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SDGs×働き方改革~法令遵守の働き方改革から戦略的な働き方改革へ~

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働き方改革は、VUCAと呼ばれる先の見えない時代の中で、ただ法令を遵守するだけでなく、SDGsの視点を取り入れていくことがどのように中小企業の経営に影響を与えていくのか?

皆さんと問うていきたいとおもいます。

私はそこに、企業のイノベーションへの寄与と企業ブランドの向上への寄与があり、その結果、企業の持続的な経営の実現へと繋がっていくと考えます。

先が見えないVUCAの時代の中、多くの企業では新たなイノベーションを起こし続けていくことが喫緊の課題と言えるでしょう。
また、人手不足倒産が大きな話題になり、コロナ禍で一旦は落ち着いた感がありますが、雇用情勢の大きな流れは、慢性的な人手不足であることには変わりありません。

働き方改革は、そんな国からの要請と、企業のこれらの課題を解決していく手段として、様々な企業が右往左往しながら取り組んでおります。

その結果、地域に愛され持続的な成長を遂げ続けている企業がある一方、組織に大きな混乱を招き、時代の流れについていけずに体力を落としてしまっている企業があります。そこには、大きな格差が存在しているようです。
働き方改革は、一日8時間、正社員主体の働き方がマジョリティの時代に、働く人達の多様な価値を尊重し様々な立場の人材を取り込むことです。つまりそれは、SDGsの「誰一人取り残さない」という理念と繋がります。しかし、ただ法令を遵守し、例えば障がい者を雇い入れたり、女性の雇用推進や女性管理職の比率を増やせばそれで終わりということではありません。
社労士の立場から沢山の働き方改革に携わりながら見えてきたことは、法令遵守の視点だけで改革を進めるだけでは、大きな危険がはらんでいるということです。ハラスメント問題や価値観の異なる社員同士の対立が常態化し、労務トラブルが頻発、あげく会社自体の体力が落ちていく状態が散見されます。

働き方改革をイノベーションの視点から観れば、それは、同調圧力の高い単一な組織からは生まれてきません。異質なもの同士が安心して対話し、信頼のもと時にはぶつかり合い、時には違いを認め合い、合意形成しながら、新たなイノベーションを起こしていくという過程を踏む必要があります。

また、人手不足解消の視点からは、統計が表す通りお金や出世をしたいなどの外的評価から内発的なものへと変化が見られます。「これからの新入社員の就労意識に関するランキング」(平成29年度新入社員「働くことの意義」調査結果、日本生産性本部 日本経済青年協議会)によると、社会や人から感謝される仕事がしたい(1位)、仕事を通じて人間関係を広げていきたい(2位)、ワークライフバランスに積極的に取り組む職場で働きたい(3位)という企業そのものの魅力が外的動機から内的動機へと移り、今までの働き方そのものに対するあり方が問われています。

SDGsが生まれたその背景には、ESG問題、すなわち環境問題(E)、社会問題(S)、企業統治の問題(G)への解決という中で、具体的な世界標準目標を定める形で2000年のMDGs、そして2015年から始まったSDGsへと受け継がれてきました。

ESGを考える場合にE、SとGの関係が問われます。図1のESGの関係図に示すように、よくある考え方として並列型、トライアングル型、扇型などさまざまな解釈がなされていますが、私自身はGを要とした扇の形が感覚としてわかりやすく採用しています。


図1 ESGの関係図
引用:大和総研

気候変動を始めとした自然破壊の問題(E)への解決のためには、企業、社員それぞれが協力し解決(S)していかねばなりません。そのためには、そこに向かって企業そのものの働き方、稼ぎ方を含めたあり方や仕組み(G)がどうあるべきかが大切になってきます。

働き方改革はまさにその要、Gにあたるのです。
そして先に示した、この働き方改革による企業格差は、図2に示すように企業統治(G)のあり方そのものの違いにあるのです。

図2 サステナビリティの4領域
引用:オルタナ総研

図2では、縦軸には創造性の有無、横軸は、行動の前提がネガティブな影響を社会にもたらさない取り組みか、ポジティブな影響を社会へ与えるかの横軸の2軸で表されています。
上半分は企業統治のあり方が創造性へと向かう、未来から求められるガバナンスのあり方を示し、下半分は現在のCSRの取り組みのあり方を示しています。
また、左半分は企業、社会のリスクを低減するあり方を示し、右半分は企業の評判を高めるあり方と企業統治のあり方を示しており、それぞれ4つの象限で構成されています。企業の持続的な成長の違いは、この四象限から生じています。

自社のあり方を社員皆で振り返ってみて、いまの自社のガバナンスについて対話をしてみてはいかがでしょうか?

SDGsは、この四象限の中で、右上の攻めのCSRに位置しています。ポーターは、CSVという言葉で表し、「共有価値の創造」と定義しました。

SDGsは、ポーターのいうCSVを具体的な17のゴールに置き、経済的資本のみならず人的関係資本、社会関係資本、自然関係資本とそれぞれの資本の創造へとビジョンを掲げています。そしてゴールに沿った169の達成へと組織、社員を導いていくのです。組織の構造や人事のあり方を変えていくことで、そこから生まれる働き方改革の具体的な施策と結びついていきます。

また、コンプライアンスに関しても、多くの企業は働き方改革に関し、左下象限の法令遵守のあり方に終始し、組織におきる問題を解消するために社内規定を整備したり、人事制度を同一労働同一賃金に基づきトラブルがないようにとしっかりと線引し規制しながら、また罰則や評価基準を強化しながら企業統治を進めています。しかしながら、冒頭に述べたように、VUCAの時代にあっては規制中心の企業統治のあり方だけでは変化、スピードに追いつけず、労務トラブルが頻発しています。法令遵守一辺倒の統治方法だけでは限界が出ているのです。

そこには法令遵守を土台とした対話を通して、合意形成を測ったり、物事を規制するためのルールから、多様な価値観を認め合うガイドライン的ルールが必要です。そして、この範囲内では、より自由な行動を促すためのソフトロー的な様々な企業独自の働き方改革の施策を定めます。それらを毎月又は数ヶ月に一度、状況に合わせて可変していくようなインタラクティブに施策を創造していくプロセスを実装していくよう、シフトしていくあり方が求められます。

ここで、私なりに4つの象限それぞれのあり方と働き方改革の施策について、表1にまとめさせていただきました。

表1:働き方改革×ESGにおけるガバナンスのあり方

ソフトロー優位型(例) CSV戦略重視型(例)

働き方改革に関する会社独自のガイドライン
社内通貨制度
SDGs休暇
ハピネス5
CSR検定

クレド施策

CSV戦略
共感資本通貨等の地域通貨
2拠点ワーク
企業のコミュニティ組織の運営(出島の創造)

法令遵守徹底型(例) 寄付型(例)

法令遵守、罰則強化
障がい者法定雇用率遵守
同一労働同一賃金

働き方改革関係諸法令

寄付、フィランソロフィー
副業解禁
副業人材の採用

まとめ

スピードが早い現代消費社会の中で、機械やシステムといったものは、陳腐化が起こり真似をすることも容易であるため、市場には同質化されたものが並んでいきます。新しい社会の創造に向けて、我社はその実現に向かって社会の中でどのような領域を担い、どのようなストーリーを描いていくのか、そしてそのための仕事や組織の仕組みやあり方はどうすべきなのでしょうか?

SDGs自体は、その関係性(プロセス)において、常に変化(イノベーション)を起こしていく企業のあり方です。それはすなわち攻めのCSR、ソフトローの領域にこそ企業の競争への源泉があり、企業の社会及びこれからの労働市場を担う方々に対する魅力となり、さらに社員にとって企業とのエンゲージメントを醸成することにより、結果参入障壁となるのです。

このように、地域社会を担っていく立場として、共通言語としてSDGsを取り入れていることは、中小企業として大切な視点ではないかと考えます。

筆者プロフィール

矢萩 大輔(やはぎ だいすけ)

有限会社人事・労務 代表取締役
一般社団法人日本ES開発協会 会長
903シティーファーム推進協議会 理事長
社会保険労務士
一般社団法人グリーン経営者フォーラム 代表幹事 他

1995年に社会保険労務士として開業。現在、400社以上の顧問先を抱えるリーディングオフィスとして注目を集める。
「ES組織づくりの有限会社人事・労務」として、1998年、有限会社人事・労務を立ち上げる。2008年より、CSRの団体として、「はたらく幸せは、地域の元気・日本の元気!」をコンセプトに日本ES開発協会を主催。年一度、勤労感謝の日の前後に「日本の未来のはたらくを考える」をテーマに開催される日光街道143kmを舞台に繰り広げるイベント「日光街道太陽のもとのてらこや」は、今年で第14回目となる。農商工連携を支援するコンソーシアム「903シティファーム推進協議会」を主催し、年2回、地域でマルシェを開催。経済合理性の外で起業を志す人の「ウェルファイアカデミー」を主催する。若い人たちの厭勤感漂う労働市場に元気を取り戻そうと活動を続ける。「小さな会社の働き方改革対応版 就業規則が自分でできる本」他11冊の書籍の出版を手掛け、全国の青年会議所や商工会議所、独立行政法人での講師も多数務める。

有限会社人事・労務 代表取締役 矢萩 大輔 氏 連載記事

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