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第12回 無人化でもアナログでもなく、「AI/ITと人間の共存」が最も合理的

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現実世界は「共存」がキーワード

1年にわたり連載してきた今回のテーマも最終回となりました。これまでのまとめも含めて、未来の経理像についてお伝えしたいと思います。

AI/ITと人間との関係性を語る時に、すぐに「AI vs人間」、「AIと人間はどちらが優秀か」など、100対0の勝ち負けの構図を作りたがる人達がいます。特に日本人は「優劣」や「階層」が好きですから、そのように焚きつけた特集を組むと、本や雑誌も売れて、ネット記事の閲覧数も増えるのだと思います。

ですが、それはあくまでもフィクションやエンタテインメントの話であり、目を覚まして現実的な会社の世界を見れば、AI/ITと人間は「共存」が最も効率的であり、費用対効果も高く、生産性も高まるので、それこそが正解だと私は思います。今の時代に皆さんのすべき仕事は、まずこの答えを「経営陣」にはっきりと伝えることです。なぜなら、経営陣の方の中には「焚きつけ特集」の記事を鵜呑みにしてしまう方がいらっしゃるからです。

経理の無人化が経営破綻を招く論理的な理由

鵜呑みにして何が起こるかというと、そうした記事は多くの結論としてIT/AIの勝ち、という「オチ」になっていますから、経営者が事務系のソフトウェアを入れると同時に、経理をはじめ管理部門の人員を極端に少なくしてしまい、限りなくバックヤードの無人化を目指そうとしてしまいます。そうなると最後、専門性の高い経理社員が不在となり、気づいたときには資金繰りが行き詰まり、経営が立ちいかなくなっていることがほとんどです。なぜいつも経営者はソフトウェアを導入するのと引き換えに事務員を減らしたがり、そしてそうすることで経営が傾くのでしょうか。それには論理的な理由があります。

1. 事務員を減らしたがる経営者の多くは、「経理は難しい計算をたくさんしている人」という認識をしている

事務員を減らしたがる経営者の方の多くは、「経理の仕事とは何か」と尋ねられた時、心の中で「なんだかよくわからないけど、原価計算とか税金計算とか難しい計算をする仕事なんでしょう」と思っているはずです。だから、難しい計算を瞬時にできるソフトウェアがあると、「じゃあそれを導入すれば事務員は要らないんだ」と思うわけです。そして人減らしをしたがります。

2. 経理の「難しい計算」は、数ある仕事の一つに過ぎない

しかし、実際の経理の仕事というのは、難しい計算をする作業はごく一部の時間であり、その他にも、計上漏れの確認や未入金案件の督促、不正が起きてないかのチェック、社員からのお金に関する相談やトラブル対応など、毎日ありとあらゆるお金に関するイレギュラーな物事に対応しています。そのため、経営者が経理社員をいきなり切ってしまうと、それらの「難しい計算以外」の部分を誰も対応ででなくなります。

おのずと経理がいなくなった翌月から計上漏れが起き始め、数カ月後にとんでもない高額の支払請求書が社員から社長のもとに届き、今日明日支払わなければいけない、ということが頻発したり、未入金の滞留債権が半年、1年以上放置され、その間に相手方が倒産して何件も回収不能となってしまったり、果ては社内で誰も領収書や請求書をチェックしていないと知るや不正を働き始める社員も残念ですが出始めるというのが会社組織です。このような状態で正しい月次決算の数値が算出されるはずもなく、めちゃくちゃな数字で経営者は経営判断をすることになり、おのずと間違った経営判断をします。そして会社は間違った方向へ進み、入るべきお金が入らず、緊急に大きなお金の支払いが連続し、資金繰りが行き詰っていくのです。

アナログ環境のデメリットは「属人化」

だからといって、いつまでも経理業務にIT/AIを活用せず、ずっとアナログのままでいいかというと、そうではありません。アナログ環境のせいで、経理業務が属人化し、その人が休んでしまったら誰も代わりに対応ができない、いわゆる「ブラックボックス化」のようなことがアナログ環境では起こりやすく、それが非常にリスクを伴うからです。

社内で属人化になっている箇所の担当者に、上司が「あなたの業務を全員にわかるようにシェアして」「マニュアルを作って」「〇〇さんに引き継いで」と言っても、「わかりました」と言いつつ、「今月次で忙しいので」「今決算で忙しいので」と、のらりくらりとはぐらかされて1年2年たっても全くその状態が解消されないということが起こりがちです。そのような環境で起こる最悪の事態として、その人が作業マニュアルも作らず引継ぎもしないまま突然辞めてしまい、作業に使っていたExcelファイルの保管場所がわからない、ファイルは見つけたけどパスワードがわからない、パスワードはわかったけど中身を見ても何をどうやって作業をしたらいいのかわからない、ということも「経理あるある」です。中には、違う方法で検算したら、そのファイルで計算したものは間違っていて過去に大きな計算ミスをしていたことがわかった、ということもあります。

その解決法として、経理作業をクラウド化し、仕組みやデータをオープンにすれば、まず属人的になりようがありませんし、何より計算ミス、処理ミスを誰かがしていても「他の誰か」がそのミスを見つけ、フォローしやすくなります。一人作業は経理のミスが最も起きやすく、実際によくあるケースとして「後からミスに気付いたけれど決算も締まった後で言い出せなくなってしまい、ずるずると誰にも言えずに数字を調整してごまかしていたため、属人的な作業を他人に引き継げなかった」ということがあります。ダブルチェックは経理の基本ですので、属人的な作業をなくす、ミスを発生させないためにIT/AIを活用することは大歓迎です。

「AI/IT vs人間」ではなく「AI/IT and 人間」

このような事例を参考に、「IT/AIの得意分野」と「人間の得意分野」、それぞれを持ち寄り、最もミスのない、効率的な費用対効果の高い経理組織を目指していきましょう。

筆者プロフィール

前田 康二郎(まえだ こうじろう)

流創株式会社代表取締役。エイベックスなど数社で管理業務全般に従事し、サニーサイドアップでは経理部長として株式上場を達成。その後中国・深センでの駐在業務の後、独立。現在は利益改善、コンプライアンス改善、社風改善の社員研修、コンサルティング、講演、執筆活動などを行っている。著書に『メンターになる人、老害になる人。』(クロスメディア・パブリッシング)、『社長になる人のための経理とお金のキホン』(日経BP 日本経済新聞出版)、他多数。

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