更新日:2022/02/10
働き方改革やコロナ禍の影響で、デジタル化の流れが加速。人事総務部門でも、「取引の電子化」が急務となっています。これまで紙ベースでやりとりしてきた書類を電子化していくにはどうしたらいいのでしょうか? 電子契約と電子署名を導入するための基本を解説いたします。
コロナ禍によるリモートワークの普及に伴い、契約締結や行政手続きの場面で紙の文書やはんこが不要になりつつあります。2020年6月には内閣府、法務省、経産省が「契約書への押印は不要」という見解を発表し、行政改革担当大臣から行政手続きで印鑑を使わないようにという要請がありました。それ以降、地方自治体や民間企業でも脱はんこ化やペーパレス化が進んでいます。
契約書や請求書等を電子保存することを義務付けた「電子帳簿法」などの法改正も後押しとなり、数年以内にバックオフィスの電子化が急激に進むことが予想されています。経営者や人事総務の方にとって、これまで書面で交わしていた契約などを電子化していくことは大変な面もあるでしょう。しかし、電子化によって3つの大きなメリットがもたらされるのです。
電子化すると紙ベースのやりとりと比べて、業務を圧倒的に効率化できます。
紙ベースの契約締結の流れは、企業の担当者間で内容の確認をした上で書面を印刷して製本し、送付書を添付して郵送するのが基本です。相手の返送や捺印をうながすために「あの契約どうなっていますか?」という電話をかけて、書類を回収します。契約が締結した後も書面をキャビネット等に入れて保管しなければなりません。1件の処理に30分から1時間くらいかかることもあるでしょう。電子契約にすると、その作業がほとんど不要になるのです。PDFの契約書に自社の署名をつけてメール送信するので、早ければ数分間で業務が完了します。相手の負担も軽くなるので、返送が早くなり、業務の時間が大幅に圧縮されます。
電子契約は紙の契約書と違い、印紙代がかかりません。また、管理の負担も軽減されます。紙の書類は保管場所が必要ですし、必要な書類を探すときにも手間がかかります。電子保存であれば場所をとらない上、検索窓に「○○会社 取引」といったワードを入れるだけで瞬時に必要なデータが取り出せます。書類を管理するために必要だった人件費や場所代を削減でき、他の重要な仕事にリソースを割くことができます。
紙の契約書を持ち歩いたり管理したりしていると、落としたり無くしたりする人も0ではありません。担当者が急に退職したり引っ越ししたりしたときに、「契約書がどこに行ったかわからなくなった」ということがあると信用問題になります。電子契約書をクラウドに上げておけば、基本的に紛失することはありません。電子署名を使えば書類の改ざんや捏造を防ぐことができるので、コンプライアンスを強化できます。
では、人事総務部門の電子化をするには何を準備したら良いのでしょうか?
「難しそう」「高額な費用がかかりそう」と思われがちな電子契約ですが、意外とカンタンでコストもかかりません。紙の書類に押す「はんこ」(印影)の代わりに電子契約で使われるものには、大きく分けて電子印鑑と電子署名の2つがあります。この2つの用語の意味を確認しましょう。
電子印鑑ははんこの印影が表示される画像データです。認め印の代わりに、社内の稟議書や見積書などをオンラインで回すときに使われます。誰でも同じ画像を作れてしまうため、なりすましや改ざんは防げません。社内の業務だけなら電子はんこでも構いませんが、社外の取引には電子署名が必要になります。
はんこには捺印した人が本人であること(本人証明)や、文書の内容が変わっていないことを証明する役割があります。オンラインでその役割を果たすのが電子署名です。電子署名にはインターネット上の通信を暗号化するときに使われる「公開暗号鍵」と「公開暗号基盤(PKI)」「ハッシュ関数」が用いられており、3つの技術を組み合わせて成りすましや文書の改ざんを防いでいます。
電子署名の種類は、大きく分けてローカル型とクラウド型の2種類です。ローカル型はマイナンバーカード等の本人だけが持つ証明書を使って署名する方法で、確定申告やオンライン登記・供託システムでも使われています。
クラウド型は、「クラウド型電子署名サービス」として提供されています。電子証明書をサービス事業者が用意してくれるため、メールアドレスを登録してアカウントを作るだけで、すぐに使い始めることができます。
企業の人事総務部門等でよく使われているのは、このクラウド型電子署名サービスです。
電子印鑑は自分で簡単に作ることができますが、社外との契約を電子化するにあたっては、電子署名の導入が必要です。
「バックオフィスの電子化には費用がかかりそう」というイメージがあるかもしれませんが、クラウド型電子署名サービスの多くは、無料で使えるプランが用意されています。毎月の契約数によっては、ほとんどコストをかけずに始めることができるのです。まずは無料プランでお試しして、自社に合うかどうかをチェックしてみましょう。
クラウド型電子署名サービスはたくさんありますが、主要なものは以下の通りです。
Adobe社が提供しているクラウド型電子署名サービスです。パソコンやスマホ等のデバイスから、PDFの作成、編集、共同作業、署名、共有などを簡単に行うことができます。無料のAdobe Rader DC利用者でも、一定の利用回数で電子署名を依頼することができるのが特徴です。
弁護士ドットコム株式会社が運営しているクラウド型電子署名サービスです。弁護士がサービス全体を監修し、事業者署名型(立会人型)電子契約サービスとしては初めて、電子署名法が定める「電子署名」に該当することを法務省・デジタル庁に認められています。Microsoft Teams、Kintoneなどさまざまな外部サービスと連携できます。
GMOグループが提供するサービスです。クラウド型だけではなく、ローカル型の電子署名にも対応。宛先や内容の異なる契約書も一括で送信できます。例えば、毎年1,000人のスタッフと業務委託契約を交わしている会社で、人それぞれ契約期間が異なるケースがあったとします。GMO電子印鑑では、「同じ業務委託契約書を契約期間だけを変更して一括送信する」ということも可能です。
他にもさまざまなクラウド型電子署名サービスがありますので、自社の用途に最適なものを選びましょう。
続いて、総務の仕事を電子化していく流れをご紹介します。バックオフィスの電子化のハードルになりやすいのが、社内の説明コストです。会社で新しいことを始める場合、上司を含めた周囲の人に説明する必要がありますが、このときに反対意見などがあると進めづらくなります。
まずは小さなグループで試してみたり、誰もができるような簡単なスモールステップから実践したりして、「やってみてどうでしたか?」とフィードバックをもらうことが大切です。「意外とよかった」という声が多くなれば、周囲からの理解や後押しを得られやすくなります。「これまで30分かかっていた仕事が5分で済んだ」という効果測定があると、より説得力が増します。
具体的にはどんなステップを踏んで進めていけばいいのかご紹介いたします。
あらゆる手続きを電子化するには、紙ベースの書類をデータ化することがスタートになります。まずは紙ベースで管理していた文書をスキャンして、電子データにしましょう。
請求書や契約書など、日常的に使っている書類をフォルダごとに分けてストレージにアップロードすれば、ローカルに保存するよりもバックアップの面で安全です。「あの書類を見せてほしい」と言われたときにも、フォルダのリンクを送ればいいので、内容を共有しやすくなります。
2024年からは改正電子帳簿法の猶予期間が終了し、請求書等を紙で保存できなくなるため、書類の電子保存は優先的に着手したいところです。
続いて、クラウドに上げた書類を複数人で共有してみましょう。社内で回覧する申請書や報告書をクラウド上で確認して電子印鑑を押してもらえば、オンライン上で承認作業が完了します。
ちなみにAdobeのPDFは、「スタンプツール」から「電子印鑑」が使用できます。電子印鑑には環境設定の「ユーザー情報」で指定した情報(氏名、会社名、部署)を含めることが可能です。有料版では、文書に「社外秘」の透かしを入れたり、印刷禁止の設定をしたりすることもできます。
社内文書のオンライン化に慣れたら、外部との取引に電子署名を使ってみましょう。利用するサービスによって操作手順は異なりますが、基本的には電子署名サービスへログインして、契約書をアップロードするだけです。自分の電子署名をしてから、相手に電子署名を依頼します。依頼はメールで送られ、リンクから表示されたWebページ上で相手が署名をしたら契約完了の通知が届きます。
取引先からメールで電子署名を依頼されることもあると思いますが、クラウド型電子署名サービスを使って依頼された場合は、とくに準備することはありません。アカウントがなくてもサービスが使える上に、一部のサービスを除いて事前に印影などを用意する必要もないため、すぐに対応できます。
コロナ禍の影響で、採用や面接、研修など、さまざまな部分がオンラインでできるようになりました。それに伴い、社会全体でデジタル化が進んでいます。これからあらゆるシーンで電子取引が普及していくことでしょう。紙からデータに切り替えるのは、最初は大変です。しかし、デジタル化が進めば進むほど、これまで書類の管理にかかっていた時間やお金を削減できます。その分のリソースは、より重要な仕事にあてることができるのです。会社が一歩前に進むために、今から少しずつバックオフィスの電子化を進めてはいかがでしょうか?
三原 明日香(みはら あすか)