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PCA FES 2025

第5回 「支配型指導」から「見守り型・提案型指導」

『メンターになる人、老害になる人。』~人材不足の時代に求められる令和の経理マネジメントとは~

更新日:2025/06/27

先輩・後輩

Z世代は後輩にどのような指導をするのか

私が今一番興味のあるトピックの一つに、「Z世代(2025年時点でおおよそ30歳弱以下の世代)の人達はどのように後輩に指導をするのか」という点です。
ここ数年のトピックは、主に年長者がZ世代にどのようなマネジメントをすべきか」という話題ばかりだったように思います。「若いうちは不条理なことを言われても我慢するのが当たり前」「我慢した先に社会人としてのスキルが身に着く」「嫌なこと、無理なことでも気合と根性で乗り切る」「それが嫌ならやめてもらって全然構わないよ。だって求人すればいくらでも応募者は来るのだから」といった、私のような就職氷河期世代でも当時「えー?」と思うような我慢が前提の事柄も、それを飲み込んでやるのが「社会人になるということ」「お金をもらって働くということ」だと割り切ってやってきたことが、いよいよ通用しない時代になってきたのだと思います。
それらの行為がハラスメントの対象になりかねない、ということもありますが、それ以上に、そういった発想では「我慢しきれなかった人達が辞めた後、後任に誰も入らない」という状態に陥り、会社の業務そのものがまわらなくなるからです。だからもし「我慢」を強いるなら、「なぜその我慢が必要になるのか」を、相手が納得するように論理的に説明できる能力が上司になければいけない時代になり、そのためマネジメントの難しさを覚える上司の方も多くいることでしょう。

支配的指導から見守り型指導へ

では、今度はZ世代自体が後輩に指導する立場になった際に、自分達が教わったように論理的に指導をするのか、それとも上司になった途端にそれまでの世代と同じように根性論などを出して指導をするのか、関心があるのです。
私自身もクライアント先の20代の社員の方達にこのテーマについてインタビューなどしていますが、彼らや周囲の方々から勧められたのが「タイプロ」でした。「タイプロ」というのは、Netflix社が提供している動画コンテンツで、正式には「timelesz project -AUDITION-」といい、timeleszというアイドルグループがメンバーの追加オーディションをする様子をドキュメンタリーとして動画配信をしている番組の通称です。その追加オーディションの審査を30歳前後のtimeleszのメンバー3人が行う様子が興味深く、参考になると思いますよ、と勧められたのです。

実際に拝見してみて感じたことは、まず、私の世代のオーディション番組というのは、「怒号」「罵倒」「暴力」など、演出もあるでしょうが、そのようなシーンが当たり前にありました。「やる気がないなら出ていけ!」とビンタや竹刀で叩かれたり、備品を投げつけられたりして、審査員が審査される側を「恐怖」で「場を支配する」ことが当たり前にありました。しかしもちろん今の時代はそのようなシーンはありません。審査員の一人も「まず、このオーディションを始める前に、自分達審査員が上から押さえつけるような言動は控えて、オーディションを受ける人達本人に自分自身の課題に気付いてもらい、どのように行動するかも自分達で決めてもらおう、ということを決めました」と語られていて、なるほどと思いました。

「気合が足りない」と、「気合が伝わってこない」の違い

たとえば、これまでの時代では「気合が足りない!」と言っていたシーンでは「気合が伝わってこない」と言っていました。この二つの違いがおわかりでしょうか。前者の「気合が足りない!」は、「君は気合が足りてない。だからこんなみっともないパフォーマンスをしているんだ」と、主観で決めつけた発言です。後者の「気合が伝わってこない」は、「あなたが気合を入れてパフォーマンスをしてくれているのはわかるんだけど、それがこっちまで伝わってこないからもったいないよ。だからどうしたらあなたの気合がそのまま弱まらずにこちら側まで伝わるようなアウトプット表現ができるかを自分で考えてみて」ということです。
プライベートの時間を割いてまでオーディションを受けに来ている以上、気合が入っていない応募者など、一人もいないわけです。それを前者は否定し、後者は認識している、という差です。言われた立場からしたら、前者の人には信頼がおけず、後者の人は「わかってくれている」と思う、ということなのです。

経理のミスは気合で克服できるのか、業務手順の見直しで克服できるのか

これを職場でたとえて考えてみましょう。たとえば皆さんが経理部長だとして、部下の経理社員が、集計を間違えたり、処理を忘れたりしているなどして、パフォーマンスが芳しくなかったとします。その時に、「気合が足りていないから、そんな間違いするんだよ」「気合が入ってないから大事な処理を忘れるんだよ」「もっと気合を入れて仕事しなさい!」と指導するとします。一昔前の世代の部下なら、心の中で「うるさいなあ、気合の問題じゃないんだよ!よし、次からは絶対にそんなこと言わせないからな」と怒りをエネルギーに変えて対処したかもしれませんが、今の時代は「あ、この上司、自分のことをわかってくれていないな。だから自分のパフォーマンスも向上しないんだ。この上司の下に居ても成長できないから転職しよう」という理屈に繋がりかねないということです。
そうではなくて、「気合を入れて頑張ってくれているのはわかっているけど、こんなに経理の計算ミスをしたり処理漏れがあったりすると、集中して経理の仕事をしていないように見えてしまうからもったいないよ。どうしたらミスや処理の漏れがなくなるか考えてみてくれる?」と指導をすれば、言われた相手は「自分が頑張っていることは認めてくれているんだ」と安心、信頼し「なぜ自分はミスが多いのか業務のやり方を見直そう」と、自分で検証し、考えてくれるようになるということだと思います。
また、多少の誘導がないとそこまで自走することが難しそうな社員に対しては、「ダブルチェックはした?」「スケジュール表に締め日の予定は入れてある?」など具体的に実務の実行状況を確認して、もし怠っている箇所があったら「それだったらいくら気合が入っていてもミスはするよね。同じようにほかの作業フローも見直してみたら」という提案型指導もよいのではないかと思います。

この記事の執筆者
前田 康二郎
前田 康二郎(まえだ こうじろう)

流創株式会社代表取締役
エイベックスなど数社で管理業務全般に従事し、サニーサイドアップでは経理部長として株式上場を達成。その後中国・深センでの駐在業務の後、独立。現在は利益改善、コンプライアンス改善、社風改善の社員研修、コンサルティング、講演、執筆活動などを行っている。著書に『メンターになる人、老害になる人。』(クロスメディア・パブリッシング)、『社長になる人のための経理とお金のキホン』(日経BP 日本経済新聞出版)、他多数。