バックオフィス業務のお悩みや、PCAの業務ソフトをお使いの皆様の
お悩み解決を提供する総合サイト

第2回 年齢、社歴、経理歴が「長けた」人がメンターとなっているか

『メンターになる人、老害になる人。』~人材不足の時代に求められる令和の経理マネジメントとは~

更新日:2025/03/25

先輩・後輩

老害(長害)の構成軸

拙著『メンターになる人、老害になる人。』という本を企画した際、老害で苦しんでいる周囲の方々に「あなたを苦しめている人はどのような属性を持った人ですか」とヒアリングを行いました。それらをまとめると、

  1. 生きてきた年数が長い(年齢)
  2. 特定の組織での所属年数が長い(社歴)
  3. 特定の専門分野の経験年数が長い(経理歴など)
  4. 特定のポジションの経験年数が長い(部長、マネージャー職など)

など、これらの項目の年数が「長い人」が「短い人」に老害をしているということがわかりました。一見すると「やはり老害というのは年長者が若者にやるものなのか…」と思うかもしれませんが、今の時代は違います。
確かに一昔前までの「終身雇用」「年功序列」の社会でしたら、1の「年齢」が上がるほど、2~4の項目も連動して長くなるので、「老害は年上から年下にするもの」という構図ができていました。ところが今は皆さんもご存じのように、終身雇用や年功序列という体系は多くの会社で崩壊しました。
今の時代は、中途採用もありますし、リスキリングもあります。つまり「年下から年上にする老害」のケースも激増しているということです。

年下から年上への「老害(長害)」事例

たとえば、他社からヘッドハンティングをされて中途採用で経理部長として40歳で転職してきた人がいたとします。すると、その人は「40歳」「経理部長」という属性ですが、そこに「入社1年目」という属性が加わります。
内定時に社長からは「入社をしたらすぐに当社の業務改善に取りかかってください」と期待をされていたので、早速張り切って業務改善案を作成して経理部内で発表しました。ところが、「35歳」「経理マネージャー」「入社5年目」という属性の人から「社長から何を言われたかは知りませんけど、こんなことをしたら社内が大パニックになりますよ。部長は入社されたばかりで社内のことなど何もおわかりではないでしょうから入社早々、そんな波風が立つような改善提案はしないでください」と、「社歴」を盾にした年下からの「老害」をされることもあるわけです。

「老害」という言葉は、松本清張氏の長編小説『迷走地図』(1982年~83年)に登場して一般的に知られるようになった造語と言われていますが、この当時は終身雇用、年功序列の時代でしたので、「老害の加害者=年長者」ということだったと思いますが、今は違いますので「老害」よりも「長害」という表現のほうがより皆さんもわかりやすいかもしれません。
長害とは、年齢、実績、社歴など、「長けた属性の人」がそうでない属性の人に対して行うネガティブな言動、という定義のほうが皆さんも理解しやすいことでしょう。
すなわち、長害(老害)というのは、年長者だけが加害者になるのではなく、10代、20代でも加害者になり、50代、60代でも長害(老害)の被害者になりうるということなのです。

たとえば、新卒で入社以来ずっと営業職だった50代の社員が、リスキリングで経理部門に転属したとします。すると20代や30代の実務経験豊富な経理社員が50代の社員に対して「どうしてこんな簡単な仕訳を間違えるんですか。私が経理1年目の時でもこんなミスはしませんでしたけど」と、「自分の経理の実務経験歴の長さ」を盾に、年齢や社歴も上の人に意地悪をする「長害」も存在するわけです。

「社歴を悪用した老害(長害)」事例

私自身もかつて「長害」を受けたことがあります。経理業務の代行依頼を受け、その会社に伺うと、「経理社員が今回退職をするので、その者が直接前田さんに業務の引継ぎをします」というので、早速その退職する社員の方にお会いして引継ぎ作業を始めました。
ところがその社員の方は露骨に不機嫌さを見せながら、嘘だろう、というくらいのものすごいスピードの早口でまくし立てて引継ぎの説明をするわけです。当然1回で聞き取り切れないので、「すみません、もう少しゆっくりお話ししていただけますか」「もう一度言って頂けますか」と言うと、「はーっ」と、ため息をついたあと、「前田さんって…優秀なんですよね?そう上司から聞いてますけど」と言い、2回目の説明を拒んで伝えてくれないのです。仕方がないので、「マニュアルがあればそれを見て自分でやりますので、マニュアルを頂けますか」と言うと今度は「そんなものはありません。マニュアルなんてなくてもできるレベルですから」と、マニュアルはないと言い張るのです。

私に限らずこのような「長害」に遭った方は読者の方々の中にもいると思います。なぜこのようなことが起こるかというと理由があります。
その退職する社員の上司の方が良かれと思って「今度新しく来てくれる人は優秀だから、引継ぎよろしくね」と、悪気なく言ったその一言が退職する社員のプライドを傷つけてしまうのです。それを聞くまでは未練なく退職をするつもりだったのが「じゃあ私は優秀じゃなかったってこと?」と腹を立てて、後任の「自分より実績があって年齢も高いけれど、会社のことはまだ知らない人」に対して「社歴を悪用した長害」を仕掛けてくるわけです。そして後任の人に仕事をわざと一部教えずにミスをさせたり、嫌がらせをしたりして後任の引継者を早々に退職や辞退をさせてしまう、ということが実際によく起こります。

業務の引継ぎ時に発生しやすい老害(長害)の防止策

その件があって以降、私は新規の取引先の社長や上司の方には、「私については社員の方へは『前田さんという人が今度来ますが、細かいことは本人から当日自己紹介してもらいますので』という形にしていただくようにしていますが、そもそもこのような「長害」を発生させないためには

  1. 退職時ではなく、入社時や在職中にマニュアルを作成するよう指導し、全員が閲覧できる場所にデータで保管しておく(退職時はメンタルが不安定になっている社員もいてマニュアルが作れないケース、マニュアルを作ると言って作らないまま退職してしまうケースもあるため)
  2. 原則、口頭だけでの引継ぎをさせない。ただし、実際にマニュアルレベルまででもない口頭レベルの内容の引継ぎであれば、そのレベルの判断も人によって違うので、退職者と引継者の2者間だけではなく、上司など第3者が必ず立ち合い、過不足のない引継ぎがなされているか、そしてマニュアルが本当に不要な内容なのかを確認し、やはりマニュアルが必要だと判断した場合は「引継ぎをする側」にその旨指導を行う

というルールを徹底しておくと良いでしょう。

年齢、社歴、経理歴の「長けた人」がそうでない人に「長害」をするのではなく、「メンター」として手本を示せているか、そして見守りやサポートができているか、今一度職場環境を見直してみてはいかがでしょうか。

この記事の執筆者
前田 康二郎
前田 康二郎(まえだ こうじろう)

流創株式会社代表取締役
エイベックスなど数社で管理業務全般に従事し、サニーサイドアップでは経理部長として株式上場を達成。その後中国・深センでの駐在業務の後、独立。現在は利益改善、コンプライアンス改善、社風改善の社員研修、コンサルティング、講演、執筆活動などを行っている。著書に『メンターになる人、老害になる人。』(クロスメディア・パブリッシング)、『社長になる人のための経理とお金のキホン』(日経BP 日本経済新聞出版)、他多数。