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2025年4月から始まる公益法人制度の概要について

公開日:2024/11/15

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2025年4月から施行される公益法人制度改正に伴い、公益認定等ガイドライン(以下「ガイドライン」という)や公益法人会計基準の運用指針(以下「運用指針」という)の見直しが行われています。以下の内容は202410月末現在で公表されている改正後の法律と見直し中のガイドライン及び運用指針に基づいているものであるため今後変更される可能性があることをご了承下さい。

改革の意義及び基本的方向性

より柔軟・迅速な公益的活動の展開のために

公益法人は、法人数約9,700、職員数約29万人、公益目的事業費規模は年間約5兆円、総資産約31兆円を有し、民間による非営利部門(公益的活動)の主たる担い手となっています。

政府は、「新しい資本主義」のための一つの柱である「民間も公的役割を担う社会」を実現するために、公益法人が法人自らの経営戦略に沿って、社会的課題の変化等に柔軟・迅速に対応し、継続的・発展的に公益的活動の活性化に取り組んでいくことができるように、法人の財務規律を柔軟化するとともに、公益認定等の行政手続きを見直すこととしました。その一方で、様々なステークホルダーや国民に対する責任として、一層のガバナンスの強化と情報開示による透明性の向上を図ることとされました。

この財務規律の柔軟化・行政手続きの見直し・ガバナンスや説明責任の充実のために、以下の取組が行われます。

公益法人制度改正の概要

中期的な収支均衡の確保(収支相償原則の見直し)

「収支相償原則」は、公益目的事業の収入と適正な費用を透明化し比較することで、収支差額(黒字)が生じる事業年度が存在すること自体は問題としないものの、それが恒常化しない収支構造であることを制度上確保し、公益目的事業に充てられるべき財源の最大限の活用を促す趣旨の規律となっています。

しかし、単年度の収支赤字を強いるものであるという誤解や、収支均衡の判定において過年度の赤字が考慮されず、また、事業単位ごとの判定が求められることから財源の活用に制約があること、さらに、特定費用準備資金・資産取得資金の積立に際し使途を詳細・具体的に特定することが求められることから使い勝手の悪さも指摘されていました。

そのため、「公益目的事業の実施に要する適正な費用を償う額を超える収入を超えてはならない」とされている規定を、公益目的事業の収入と適正な費用について中期的に均衡を図る趣旨が明確となるように見直すとともに呼称を「中期的収支均衡」と改め、制度の柔軟化・明確化が図られる予定です。

中期的収支均衡の判定は、公益目的事業全体を単位とし、黒字が出たとしても中期的(5年)で均衡を回復することされ、過年度の赤字も繰越が可能になりました。また、公益目的事業に係る従来の「特定費用準備資金」及び「資産取得資金」を包括した「公益充実資金(仮称)」が創設される予定です。

この「公益充実資金」は、法人の実情や環境変化に応じた柔軟な資金管理が可能となるように、事業単位(公1・公2)ではなく、公益目的事業全体を包括した大括りの設定や未だ認定されていない将来の新規事業のための資金積立といった設定も可能となる予定です。

使途不特定財産の適正管理(遊休財産規制の見直し)

現状の遊休財産規制は、公益法人が、社会情勢の変化等に対応しつつ、安定した法人運営を維持するため、法人にとって一定程度自由に使用・処分できる財産を公益目的事業の費用1年相当分を上限とすることで、事業の実施とは関係なく財産が法人内部に過大に蓄積されることを避けることを趣旨とした規律です。

しかし、安定した法人運営の継続や不測の事態に備えるために必要な財産は、法人の事業内容や規模等によって異なるため、公益目的事業の費用1年相当分という上限を超えた保有が必要な場合や、コロナ禍等の突発的な事情により公益目的事業が実施できなかったことによる上限額の急激な変動や公益目的事業費自体が確定しないことなど、法人にとって予見可能性が低い枠組みとなっていました。

そのため、遊休財産という呼称を「使途不特定財産」と改めるとともに、公益目的事業の費用1年分という上限額を超過する財産について、法人が災害等の予見しがたい事由に対応し、公益目的事業を継続するために必要となる資金を「公益目的事業継続予備財産」として開示することにより、保有制限の対象から除外する取扱いが認められる予定です。

また、上限額の基準となる公益目的事業の費用1年相当分についても、当該事業年度の公益目的事業費から前事業年度までの5年間の公益目的事業費の平均額又は当該事業年度の公益目的事業費又は前事業年度の公益目的事業費を選択することが可能となる予定です。

公益法人による出資等の資金供給

公益法人の資産運用における株式保有等については「投機的な取引」の禁止や「他の団体の意思決定への関与(議決権の50%を超える保有)」の禁止に抵触しない限り法令上可能ですが、旧公益法人制度の指導監督基準の影響もあり、多くの法人で安全・確実な運用にとどまっています。また、公益法人が公益目的事業として出資等を行う場合について、今後、社会的なニーズの高まりも予想されることから、公益法人による保有株式等の資産運用についての制約をより具体化するとともに、公益目的事業として出資を行う際の考え方・基準を整理・明確化される予定です。

公益認定・変更認定手続の柔軟化・迅速化

公益法人が新規に公益目的事業を開始する場合や事業内容等を変更する場合には行政庁の認定が必要になりますが、認定を受けるための審査の過程においてガイドラインで明記されていない書類を求められることがあるため、法人に負担をかけるとともに審査期間の長期化を招いていました。そのため、手続を簡素化・合理化したうえで基準や必要な書類について可能な限り明確化される予定です。

また、変更認定事項のうち公益目的事業の再編・統合や一部廃止といった事業内容の実質的な変更を伴わないものや収益事業等の内容の変更については事後の届出へと簡素化されるとともに、手続きの迅速化を図るために行政庁での審査期間が公表される予定です。

そのほか、認定事項と届出事項の具体的な基準のガイドラインでの明確化や合併に関する行政手続のマニュアル化が図られる予定です。

法人運営に関する情報開示の充実

公益法人の柔軟・迅速な公益的活動の展開を可能とする財務規律の柔軟化や行政手続きの簡素化・合理化を進めることに伴い、法人自身が一層の説明責任を果たすために、役員の利益相反取引や、役員報酬、海外送金に関する情報といった法人運営に関する情報開示の拡充等が進められる予定です。

これらの開示情報の拡充のほか、法人の財産目録等の情報開示について、現在の「事務所における備置き」「閲覧請求に対応」から「ウェブサイト上で」「広く公表する」努力義務も定められ、また、行政庁が法人から提出を受けた財産目録等については公表するように法律が改正されました。

わかりやすい財務情報の開示

今回の改正による財務規律柔軟化に伴う法人の説明責任の充実という観点から、国民に分かりやすく財務情報を開示するため、正味財産増減計算書・貸借対照表の内訳表の作成による区分経理を推進するとともに、現行の定期提出書類等における各別表については、できる限り損益計算書・貸借対照表等の内訳表や附属明細で代替することで廃止又は記載事項が簡素化される予定です。

また、「正味財産増減計算書」は「活動計算書」に名称を変更し、貸借対照表・活動計算書の様式や注記・附属明細での記載事項の見直しが併せて行われています。

法人の自律的なガバナンスの充実

国民からの信頼確保、不祥事防止等のコンプライアンスの確保や財務規律の柔軟化等に伴う説明責任の必要性の向上に対して、外部理事・監事の導入や理事と監事の特別利害関係排除、評議員の選任について評議員選定委員会の推奨といった法人運営の中心である理事・理事会等の役割機能強化や、会計監査人による監査対象の拡大による監査機能の強化など、自主的・自律的なガバナンス強化に取り組む旨が規定されました。

また、ガバナンス強化の取り組みを事業報告書へ記載することを求めるとともに行政庁でも各法人の参考となる好事例の公表・展開を行うことでガバナンス強化の取組を活性化させる予定です。

事後チェックへの重点化

現行の定期的・網羅的な立入検査の実施を見直し、内外からの通報や関係省庁との連携を重視し、着実・迅速な情報収集と事実把握を行い、不適切事案の端緒をつかんだ法人に対する機動的・集中的な立入検査の実施方法や体制の見直しが検討されています。

また、監督措置の実効性向上のために、監督・処分に当たっての基本的な考え方や法人に対する行政庁の勧告・命令等の監督処分の実施状況やこれらを踏まえた法人の改善状況について公表することで、法人の予見可能性を高め、自主的自発的な改善を行った法人に対する監督措置の減免といった方策が検討されています。

公益法人行政のDXの推進

公益法人に対するガバナンス強化・透明性の向上を求めるとともに、政府において、一元的な情報開示プラットフォームとなる情報システムを整備し、申請等のデジタル完結、ユーザビリティの向上、行政が提供する情報のオープンデータ化、公益法人が毎年度提出する定期提出書類作成の負担軽減等といった支援を行うことが規定されています。

法人・経済界等との対話の推進等

これまで以上に、法人・経済界・中間支援団体・士業団体等と行政庁との対等・協力関係におけるコミュニケーションにより、関係法令やガイドラインの改定・システム整備の充実が図られる予定です。

また、公益法人による社会的課題解決に向けた取り組みの成果等を可視化する等の観点から、内閣府は、インパクト測定・マネジメントについて、国内外における取組事例を調査し、具体的な測定の手法、測定に必要な体制、取り組みの動機などの実態を把握するとともに、法人の取組を後押しするための事例集を作成するなど、その普及・啓発に向け官民連携の取組が進められる予定です。

公益信託制度改革

現在の公益信託制度(公益信託ニ関スル法律〔大正11年法律第62号〕)を見直すために法務省での平成31年法制審議会の答申を踏まえ、公益信託制度を公益認定制度に一元化し、公益法人認定法と共通の枠組みで公益信託の認可・監督を行う仕組みとすることで、民間による公益的活動に関する選択肢を多様化し、活性化するための環境を整備することとされています。

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この記事の執筆者
坂井 欣典(さかい よしのり)

税理士法人 東京会計グループ。
平成23年税理士登録。
民間企業(個人事業主から上場子会社)の会計・税務業務や、公益法人を中心とした会計・税務業務、行政庁への手続業務や運営支援に従事。
PCA認定インストラクター(会計・給与・公益法人)。

URL:https://www.tokyokaikeigroup.com