公開日:2024/07/09
今回は、短時間労働者に対する社会保険(健康保険・厚生年金保険)の適用拡大についてです。
パートタイマーやアルバイトなどの短時間労働者が増えていることから、短時間労働者でも社会保険の適用を受けられるようにとのことで、一定の要件を満たす事業所(「特定適用事業所」と呼ばれます)に勤める短時間労働者も社会保険の適用対象とする制度があります。
特定適用事業所の範囲は段階的に拡大されることになっており、直近では2022年10月に厚生年金保険の被保険者数が101人以上の企業において、週20時間以上勤務する短時間労働者が社会保険の加入対象となりました。
そして、いよいよ今年2024年10月にはさらに拡大され、厚生年金保険の被保険者数が【51人以上】の企業が特定適用事業所として、週20時間以上勤務する短時間労働者を社会保険に加入させることになります。
ここで、「特定適用事業所」の要件を確認しておきましょう。
現在は、「厚生年金保険の加入者が101人以上」の場合に特定適用事業所とされています。この人数要件が、2024年10月からは「51人以上」となり、該当する企業は特定適用事業所となります。なお、支店など事業所が2つ以上ある場合は、合計数で判断します。
人数については、全従業員数で判断するわけではなく、「厚生年金保険の加入人数」で判断します。直近12ヶ月のうち6か月以上上記の基準を超える場合は、特定適用事業所となりますので、会社でしっかりと毎月の被保険者数を把握しておく必要があります。
続いて、適用拡大となる短時間労働者の要件を確認していきます。
前提として、社会保険の適用対象となるのは、原則「週の所定労働時間および1か月の所定労働日数が常時雇用者(正社員)の4分の3以上」の労働者です。例えば、正社員の週の所定労働時間が40時間であれば、週に30時間以上働く労働者はパートでもアルバイトでも社会保険に加入させる必要がありますので、ご注意ください。
しかし、下記の要件を満たす短時間労働者は上記の要件に関わらず、社会保険の適用対象となります。
①週の所定労働時間数が20時間以上であること
②賃金月額が88,000円以上であること
③雇用期間2ヶ月以上の見込みがあること
④学生でないこと
1つ目の要件は週の所定労働時間が20時間以上であることです。正社員の4分3以上の勤務がない場合でも、適用拡大となる短時間労働者として加入させる必要が出てくる可能性があります。
具体的に特に確認いただきたいのは、「雇用保険には加入しているが社会保険の適用対象とはなっていない従業員」です。雇用保険は週に20時間以上働く従業員は適用対象のため、雇用保険に加入している場合は、①の要件を満たしていると考えられます。
基本給と諸手当の合計額が月額88,000円以上である場合は対象となります。
残業代等の割増賃金や、臨時的に支払われる賞与、通勤手当や家族手当・皆勤手当等の最低賃金に参入しないとされる手当はここには含まれません。
東京など最低賃金が比較的高額の地域では、週20時間以上勤務すると、こちらも同時に該当してくる可能性が高いと思われます。
3つ目の要件は雇用期間が2ヶ月を超える期間見込まれていることです。
この点は通常の被保険者と同様の要件です。
当初2か月以内の雇用契約であったとしても、契約更新が見込まれる(2ヶ月を超えて契約が継続する可能性がある)場合は、契約当初から③の要件を満たしますので、ご注意ください。
学生であれば、原則適用拡大の対象外となります。ただし、(1)卒業見込証明書を有し、既に就職しており、卒業後も引き続きその会社で勤務する場合や、(2)休学中の学生、(3)夜間学部等の定時制の学生は適用対象となります。
※通常の被保険者の適用要件である4分の3の基準を満たす場合は、学生であっても正社員と同様に社会保険の加入義務がありますので、その点はご注意ください。
対象 | 要件 | 令和4年10月~(現行) | 令和6年10月~(改正) |
---|---|---|---|
事業所 | 事業所の規模 | 被保険者101人以上 | 被保険者51人以上 |
短時間労働 | 労働時間 | 週所定労働時間20時間以上 | 変更なし |
賃金 | 月額88,000円以上 | 変更なし | |
雇用期間 | 2か月を超えて雇用の見込みがある | 変更なし | |
適用除外 | 学生は適用除外 ※一部適用除外とならない場合有 |
変更なし |
適用拡大となる対象の事業所、短時間労働者については上記の通りです。
会社としては現在の被保険者数の確認と、特定適用事業所に該当するのであれば新たに適用対象となる短時間労働者がいないかを確認しておく必要があります。
また、パートで勤務している従業員の中には、配偶者等の扶養の範囲内で勤務したいという方がいるかと思います。週20時間以上勤務している方でそのような勤務にしたいという方がいる場合、まずは従来の勤務状況だと新たに社会保険の適用対象となるため、扶養から外れ、自身で会社の社会保険に加入する必要があることを伝える、場合によっては勤務日数・時間数を見直すなど、該当従業員との対話の時間も必要です。
改正直前になって、対応が後手に回らないよう早めの準備を進めましょう。
有限会社人事・労務 チーフコンサルタント。
行政書士。
中央大学法学部卒業後、早稲田大学大学院法務研究科を経て、有限会社人事・労務に入社。労働・社会保険手続き、給与計算、規則規程の整備などの業務を中心に企業の体制を整えるサポートに関わる。これからのより多岐に亘って求められる様々な働き方を実現し、個々の能力を十分に活かせる環境作りを支援していく中で、様々な新たな働き方を行うコミュニティカンパニーの設立支援に携わる。
【主な講演・執筆実績】
・講師 労働者協同組合法台東区役所庁内学習会
・コミュニティFM「鳥越アズーリFM『大ちゃん金ちゃんの ここ掘れワンワンスタジオ!』」ディレクター
・セミナー「働く個々の健康と育児介護・療養等に関わる人事労務の要点~恐れのない職場を目指して」
・セミナー「おさえておくべき法制度改正と人事労務面での対応」
・セミナー「職場のハラスメント対策」
・セミナー「働き方改革」の概要~パート労働法改正と同一労働同一賃金への取組み~
・書籍「小さな会社働き方改革 就業規則が自分でできる本」(ソシム株式会社)
・セミナー「第2回労務管理セミナー~中小企業の労働時間対策~」(ダイキンHVACソリューション東京株式会社・主催)
URL:https://www.jinji-roumu.com/