公開日:2021/03/12
この連載コラムでは、印紙税の基本や誤解が生じやすい点について、鳥飼総合法律事務所弁護士の沼野友香 氏と山田重則 氏が易しく解説します。過去の新聞報道を分析すると、意外な文書が課税文書と判断され、多額の過怠税を課されていることが分かります。その第1回として、今回は、「金銭又は有価証券の受取書」について解説します。
「金銭又は有価証券の受取書」とは、金銭又は有価証券を受領した者が、その受領事実を証明するために作成し、金銭又は有価証券を交付した者に渡す証書をいいます。
「金銭又は有価証券の受取書」は、印紙税法上、第17号文書として定められています。第17号文書には2種類の文書が含まれており、金銭又は有価証券を「売上代金」として受領した場合には、「売上代金に係る金銭又は有価証券の受取書」として第17号の1文書になり、そうではない場合には、第17号の2文書になります。
金銭を受領する際には、通常、何らかの対価として受領することが多いため、第17号の1文書になることが多いといえます。「金銭又は有価証券の受取書」として最も一般的なのは、「領収書」、「レシート」ですが、これも売買代金や役務提供の対価として金銭を受領した場合に交付されるものですから、第17号の1文書にあたります。しかし、このように「売上代金」として金銭を受領していない場合でも、その受取書は第17号の2文書として印紙を貼る必要があります。この点は見落としがちであるため、注意が必要です。
上記のとおり、金銭又は有価証券を「売上代金」として受領したかどうかによって、第17号1文書と第17号の2文書が区別されることになります。そして、第17号の1文書の場合には受領した金額に応じて印紙税の金額も変わりますが、第17号の2文書の場合には受領した金額に関わらず、印紙税は一律200円となります。そのため、何が「売上代金」にあたるかが問題となります。
「売上代金」とは、資産を譲渡することの対価、資産を使用させることの対価、資産に権利を設定することの対価、役務を提供することの対価のことをいいます。具体的には、以下の場合です(印紙税法基本通達第17号文書の12~14、国税庁WEBページ)。
売上代金の種類 | 具体例 |
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資産を譲渡することの対価 |
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資産を使用させることの対価 |
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資産に係る権利を設定することの対価 |
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役務を提供することの対価 |
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過去に新聞報道された過怠税の事案の中には、第17号文書に関するものが含まれます。
過怠税とは文書の作成時にその文書に印紙を貼るなどして印紙税を納付しなかったためにペナルティーとして課される税金をいいます。すなわち、「貼り漏れがあった」事案ということができます。文書の作成時に納付した印紙税は、法人税の計算上、損金に算入することができますが、過怠税となると元々の印紙税額の通常1.1倍になる上に損金算入ができなくなります。このように貼り漏れとなった場合のペナルティーは重く、印紙を貼るべき文書には最初から印紙を貼っておくことが節税策になります。
2009年、鉄道会社がその子会社との間で作成していた2つの文書について印紙の貼り漏れがあるとして、過怠税約8600万円の納付が求められました。具体的には、税務調査において、①鉄道会社が子会社に切符の販売代金の回収を委託し、子会社からこれを受領した際に子会社に交付していた「駅回金書」、②子会社が鉄道会社から補充用つり銭を受領した際に鉄道会社に交付していた受取書が問題となりました。
まず、①の文書についてみると、切符の販売代金はこれを受領する鉄道会社にとっては、乗客を輸送するという役務提供の対価といえますので、「売上代金」にあたります。そのため、鉄道会社が子会社から切符の販売代金を受領した際に子会社に交付していた文書は、売上代金に係る金銭又は有価証券の受取書として第17号の1文書にあたります。
次に、②の文書についてみると、補充用つり銭はこれを受領する子会社にとっては「売上代金」にはありません。しかし、上述のとおり、「売上代金」として金銭を受領していない場合でも、その受取書は第17号の2文書として印紙を貼る必要があります。補充用つり銭は、事実上、業務に使用される物品として交付されたものであるため、その受領書に印紙を貼らなければならないというのは意外な結論といえるかもしれません。この鉄道会社は、子会社に対し一部の駅の運営やつり銭の補充業務を委託していたとのことですが、そうすると、この鉄道会社から子会社に対して様々な物品が交付または貸与されていたものと想像されます。各種の物品の中で補充用つり銭を交付した際の文書についてのみ印紙を貼らなければならない、という点に気づくことは容易ではないといえるでしょう。
2009年、葬儀会社が葬儀の終了後に遺族らに交付していた「あいさつ状」について印紙の貼り漏れがあるとして、過怠税約3000万円の納付が求められました。
この「あいさつ状」には、葬儀の依頼に対する御礼の言葉が記載されていましたが、その末尾に「●月●日付にて金●万円を領収いたしました」という葬儀代金を領収した旨が記載されていました。もっとも、この葬儀会社は、この「あいさつ状」とは別に葬儀代金を領収した際、正規の領収書も発行していました。
葬儀会社が受領した金銭は、葬儀という役務提供の対価にあたります。そのため、税務調査において、この文書は「売上代金に係る金銭の受取書」として第17号の1文書にあたるとの指摘を受けました。
ところで、先に述べたとおり、「金銭又は有価証券の受取書」とは、金銭又は有価証券を受領した者が、その受領事実を証明するために作成し、金銭又は有価証券を交付した者に渡す証書をいいます。「あいさつ状」では葬儀の依頼に対する御礼の言葉が記載されていること、また、文書の表題が「あいさつ状」であることからすると、この文書を作成した主たる目的は遺族らに対して謝意を示す点にあったといえそうです。また、葬儀会社は、葬儀代金を領収した際、正規の領収書を発行していますので、葬儀代金の受領の事実は正規の領収書によって証明しようとしており、「あいさつ状」によって葬儀代金の受領の事実を証明する意図はなかったともいえそうです。したがって、この「あいさつ状」が葬儀代金の受領事実を証明するために作成された、といえるのかについては疑義がないわけではありません。
しかし、印紙税の判断の基本的な考え方として、「文書に記載されている文言は記載されているとおりに解釈する」、「文書の作成目的は、主観的にではなく、客観的に判断される」というものがあります。また、税務調査においてこのような「あいさつ状」について、印紙の貼り漏れが指摘されたのもまた事実です。したがって、納税者としては、文書を作成する際には、不用意に金銭を受領したことを意味する文言を記載しない、という対応が求められるといえるでしょう。
「領収書には印紙を貼らなければならない」ということは広く知られていますが、領収書だけに印紙を貼っていれば足りるわけではありません。金銭又は有価証券を受領した際にこれを受領したことを証明するために作成される文書であれば、第17号文書として印紙を貼る必要があります。ある文書中に金銭又は有価証券を受領した旨の記載がある場合には、第17号文書に当たらないか慎重に検討することが求められるといえるでしょう。
鳥飼総合法律事務所所属。
一橋大学法学部卒業、早稲田大学大学院法務研究科修了。
印紙税相談室に所属し、企業等からの印紙税の相談対応や社内研修の実施など、印紙税に関する幅広い業務を行う。
新日本法規出版株式会社・鳥飼コンサルティンググループ主催の印紙税検定<中級篇>、弁護士ドットコムオンラインセミナー「弁護士が知っておくべき印紙税のポイント」にて講師を務める。
著書に「迷ったときに開く 実務に活かす印紙税の実践と応用」がある。
鳥飼総合法律事務所URL:https://www.torikai.gr.jp/services/stamp/