バックオフィス業務のお悩みや、PCAの業務ソフトをお使いの皆様の
お悩み解決を提供する総合サイト

印紙税の基本をマスターする 第1回 印紙税の判断過程

公開日:2020/11/20

trk201101_img01_pc.jpg
trk201101_img01_sp.jpg

商品代金やサービス利用料の受領などの領収証や契約書はビジネスに必要不可欠ですが、その領収証や契約書に貼る収入印紙の金額は迷うことが少なくありません。

この連載コラムでは、印紙税の基本や誤解が生じやすい点について、鳥飼総合法律事務所弁護士の沼野友香 氏と山田重則 氏が易しく解説します。

印紙税の学び方

文書を作成した際には印紙の有無、金額が問題となります。

しかし、印紙税の取扱いについて書かれた書籍は分厚いものが多く、これから本格的に印紙税を学ぼうとする方が読みこなすのは難しいといえます。また、判断を求められている文書と書籍に掲載されている文例が全く同じであれば、書籍の解説どおりに印紙を貼れば良いのですが、実際にはどこか異なる点があるはずです。そうすると、「判断を求められている文書と同じ文書を書籍の文例から探す」という方法では、自ずから限界があることがわかります。

印紙の有無を正確に判断するためには、印紙税の判断過程を理解することが必要になります。印紙税の判断過程を理解することができれば、判断を求められている文書のどこに着目して検討を進めていけばよいかが分かるため、必要に応じて印紙税の取扱いについて書かれた書籍も辞書のように使いこなすことができるようになります。また、どのような分野でもそうですが、まずは「全体像」を把握してしまうことで個々の項目を効率的に学ぶことができます。


印紙税の判断過程

印紙税の判断過程は、以下のとおりです。

1.第1号~第20号文書の課税事項の記載があるか?

2.課税事項を証明する目的で作成されたか?

3.契約書にあたるか(1、2、5、7、12~15号文書の場合)?

4.記載金額はいくらか?

5.複数の課税事項が記載されている場合、どの号の文書に所属するか?

6.非課税規定の適用はないか?

7.作成したといえるか?

どのような文書であっても印紙の有無、金額を判断する際には、この7つのポイントが問題になります。文書によっては大きく問題にならないポイントもありますが、常にこの7つのポイントに沿って判断をすることで、漏れのない判断が可能になります。


判断ポイントの要点

⑴課税事項の記載

それぞれの判断ポイントの詳細は、次回以降に解説し、ここではその概要を述べるにとどめます。

⑴ 課税事項の記載
まず、以下の第1号文書から第20号文書に該当する文書を作成すると、その作成者には印紙税が課されます。このように作成することで印紙税の課される文書を、「課税文書」といいます。


名称 該当する文書
第1号の1文書 不動産、鉱業権、無体財産権、船舶若しくは航空機又は営業の譲渡に関する契約書
第1号の2文書 地上権又は土地の賃借権の設定又は譲渡に関する契約書
第1号の3文書 消費貸借に関する契約書
第1号の4文書 運送に関する契約書(用船契約書を含む。)
第2号文書 請負に関する契約書
第3号文書 約束手形又は為替手形
第4号文書 株券、出資証券若しくは社債券又は投資信託、貸付信託、特定目的信託若しくは受益証券発行信託の受益証券
第5号文書 合併契約書又は吸収分割契約書若しくは新設分割計画書
第6号文書 定款
第7号文書 継続的取引の基本となる契約書(契約期間の記載のあるもののうち、当該契約期間が三月以内であり、かつ、更新に関する定めのないものを除く。)
第8号文書 預貯金証書
第9号文書 貨物引換証、倉庫証券又は船荷証券
第10号文書 保険証券
第11号文書 信用状
第12号文書 信託行為に関する契約書
第13号文書 債務の保証に関する契約書(主たる債務の契約書に併記するものを除く。)
第14号文書 金銭又は有価証券の寄託に関する契約書
第15号文書 債権譲渡又は債務引受けに関する契約書
第16号文書 配当金領収証又は配当金振込通知書
第17号の1文書 売上代金に係る金銭又は有価証券の受取書
第17号の2文書 金銭又は有価証券の受取書で1に掲げる受取書以外のもの
第18号文書 預貯金通帳、信託行為に関する通帳、銀行若しくは無尽会社の作成する掛金通帳、生命保険会社の作成する保険料通帳又は生命共済の掛金通帳
第19号文書 第一号、第二号、第十四号又は第十七号に掲げる文書により証されるべき事項を付け込んで証明する目的をもつて作成する通帳(前号に掲げる通帳を除く。)
第20号文書 判取帳

たとえば、ある文書に「請負に関して契約当事者が合意した事実」が記載されている場合には、第2号文書(請負に関する契約書)の課税事項の記載がある、といえます。また、ある文書に「売上代金の金銭を受領した事実」が記載されている場合には、第17号の1文書(売上代金に係る金銭又は有価証券の受取書)の課税事項の記載がある、といえます。

作成した文書にいずれか1つ以上の課税事項の記載があると、文書の作成者には原則として印紙税が課されます。このように、「課税事項の記載」とは、文書の作成者に印紙税を課す要因となる記載内容、と考えると理解しやすいと思います。

印紙税の判断は、まずはその文書に課税事項の記載があるかどうかを確認することから始まります。その文書に1つも課税事項の記載がない場合には、印紙税が課されることはありません。1つも課税事項の記載がない文書のことを、「不課税文書」といいます。


⑵課税事項の証明目的

文書の作成者に印紙税が課されるのは、その文書に課税事項の記載があるだけでは足りず、それに加えて、その課税事項を証明するためにその文書が作成されたといえることが必要になります。

⑶契約書該当性

上記の一覧表の課税文書を注意深くみると、その中に「〇〇に関する契約書」という文書が含まれていることが分かります。たとえば、第1号の3文書(消費貸借に関する契約書)です。ある文書が「〇〇に関する契約書」という課税文書になるためには、そもそもその文書が「契約書」といえることが必要になります。つまり、契約当事者の意思表示の合致を証明することができる文書といえるかどうかが問題になるということです。たとえば、ある文書に消費貸借に関する何らかの事実が記載されていたとしても、その文書が「契約書」ではない場合には、印紙税が課されることはない、ということになります。

⑷記載金額

上記の一覧表の課税文書の中には、文書内に記載された金額に応じて印紙税の金額が決まる文書があります。たとえば、100万円の借用書は、第1号の3文書(消費貸借に関する契約書)に当たりますが、その印紙税は1000円となります。他方で、300万円の借用書の印紙税は2000円となります。このように、印紙税の金額を判断する際には、「その文書にいくらの金額が記載されていると判断するか」という点が問題となります。

⑸所属の決定

上記⑴で解説したとおり、課税事項は、第1号文書から第20号文書まで、20種類あります。そうすると、1つの文書の中に複数の課税事項の記載がある場合があります。たとえば、土地の賃貸借契約書に敷金受領の事実が記載されている場合、この文書には契約当事者間で土地の賃借権の設定に関して合意した事実(第1号の2文書の課税事項)と金銭を受領した事実(第17号文書の課税事項)という2つの課税事項が記載されているといえます。この場合、その文書を土地の賃借権の設定に関する契約書(第1号の2文書)として取り扱うのか、それとも、金銭の受取書(第17号文書)として取り扱うのかが問題となります。このように、ある1つの文書に複数の課税事項の記載がある場合、どの課税文書として取り扱うのかというのが「所属の決定」という問題です。

⑹非課税規定

上記⑴で解説したとおり、作成した文書にいずれか1つ以上の課税事項の記載があると、文書の作成者には原則として印紙税が課されます。しかし、課税事項の記載があったとしても、非課税規定の定める一定の要件を満たす場合には例外的に印紙税は課されません。そこで、その文書が非課税規定の定める要件を満たすかどうかを確認する必要があります。

課税事項の記載があるものの、非課税規定の定める一定の要件を満たし、その結果、印紙税が課されない文書のことを、「非課税文書」といいます。

⑺作成、作成者

文書に課税事項を記載しただけでは、その文書の作成者に印紙税は課されません。印紙税が課されるのは、「課税文書」を「作成した」といえる場合です。そして、「作成した」とは、単に文書を作ることではなく、文書をその目的に従って行使することをいいます。

たとえば、契約当事者双方の署名、押印欄のある文書については、双方が署名、押印することで「作成した」といえます。裏を返すと、双方が署名、押印するまでは印紙税は課されない、ということです。

署名、押印済みの契約書の正本をコピー機でコピーしただけではコピーをした者に印紙税は課されません。これはコピー文書には双方の署名、押印がなされておらず、「作成した」とはいえないためです。

どのような行為をすると、「作成した」といえるのかは、文書の形態によって異なります。

国税庁の取扱い、参考書籍

それぞれの判断ポイントの概要は以上のとおりです。文書の印紙税の判断を行う際は、これらの判断ポイントを順に検討し、問題となりそうな箇所は、国税庁の取扱いや書籍を入念に確認することになります。

国税庁の取扱いとしては、「印紙税法基本通達」、「タックスアンサー」、「質疑応答事例」が挙げられます。いずれも国税庁のウェブサイトから閲覧可能です。
実務上、特に有益な書籍としては、森田修編『問答式実務印紙税』(大蔵財務協会、2020)、馬場則行編『書式550例解印紙税』(税務研究会出版局、2018)、川﨑令子編『印紙税実用便覧』(法令出版、2018)、川﨑令子編『印紙税法基本通達逐条解説』(大蔵財務協会、2020)が挙げられます。

この記事の執筆者
山田 重則(やまだ しげのり)
弁護士 

鳥飼総合法律事務所所属。
一橋大学法学部卒業、早稲田大学大学院法務研究科修了。
印紙税相談室に所属し、企業等からの印紙税の相談対応や社内研修の実施など、印紙税に関する幅広い業務を行う。
新日本法規出版株式会社・鳥飼コンサルティンググループ主催の印紙税検定<中級篇>、弁護士ドットコムオンラインセミナー「弁護士が知っておくべき印紙税のポイント」にて講師を務める。
著書に「迷ったときに開く 実務に活かす印紙税の実践と応用」がある。

鳥飼総合法律事務所URL:https://www.torikai.gr.jp/services/stamp/