更新日:2025/07/25
前回、「タイプロ」(Netflix社が提供している「timelesz project -AUDITION-」という、アイドルグループのtimeleszがメンバーの追加オーディションをする様子を記録した動画配信コンテンツ)を視聴して感じた、Z世代のマネジメントスタイルの変化について記しましたが、もう一つ、私は気になる点がありました。それは「仲間」という言葉が番組内のあらゆる場面で用いられていたことです。
オーディションに応募した受験者を審査するアイドルグループのメンバーたちが「このオーディションの審査基準は、歌やダンスのテクニックももちろん重要ですが、自分達の『仲間』を探すオーディションでもあるので…」と語っていました。
これまでの時代であれば、この場合は「このオーディションは自分達の『後輩』を探すオーディションです」と言っていたはずです。アイドルグループの中でも、後から入ってきたメンバーを2期、3期…、と、明確に序列を作っている場合もあれば、そこまで明確でなくても、なんとなく加入順に「縦社会」が外部の私達から見ても形成されていました。「仲間」という言葉も「私たちは2期の仲間同士で…」というように、「同期」を示す言葉として使われていることが多かったと思います。
一方、オーディションを受験する受験者同士においての会話でも「仲間」という言葉が多用されていました。数人ずつチームに分かれて行うグループ審査などにおいても、「同じチームの仲間には迷惑をかけられない」「このチームの仲間と出会えてよかった」など、仲間という言葉が発せられていました。
これも少し前の世代であれば、オーディションは最終的には個人戦ですから仲間ではなく「ライバル」だったと思います。「同じ目標を目指しているライバルと出会えて刺激になりました」というように、実際にライバルをライバルと言うのが普通のはずですが、今は「同じ目標を目指している仲間と出会えて刺激になりました」と、ライバルさえ「仲間」に置き換えられているのです。
なぜこのような現象が起こっているのか考察してみたのですが、これは人口が減少に転じた影響が一番大きいと私は思います。
まず、組織に人を「迎え入れる側」の立場で考えてみると、これまでの時代は、会社もアイドルグループも、結成した後増員して、一部の人が離脱して、また増員する、といったように、前提として「人が増えていく」流れが一般的でした。
ところが今は離脱する人のほうが増え、補充しようにもなかなかふさわしい人が現れず、その間にまた離脱者が出て…というように「人を補充する」流れになっている会社やアイドルグループが増えています。
そうすると、組織内の序列や派閥争いなどと言っている前に「組織そのものの存亡」のほうが重要となり、全員が「一丸」とならないと組織を維持していけなくなってきているところが出始めている、その「一丸」を示す言葉として「仲間」が多用され始めているというのが理由の一つではないかと思います。
また、組織に「新たに加入する側」の立場で考えてみると、私のような就職氷河期世代は人口が多かったので「同期の仲間」がたくさんいました。でも今はどうでしょうか。大企業で景気の良い会社は数百人の「同期の仲間」がいるでしょうが、その方が極めて少数派で、新卒入社は一人だけで同期が誰もいない、という会社も今はたくさんあるはずです。つまり「同期の仲間」が物理的に存在せず、私の時代ならできた「同期の仲間に、仕事の愚痴や悩みを相談してスッキリする」ということができないのです。
そうすると、おのずと自分に近い年齢や社歴の「先輩・後輩」が、同期ではないけれども「仲間」という概念として入ってくることになります。人数が多ければ「先輩は先輩、後輩は後輩、同期は同期」と区別や住み分けができたものが、人数が減ることでそれ自体が不可能になり、おのずと「先輩や後輩も仲間」「その部署に属している全員が仲間」「同じ職場の人全員が仲間」という概念に変わってきているのです。
そのため、マネジメントをする側が、「自分が若い頃は、先輩や上司に聞きづらい、言いづらいことは同期の仲間に共有していたから、彼らもそうするだろう」というそれまでの認識を、「今の若い世代は自分達のいうところの「同期」が少ない環境だから、自分達年長者のことも『仲間』だと思ってもらって、素朴な質問や悩みも委縮することなく言ってもらえる環境作りが必要」と、ご認識をアップデートしていただくことも大切だと思います。
今の時代はSNSが浸透しているので、会社の同期はいなくても学校時代の同級生とつながっており、彼らに相談をすることはできます。ですが、やはり学校の同級生と職場の同期は全く別物です。現に、リファラル採用(自分の知り合いを自社に誘って入社してもらう)でよくあるトラブルの一つに、仲の良い学校時代の同級生の親友を自社に誘って一緒に働き始めたら、お互いに学校時代では気づかなかったさまざまな面を知ることになり、不仲になってしまった、ということがあります。もちろんうまくいく例もありますが、「学校で一緒に過ごす」ことと「一緒に働く」ことは同じことではないということを示しています。
今の時代、経理部門の皆さんが新入社員や中途社員を新たに迎え入れるときには、その時点から「新しい『仲間』を迎え入れる」というスタンスが大切な時代だということです。後輩でも、ライバルでもなく、仲間。そのように迎え入れられる人が、新たに組織に参画する人達の心を開きやすく、信頼もしてもらいやすくなると思います。
流創株式会社代表取締役
エイベックスなど数社で管理業務全般に従事し、サニーサイドアップでは経理部長として株式上場を達成。その後中国・深センでの駐在業務の後、独立。現在は利益改善、コンプライアンス改善、社風改善の社員研修、コンサルティング、講演、執筆活動などを行っている。著書に『メンターになる人、老害になる人。』(クロスメディア・パブリッシング)、『社長になる人のための経理とお金のキホン』(日経BP 日本経済新聞出版)、他多数。