公開日:2024/02/27
このたび『社長になる人のための経理とお金のキホン』(日経BP 日本経済新聞出版)という本を出版しました。これは、「簿記をやったことがない人が社長になる」ことを想定して、
「会社における経理やお金とは何ぞや」ということをまとめた本です。既に社長でおられる方や、経理の皆さまにおかれましてもぜひお読みいただきたいと思っています。
そもそも、経理とは何のためにあるのでしょうか?当然一言では語り尽くせないのですが、ベテランの経理担当者であっても「経理がいないと誰も経理処理する人がいなくなる(から経理が必要だ)」ということを真っ先に理由として挙げる人がおられます。
もちろんそれはそうなのですが、それを経理が必要な理由の一番手に挙げてしまうと、社長は「じゃあ、それらをデジタル化してしまえば、あとはデジタルツールを操作する決裁者が一人だけいればあとはいらないってこと?」という発想になってしまいます。そして経理はそれに対して何も返答できないという状況が生まれてしまいます。
インボイス制度や電子帳簿保存法の施行により、経理作業のデジタル化が進んでいく中で、「経理=処理」という発想を、社長側も、そして経理側も持っていると、確実に経理部門は人員を減らされていき、会社も衰退していきます。なぜなら、本来、経理部門、経理社員は「数字に長けた集団」であるべきですから、いないよりいたほうが、そして小人数より大人数のほうが会社のブレーンとして、経営者や現場をサポートし売上や利益も大きくなるはずだからです。そのような数字に長けた人員を削っていけば、会社の力はおのずと衰えていくだけです。
しかし、現実には経理部門がそのような形態にはなっておらず「膨大なアナログ作業を処理する集団」となってしまっている会社も存在するかもしれません。そうなってしまうと、そこに所属している経理社員は、「経理というのは膨大な事務処理をする仕事なのだ」という理解になってしまいます。そして、本来の経理社員の役割や経理部門の存在理由がわからないまま5年、10年とキャリアだけが積まれていきます。そうなると、経理のデジタル化というのは、本来は、「単純作業が減った分、本来の経理らしい仕事ができる」喜ばしいことであるのに「自分の処理業務を奪い、自分の存在価値を脅かすもの」という認識としてとらえてしまう経理社員も出て来ます。特に経理社員側に「処理命」という発想を持っている人がいると、その人は「アナログ処理からデジタル処理になったら自分の身が危ない」「デジタル化されたら自分はリストラされるかもしれない」と思い、同じ経理仲間が経理のデジタル化を推し進めようとしているのに足を引っ張って反対するケースもあります。
もし私が社長に「経理って何のためにあるの?」と聞かれたら即「なぜって…それは社長のためにあるに決まっているじゃないですか」と答えます。そして「なぜなら、早く月次決算を締めないと社長が早く経営判断ができないでしょうし、そもそもその数字が不正にまみれた数字であれば正しい経営判断もできないでしょうから経理がチェックしていないとけいないでしょうし、それからあとは…」と、まくしたてることでしょう。そうなると社長は「も、もうわかったから、経理のことはよろしくね」と任せてもらえ、私が「社長、まだ話が途中なのですが…」というのを振り払って去っていかれることでしょう。このように、経理が会社において必要な理由を正しく伝えることができれば、経理がデジタル化されてアナログな経理処理作業が少なくなったとしても経理の人員を減らそうという発想は双方に生まれません。
これからは、デジタル化が進むにつれ、経理担当者が社長をはじめ経営陣に「デジタル化をしてもなぜ経理が必要なのか、経理人材が必要なのか」をはっきりと「言語化して」伝える必要性や機会が増えます。そのためにはまず経理社員自らが「なぜ会社に経理というのものが必要なのか」「なぜ人間の経理社員が必要なのか」ということを概念から理解をして、それを「簿記を知らない方達」「経理でない方達」にわかりやすく、そして正しく伝えることができる、というスキルが必要になります。冒頭にご紹介をした書籍はそれらを平易な言葉で書き記していますので、ぜひ参考にしてご活用いただければと思います。
今回のシリーズでは「社長にとって経理を理解することがなぜ重要なのか」「社長は経理をどのように経営に活用すべきか」など、「社長と経理」の関係性に絞ってお伝えしていきます。連載をお読みいただいて社長と経理の関係性を理解し、経理の皆さんが、「なぜ社長にとって経理が必要であるのか」を自ら社長に伝えることができれば、社長も経理部門や経理社員の重要性を認識し、評価もすることでしょう。
また、これからの時代の経理部門は、売上を持たないコスト部門ではなく、売上や利益を創出できるプロフィット部門になっていくことが可能と私は考えています。そうなれば社長の経理部門に対する見方も変わり、経理部門に関するソフトウェアや人員などの投資も「もったいない」「渋々」と思わず「積極的に」行ってくれるはずです。そのためには社長と経理部門との定期的なコミュニケーションが必要であり、それも単にコミュニケーションを取るのではなく、そこで「何を」話し合うのかということが重要になってきます。その点においても今回のシリーズを通してお伝えしていきます。
流創株式会社代表取締役
エイベックスなど数社で管理業務全般に従事し、サニーサイドアップでは経理部長として株式上場を達成。その後中国・深センでの駐在業務の後、独立。現在は利益改善、コンプライアンス改善、社風改善の社員研修、コンサルティング、講演、執筆活動などを行っている。著書に『メンターになる人、老害になる人。』(クロスメディア・パブリッシング)、『社長になる人のための経理とお金のキホン』(日経BP 日本経済新聞出版)、他多数。