、
最近は「未婚のひとり親」も増加している事に対応し、令和2年度税制改正で同制度の抜本的見直しに加えて、あらたに「ひとり親控除」が創設されました。
従前の寡婦(寡夫)控除は、死別、離婚、生死不明の状態が要件となっており、未婚の場合は適用対象外となっていた事から、全てのひとり親家庭に対して公平な税制を実現する観点から、ひとり親控除が設けられました。(なお適用者については男女の性別を問いません。)
① 対象者
現に婚姻をしていない者又は配偶者の生死の明らかでない者で、下記の要件に該当す
る者
(イ)総所得金額等の合計額が48万円以下の同一生計の子を有すること
(ロ)本人の合計所得金額が500万円以下であること
(ハ)住民票に事実婚である旨の記載がされた者がいないこと
② 控除額
ひとり親控除の対象者の所得税、住民税の計算上、総所得金額等から下記の金額を控
除する。
所得税:35万円 住民税30万円
また、「ひとり親控除」の創設に伴い、寡婦(寡夫)控除については下記のとおり見直しが行われました。
(1)寡夫控除は廃止する(「ひとり親控除」に吸収)
(2)寡婦控除については、「ひとり親控除」の適用要件に該当せず、かつ下記の要件を満たす女性に対して適用する
(イ)夫と死別、離婚、夫が生死不明の状態であること(離婚の場合は、扶養親族を有すること)
(ロ)本人の合計所得金額が500万円以下であること
(ハ)住民票に事実婚である旨の記載がされた者がいないこと
なお、寡婦控除額(所得税27万円 住民税26万円)は従前とおりです。
配偶者のある給与所得者については、年末調整において「給与所得者の配偶者控除等申告書」を提出する事となっていますが、令和2年から「給与所得者の基礎控除申告書」と「所得金額調整控除申告書」が新たに加わっています。
これら2種類の新しい申告書については、従前の「給与所得者の配偶者控除等申告書」と一体化し、「給与所得者の基礎控除申告書兼給与所得者の配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書」という新様式となっています。
なお、同申告書は基礎控除額の適用判定にも利用されるため、配偶者のいない給与所得者も提出の必要があります。
従って、今年の年末調整時においては、従業者の方に下記の3種類の書類を提出して頂くことになります。
(1)令和4年分給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
(2)令和3年分給与所得者の保険料控除申告書
(3)令和3年分給与所得者の基礎控除申告書兼給与所得者の配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書
(いずれも本稿執筆時点で書式未公開です。)
今年は昨年のような大幅な改正はありませんでしたが、従業者の方から提出を受ける書類への押印が省略されたことは、事務簡略化の観点から大きいと思います。
東政府系機関勤務を経て2010年税理士登録。
京税理士会芝支部所属。
「若いお客様にはアイディアを、ご年配のお客様には安心を」がモットー。