公開日:2024/02/09
この連載コラムでは、印紙税の基本や誤解が生じやすい点について、鳥飼総合法律事務所弁護士の山田重則 氏が易しく解説します。今回は、第17号文書の勘所と題し、その第4回として、レジで作成される第17号文書のチェックポイントについて解説します。
印紙税のリスクが最も高いのは、実は、レジで作成される文書です。レジでは、日々、大量の文書が作成され、顧客に交付されています。典型的な文書としては、レシートや領収書が挙げられますが、これら以外にも様々な文書が作成されます。大量に作成される分、印紙税の判断を誤れば、その影響は時として甚大なものとなります。
そこで、今回は、筆者の経験をもとに、レジで作成される第17号文書のチェックポイントについて解説します。レジで顧客とのやり取りが発生する企業としては、「レジで作成される文書こそ最も印紙税のリスクが高い」と考え、意図せず課税文書を作成していないか定期的に現場を点検する必要があります。
レジでの会計後、店舗側から顧客に対し、レシートや領収書以外の文書が交付されることがあります。その文書に代金を受領した旨の記載がある場合、基本的にはその文書もまた第17号文書にあたります。
受領した具体的な金額を記載するのではなく、単に「代済」、「決済済み」といった一言であっても、代金を受領した旨の記載にあたるため、注意が必要です。受領した具体的な金額が記載されていた場合は、受取金額5万円未満であれば非課税規定の適用があるため、課税文書になるのは一部に限られます。しかし、単に「代済」とだけ記載されていた場合には、非課税規定の適用がないため、その全てが課税文書になります。
このように、顧客に交付する文書に「代済」といった代金を受領した旨の記載がないか確認する必要があります。顧客には、別途、レシートや領収書を渡しているとすれば、顧客にとっては代金を支払ったことの証明文書としてはこれらで十分なはずです。レシートや領収書以外の文書にも、代金を受領した旨の記載をする必要があるのか、検討する必要があるといえるでしょう。
顧客が現金や商品券等で支払った場合、これらは「金銭又は有価証券」にあたるため、その際に発行するレシートや領収書は、金銭又は有価証券の受取書として第17号文書にあたります。
他方で、顧客がクレジットカードで支払った場合、店舗側は、金銭も有価証券も受け取っていないため、その際に発行するレシートや領収書は、本来、金銭又は有価証券の受取書にはなりえません。
しかし、印紙税の判断は、文書に記載された文言に基づいてなされるのが基本です。そのため、実態としては、クレジットカードで支払われたとしても、そのことが文書に記載されていない限り、金銭又は有価証券の受取書と扱われます(国税庁質疑応答事例 クレジット販売の場合の領収書)。
レジから機械的に発行されるレシートや領収書については、クレジットカード払いである旨の記載が漏れてしまうことはあまりないと思われます。しかし、手書きで作成した領収書にクレジットカード払いである旨の記載を漏らしてしまうことは度々起こります。
また、上記2で解説したとおり、レシートや領収書以外の文書に代金を受領した旨の記載がある場合、基本的にはその文書も第17号文書にあたります。そのため、クレジットカード払いの場合であってもその旨がその文書に記載されていない限り、課税文書と扱われます。レシートや領収書にクレジットカード払いである旨を記載して課税文書にあたることを回避する場合、それ以外の文書についてもクレジットカード払いである旨の記載が漏れていないか確認すべきといえるでしょう。
顧客が金銭又は有価証券で支払いを行い、その受取金額が5万円以上の場合、通常、レジのシステム上、顧客に交付したレシートが自動的に課税文書としてカウントされます(以下、受取金額は5万円以上であり、非課税規定の適用がないことを前提とします)。しかし、その後、顧客が更に領収書の交付を求めることがあります。
印紙税法上、金銭又は有価証券の受取書のように一方から他方に交付される文書については、交付行為が課税文書の「作成」にあたり、交付行為が完了した時点で、交付をした側に印紙税の納税義務が課されます(印紙税法3条1項、印紙税法基本通達44条2項)。
レシートと領収書を同時に交付した場合、課税文書の「作成」は2回行われたといえるため、課税文書の数は2通です。
また、顧客にレシートを交付し、その後、レジに戻ってきた顧客に更に領収書を交付した場合、仮にその間がわずかであったとしても、また、仮にレシートを回収してから領収書を交付したとしても、法的には課税文書の「作成」は2回行われたといえます。そのため、課税文書の数は2通とカウントしなければなりません。
他方で、レジでの会計時に顧客から領収書の交付を求められ、レジから発行されたレシートは顧客に交付せずに領収書だけを交付した場合、法的には課税文書の「作成」は1回のみです。そのため、この場合、課税文書は1通とカウントすれば足ります。
このように課税文書の通数は、文書の交付に着目して計算する必要があります。
上記4で解説したことと着眼点は共通しますが、返品の場合の取扱いについても確認する必要があります。
顧客にレシートを交付した後、顧客が商品の返品を求めることがあります。店舗側は、返品が相当な場合には、その取引を取消す処理を行い、レシートを回収するとともに受け取った金銭を顧客に払い戻します。
この場合、店舗側が顧客にレシートを交付した時点で、課税文書の「作成」は完了しており、店舗側に印紙税の納税義務が課されています。その後に返品処理が行われたとしても、店舗側の印紙税の納税義務は消滅しません。そのため、返品を理由に課税文書の数を減らすことはできません。
このように、レジのシステム上、返品処理の場合に課税文書の数を減らすという誤った処理がされていないか確認する必要があります。
上記5で解説したことと内容としては同じですが、交換の場合の取扱いについても確認する必要があります。
顧客にレシートを交付した後、顧客が別の商品に交換を求めることがあります。店舗側は、交換が相当な場合には、レシートを回収するとともに、改めて交換後の商品が記載されたレシートを顧客に交付します。
この場合、上記5で解説したとおり、レシートを回収したとしても、既に発生した店舗側の印紙税の納税義務が消滅することはないため、交換を理由に課税文書の数を減らすことはできません。また、交換後のレシートも課税文書にあたる場合には、これを交付した時点で、新たに課税文書の「作成」がなされたといえます。
このように、レジのシステム上、交換処理の場合に課税文書の数を減らすという誤った処理がされていないか、また、交換後のレシートも課税文書にあたる場合には、これも課税文書として正確にカウントされているか確認する必要があります。
上記3のクレジットカード払いの場合、上記4の複数の課税文書を交付した場合、上記5の返品の場合、上記6の交換の場合、そして、これらの場合に限らず、通常とは異なる対応をした場合、レジのシステム上、課税文書の数が正確にカウントできているか確認する必要があります。
また、レジのシステム上、課税文書の数を正確にカウントできない場面が存在するのであれば、そのような場合は、店舗のスタッフが課税文書の数を記録するというルールを整備しておく必要があります。そのようなルールが遵守されているかの実地調査も必要でしょう。
今回は、レジで作成される第17号文書のチェックポイントについて解説しました。レジでは、日々、大量の文書が顧客に交付されるため、レジのシステムや店舗スタッフのオペレーションが印紙税の観点から問題ないか検証する必要があります。
普段、顧客として何気なく利用しているレジは、実は、印紙税の観点からは非常に「怖い」場所であるといえます。この点は、改めて協調したいと思います。
鳥飼総合法律事務所所属。
一橋大学法学部卒業、早稲田大学大学院法務研究科修了。
印紙税相談室に所属し、企業等からの印紙税の相談対応や社内研修の実施など、印紙税に関する幅広い業務を行う。
新日本法規出版株式会社・鳥飼コンサルティンググループ主催の印紙税検定<中級篇>、弁護士ドットコムオンラインセミナー「弁護士が知っておくべき印紙税のポイント」にて講師を務める。
著書に「迷ったときに開く 実務に活かす印紙税の実践と応用」がある。
鳥飼総合法律事務所URL:https://www.torikai.gr.jp/services/stamp/