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第1回 あなたはメンター経理社員?それとも老害経理社員?

『メンターになる人、老害になる人。』~人材不足の時代に求められる令和の経理マネジメントとは~

更新日:2025/02/25

先輩・後輩

人口減少がもたらすさまざまな今後の仕事への影響

「私達を取り巻く日本の労働環境は、戦後初めての局面に入りました」と聞くと、おどろおどろしく感じるでしょうが、シンプルな話で、「日本の人口が減少に転じ、それに伴い労働人口も今後減り続ける局面に入り、その流れが変わることはしばらくない」ということです。私も当初はこのことが、それほど仕事の環境に影響があることだとは考えていませんでした。しかし今実感するのは、労働人口の減少というのは、これまでの労働人口が多い時代に「当たり前」とされてきた価値観が全て反転していくのだということです。そしてそれに適応できない人や企業は、世間から取り残され、あっという間に奈落の底に転落していくことが「当たり前」の時代に突入したと言ってもいいでしょう。現に「あれだけ有名な人や企業」が、あっという間に凋落していくさまを、皆さんも見聞きすることが増えたのではないでしょうか。このようなことは序章に過ぎず、むしろこれから激増していくのだなと私は思いました。

たとえば、人員採用に関していえば、これまでは人気の企業や人気の業種、人気の職種に数多くの応募があり、そうでない企業や業種、職種が採用に苦労しているというのが一般的でした。ところが今は、人気に関係なく、どの企業や業種、職種でも常時人手不足という状態になっています。そのため、企業の対策としては人員維持のために、定年を延長、撤廃する動きが加速しています。ところがこれには一つの懸念材料があります。これまで本来定年になっていた人達が引き続き残ることそのものが、周囲の人達から「歓迎される定年延長かどうか」という点です。

日頃から皆の面倒を見、相談にも乗り、いざ困ったときに頼りになる人であったら、その人の定年が延長になったら周囲の人は「良かった!これからもずっと一緒に働けますね」と大歓迎をすることでしょう。しかしそうでない場合はどうでしょう。「え?定年制が廃止?やっとあの人が今年で定年になると思っていたからこれまで不満があっても我慢していたのに、もうこれ以上あの人の下で働くのは無理です」と、将来有望な部下が転職していってしまい、結局、定年を伸ばしても、その分、別の離脱者が増え、結局常時人手不足の状態に陥る、ということも起こりえるのです。さらに20代の若手社員も「定年制がないということは、優秀な人だったら自分が50歳になっても80歳90歳の優秀な人が自分から辞めてくれない限り主要なポストに就き続けているということだから、とてもそれまでは待てない」と、仕事の環境に不満はなくても早々に組織に見切りをつけて転職していってしまうこともあります。社会全体が人手不足ですから、これまで以上に転職活動もスムーズに内定が出やすい社会に既になっているのです。

転職がしやすい時代に「この会社で働き続けたい」と思える職場作りの3つの条件

労働人口の減少がもたらすこれらの玉突き現象を見ていくと、これからの時代は、一企業に優秀な人材をつなぎとめて置くことが極めて難しくなっていく時代であるということがわかります。そのような時代の中でも会社がやれることは、ハード面とソフト面の工夫や取り組みです。ハード面でいえば、たとえば業務のデジタル化を促進して人手不足を補いつつ、職場環境そのものを働きやすくするということです。そしてソフト面でいえば、「この先輩や上司が居るから、ここの会社に居よう」「転職したら今の先輩や上司のような人がいないかもしれないから、魅力のあるスカウトだけど、今回はやめておこう」という「関係性の構築」ではないかと私は考えます。

たとえば経理業務で見ていくと、上場か未上場か、海外に支社があるかないか、連結決算があるかどうかなど、「自分のさらなるスキルアップのために、より難易度の高い会計処理をしている会社に転職をしたい」という前向きなキャリアプランはあると思いますが、一般的にはどの会社で経理を行ってもそれほど大きな差はありません。そうなると、「この会社で経理を続けたい、続けてもいい」という動機付けは何かというと、

  1. 給与の金額や休暇取得などの条件
  2. 業務環境の改善に会社がケチらずにお金をかけてくれているか
  3. 一緒に働く人との相性が良いか

の3点が動機付けの多くを占めるのではないかと思います。この3つが全て満たされていたら、少なくとも私でしたら、ネガティブな理由で辞めたいと思うことはないと思いますし、前向きな転職が頭に浮かんだとしても、この3拍子が揃っている会社は他でもなかなか見つけられないと思いますので、現在の会社に留まる可能性が高いと思います。これからの時代は、「こんな1から3まで全て満たすことなんてできるわけないんだから、こんなことやらなくていい」ではなく、「1から3まで全て満たすことは大変だと思うけど、少なくとも方向性はそれを目指そう」という職場にしなければ、働く人は「その職場に対して希望を持てない」ということです。

そして2と3においては、おのずとその職場の先輩や上司、年長者などがキーパーソンとなるはずです。経理部門でいえば、経理の業務知識に精通している人、その会社に長く経理として勤めている人などがそれにあたるでしょう。それらの人達が、仕事や働き方、キャリアプランなどにおいて部下や後輩への助言や相談にのってくれる「メンター」の存在であれば、経理部門全体が活気にあふれた働き甲斐のある職場になっていることでしょうし、反対に助言や相談どころか、自分の成功体験だけを強引に部下などに押し付け、若手社員からの改善提案には聞く耳すら持たない「老害」の存在であれば、経理部門全体が陰鬱で閉塞感に満ちた職場となることでしょう。

「経理としてのキャリアや実績がある」という自覚が少しでもあれば、その人はメンターにも老害にもなりえる資格を有している

こう書くと「メンターになる人」と「老害になる人」とは、全く別人格のように思えますが、実際は違います。メンターになる人も、老害になる人も、「経理業務の実績はある」「経理歴が長い」など、属性は「全く一緒」です。つまり、経理業務のエキスパートであれば、「メンターにも老害にもなりうる」存在であり、経理初心者は「メンターにも老害にもなりえない」ということです。もし皆さんが経理のエキスパートだとして、経理初心者の人から「〇〇さんの経理のやり方はおかしいと思います」と言われても、それで心身にダメージを受けることはないでしょう。つまり、経理初心者は実績も経験も少ない状態ですから「メンターにも老害にもなりえない」存在だからです。反対に皆さんが経理初心者だとして、経理のエキスパートの人に仕事の相談をしたときに「AIを使ってそんな経理のチェック方法が今の時代はできるんだ。自分で考えたの?すごいね。とりあえずやってみてどうだったか後で報告してくれる?」と、メンター的な回答をもらえる場合もあれば、「AIを経理チェックに使う?そんなやり方は邪道だから私は絶対に認めないよ。私がいつも言っている通り、私のやり方でチェックしなさい」とピシャリと言われたら心身にダメージを受けることもあるでしょう。

ここまで読んでいただいてわかるように、皆さんに少しでも経理業務でスキルやキャリア、実績があるという自覚がおありでしたら、皆さんは「誰かのメンターにもなりえ、また、誰かの老害にもなりえる」ということなのです。今回の連載では、皆さんが職場で「メンター」として、人手不足の時代に活躍し続けていただくコツをお伝えしていきます。

この記事の執筆者
前田 康二郎
前田 康二郎(まえだ こうじろう)

流創株式会社代表取締役
エイベックスなど数社で管理業務全般に従事し、サニーサイドアップでは経理部長として株式上場を達成。その後中国・深センでの駐在業務の後、独立。現在は利益改善、コンプライアンス改善、社風改善の社員研修、コンサルティング、講演、執筆活動などを行っている。著書に『メンターになる人、老害になる人。』(クロスメディア・パブリッシング)、『社長になる人のための経理とお金のキホン』(日経BP 日本経済新聞出版)、他多数。