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第2回 財務規律の柔軟化・明確化について

2025年4月から始まる公益法人制度改正について

公開日:2024/12/18

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 今回は公益法人制度改正の一つである「財務規律の柔軟化・明確化」について解説します。具体的にはこれまでの収支相償原則は中期的収支均衡へ、遊休財産規制は使途不特定財産規制へと見直しが行われています。本稿ではこれらについて解説していきますが中期的収支均衡については収益事業等会計から生じた利益の50%を繰り入れる場合を中心に解説を行っております。収益事業等会計から50%超を繰り入れる場合は、公益充実資金の積立や取崩の取扱い方について違いがありますのでご了承ください。

 また、本稿は2024年11月末時点の公益認定等ガイドライン素案の情報に基づくものであり、今後のガイドラインの見直しにより内容に変更が生じる点はご了承下さい。

1.収支相償原則の見直し

 従来、「公益目的事業の実施に要する適正な費用を償う額を超える収入を得てはならない」とする収支相償原則が設けられていました。この規律は、旧ガイドラインに基づき、単事業年度で公益目的事業の収支状況を判定し、黒字(収入>費用)が発生した場合は、その後2年間で同程度の赤字(収入<費用)とすること等によって収支を均衡させることを求めるものでした。

 この収支相償の判定では過去の赤字が考慮されず、細かな事業単位ごとの均衡が求められていたことから、法人の経営判断による財源の配分が困難になる事態が生じていました。

 そのため、公益目的事業に充てられるべき財源の活用促進という制度趣旨を確保しつつ、法人の経営判断で財源の配分を行い、公益目的事業への効果的な活用をより促進するため、公益目的事業の収入と適正な費用について、中期的に均衡を図る趣旨が明確となるように法律が改正され、中期的収支均衡という規律が規定されました。

 また、将来の公益目的事業の発展・拡充を積極的に肯定する観点から、公益目的事業に係る従来の「特定費用準備資金」と「資産取得資金」を「公益充実資金」として統合し、中期的収支均衡では費用とみなすこととする等、資金活用の柔軟性が高められています。

2.中期的収支均衡について

 中期的収支均衡では当該事業年度の収入と費用の算定に際し黒字となる場合には、まず過去4年間の赤字がある場合はその赤字と通算します。過去4年間の赤字と通算した後で黒字となった場合には、翌5年間で均衡を図ることとされ、黒字解消までの期間が延長されています。

 黒字(剰余金)となった場合の解消策の一つとして、従来の収支相償の場合と同様に公益目的保有財産の取得等が認められています。しかし、その公益目的保有財産が減価償却資産である場合には、その資産に係る減価償却費は中期的収支均衡の計算上は除外され、従来の場合と取扱いが異なっております。

 なお、この中期的収支均衡による判定は2025年4月の改正法施行後最初に開始する事業年度からの適用となるため、2025年3月以前に生じた剰余金については、従来の収支相償原則の取扱いとなるため、2年間で解消を求められることになります。

3.公益充実資金について

 収支相償の判定において、従来は将来の特定の事業に充てるための資金として「特定費用準備資金」の積立を費用に算入するほか、将来の特定の公益目的保有財産の取得・改良に充てるための資金として「資産取得資金」の積立が剰余金の解消策として認められていました。今回の改正により公益目的事業に係る「特定費用準備資金」と「資産取得資金」は「公益充実資金」として統合し、法人がより使いやすい制度に改められました。

 この公益充実資金は従来の特定費用準備資金や資産取得資金よりも積立内容の幅が広がっており、細かな事業単位ではなく事業を横断する大括りでの設定や、公1から公2への目的変更、事業実施から資産取得への変更、といった使途変更を行うことが出来るものとされています。また、その積立額は中期的収支均衡の計算上費用とみなすだけでなく、後述する使途不特定財産規制における控除対象財産となる効果があります。

 公益充実資金については透明性の確保が求められていることもあり、以下の(1)~(5)の要件が求められています。

(1)将来の特定の活動の実施又は特定の公益目的保有財産に係る資産の取得若しくは改良(公益充実活動等)に係る費用等の支出に充てるためのもの (下記1)~4)に該当するもの)であること

1)既存事業を維持するために将来の収支変動に備えた積立

2)将来の収入減少に備える積み立て

3)行政庁による公益目的事業変更認定申請中の事業のための積立

4)理事会で決議されている計画等で内容を確認できる事業のための積立

(2)情報開示の必要性

 資金の使途等についての説明責任のため、事業年度終了後に次に掲げる書類を作成し、備え置くとともに、行政庁に提出することが求められています。また、法人自らもインターネット等で公表することが求められています。

1)事業年度末日における公益充実活動等ごとの内容及び実施時期

2)事業年度末日における積立限度額(公益充実活動等毎の所要額の合計額)及びその算定根拠並びに公益充実資金の額

3)当該事業年度の公益充実資金の取崩額及び積立額

4)前事業年度の末日における公益充実資金に関する情報

(3)公益充実資金を公益充実活動等以外の支出に充てるために取り崩す場合について特別の手続きが定められていること

 公益充実資金は法人の意思で使途を決定します。そのため、目的外で取り崩す場合は理事会等による決議の手続きが求められています。

(4)事業年度の末日における公益充実資金の額が積立限度額を超えていないこと

(5)貸借対照表の注記や財産目録又は附属明細書に表示され、他の財産と区分されていること

 なお、収益事業等及び法人の運営に係る特定費用準備資金・資産取得資金については統合されず、そのままとなっております。そのため、公益目的事業比率・遊休財産(使途不特定財産)規制上における取扱いにも変更はありません。

4.遊休財産規制の見直し

 公益法人が有する資産は、公益目的事業を始め法人の事業活動・運営に有効に活用されるべきものであり、公益目的事業の実施とは関係なく法人内部に財産が過大に蓄積されることは適当でないとされています。その一方で、社会経済情勢の変化等に対応しつつ、安定した法人運営を継続するために、一定程度自由に使用・処分できる余裕財産を確保することも必要です。そのため、公益法人の有する資産(ストック)について、現に使用されておらず、かつ引き続き使用されることが見込まれない財産の呼称を「遊休財産」から「使途不特定財産」と改め、過分な使途不特定財産の保有の制限について以下の見直しがされました。

 使途不特定財産の保有制限について、従来は単年度の公益目的事業費の数値を保有上限額としていましたが、その場合、突発的に公益目的事業費が急激に減少することによる保有上限額の変動が生じていました。そのため、過去5年間の公益目的事業費の平均額が保有上限額の基礎とすることで急激な変動が生じないように改められました。また、公益目的事業が急速に拡大しているような場合に対応できるように、当期または前期の公益目的事業費による算定することも可能とされています。

5.公益目的事業継続予備財産について

 従来の遊休財産規制では、公益目的事業費用の直近1年分を保有していれば社会環境・事業環境の変化に対応可能と考えられていました。しかし、法人によっては予見することが困難な事態(自然災害・パンデミック等)により安定的な法人運営に支障をきたしていました。そこで、使途不特定財産規制では一定の要件を満たす「公益目的事業継続予備財産」(以下「予備財産」とする)を設定した場合には、使途不特定財産の上限額の算定上控除できることとされました。

 この予備財産が必要な事情及び必要な財産の額は法人によって異なります。また、不要な蓄財を防ぐ観点から継続的な説明責任を全うすることが求められます。そのため、予備財産を保有する法人は、毎事業年度の終了後に下記(1)~(3)を加味した情報を財務諸表の附属明細書等において開示、行政庁に提出するとともに、インターネットその他適切な方法で自ら公表することとされています。

(1)資金保有の必要性

 以下の1)~4)までの内容その他の要素に即して、社会通念に照らして合理的な必要性を説明できることが求められていますが、以下の4つすべての観点に沿った説明が必要とされておらず、全体として必要性が合理的に説明できれば足りるものとされています。

1) 公益法人の事業内容に応じたリスク

2) 保有する資産の内容や収支構造に応じた不測の事態における課題

3) 災害その他の予見し難い事由の発生により想定される公益目的事業の継続が困難となる事態

4) 不測の事態に備えた平時の取組

(2)予備財産の限度額が算定されていること

(3)予備財産が限度額を超えていないこと

この記事の執筆者
坂井 欣典(さかい よしのり)

税理士法人 東京会計グループ。
平成23年税理士登録。
民間企業(個人事業主から上場子会社)の会計・税務業務や、公益法人を中心とした会計・税務業務、行政庁への手続業務や運営支援に従事。
PCA認定インストラクター(会計・給与・公益法人)。

URL:https://www.tokyokaikeigroup.com