更新日:2026/02/10
近年、従業員から突然「退職代行サービスを利用して退職したい」という連絡を受け、対応に戸惑う会社が増えています。
退職代行は、従業員本人に代わって退職の意思を会社へ伝えるサービスです。使われたからといって直ちに違法となるわけではありませんが、会社側の対応次第ではトラブルに発展する可能性もあります。
本記事では、退職代行の仕組みや増加の背景を整理したうえで、会社側が確認すべきポイントや適切な対応方法を解説します。
「退職代行を使われた場合、会社として何をすべきか」を把握したい担当者の方は、ぜひご参考にお読みください。
退職代行は従業員本人に代わって、退職の意思を会社へ伝えるサービスです。
主に電話やメール、書面などを通じて連絡が行われ、従業員は会社と直接やり取りせずに退職手続きを進めます。
退職代行サービスを利用した場合でも、退職そのものは労働者の権利に基づく行為です。会社側は「退職代行を使われた」という理由だけで、退職を無効にしたり拒否したりすることはできません。
一方で、退職代行サービスの提供主体や対応範囲によって、会社側の取るべき対応は異なります。
そのため、まずは退職代行の基本的な仕組みを正しく理解することが重要です。
退職代行サービスが広く利用されるようになった背景には、働き方や労働環境の変化があります。
特に次のような要因が重なり、退職代行を選ぶ従業員が増えています。
また、転職市場が活発化し「退職=特別な出来事ではない」という意識が広がったことも利用増加の一因と考えられます。
退職代行サービスは、提供主体によって対応できる範囲が異なります。
会社側が適切に対応するためには、どの形態の退職代行かを見極めることが欠かせません。
弁護士が運営・対応する退職代行は、法的に最も対応範囲が広い形態です。
弁護士は代理人として、次のような行為を行えます。
会社側としては、弁護士から連絡があった場合、法的な交渉が前提となるため慎重な対応が求められます。
退職代行ユニオンは、労働組合として活動する団体です。
労働組合には「団体交渉権」があるため、退職条件や有給休暇の取得などについて、一定の交渉が可能です。
ただし、弁護士とは異なり、訴訟代理などの法的手続きは行えません。
会社側は交渉内容や連絡方法を確認しつつ、事実関係を整理した対応が必要です。
民間会社が運営する退職代行は、退職意思の伝達に特化したサービスです。
基本的な役割は次のとおりです。
法的な交渉や請求行為は行えないため、対応範囲は限定的です。
会社側は、非弁行為に該当しないかを慎重に見極める必要があります。
退職代行サービスを利用した連絡を受けた際、会社側が特に注意すべき点が「非弁行為」に該当しないかどうかです。
非弁行為とは、弁護士資格を持たない者が、報酬を得る目的で法律事務を行う行為を指します。
非弁行為は弁護士法77条で禁止されており、違反した場合は2年以下の懲役または300万円以下の罰金、もしくはその両方が科される可能性があります(参考:e-GOV弁護士法より)。
また法人の場合、実際に非弁行為をした担当者だけでなく、法人そのものにも罰金刑が課される可能性があります。
退職代行において問題となりやすいのは、次のようなケースです。
これらは法律上の交渉にあたるため、弁護士以外が行うと非弁行為に該当する可能性があります。
一方で、単に「退職の意思を伝える」だけであれば、民間会社の退職代行であっても直ちに違法とはなりません。
会社側としては、連絡内容がどこまで踏み込んでいるのかを冷静に見極めることが重要です。
退職代行が選ばれる背景には、従業員側の心理的・環境的な要因があります。
会社にとっては耳の痛い内容も含まれますが、実態を把握することは再発防止につながります。以下、ご参考にしてみてください。
パワハラやモラハラなど、職場で強いストレスを感じている場合、直接退職を申し出ること自体が精神的負担になります。
対面や電話でのやり取りを避けるため、第三者を介した退職代行が選ばれるケースは少なくありません。
次のような職場では、退職を切り出しにくい傾向があります。
こうした環境では、退職代行を「安全な出口」として利用するケースが多く見られます。
退職は多くの従業員にとって大きな決断です。
体調不良やメンタル不調を抱えている場合、会社とのやり取りそのものが負担になります。
退職代行を使えば最低限の連絡で手続きを進められるため、心理的負担を軽減できると考える人もいます。
退職代行から連絡があった場合、感情的に対応せず、手続きを整理して進めることが重要です。
会社側が確認・対応すべきポイントを順に整理します。
まず確認すべきなのは、誰が退職代行を行っているのかです。
提供主体によって対応範囲が異なるため、肩書きや所属、連絡方法を正確に把握します。
原則として、退職代行は本人の意思を伝えるサービスです。
そのため、会社側は「本人の退職意思が明確かどうか」を確認します。
弁護士やユニオンの場合は代理権の有無、民間会社の場合は本人の意思確認が特に重要です。
退職が確定した場合は、通常の退職と同様に手続きを進めます。
感情的な対応や手続きを遅らせる行為は、トラブルの原因になるため避けましょう。
退職後に必要となる実務対応も整理しておく必要があります。
□ 有給休暇の扱い
□ 貸与物(PC・IDカード・制服など)の返却方法
□ 未返却物がある場合の連絡方法
□ 欠員補充や業務引き継ぎの再設計
淡々と事務処理を進めることが、不要なトラブル回避につながります。
| 対応ステップ | 確認・対応内容 | 実務上のポイント |
|---|---|---|
| ①退職代行サービス提供者の確認 | 連絡してきた相手が「弁護士/労働組合(ユニオン)/民間会社」のどれかを確認 | 提供主体によって対応範囲が異なる。肩書き・所属・連絡手段は必ず記録に残す |
| ②非弁行為の有無を確認 | 退職意思の伝達のみか、賃金・有給・損害賠償などの交渉を含むかを確認 | 法的交渉が含まれる場合、弁護士以外は非弁行為となる可能性がある |
| ③従業員本人の退職意思の確認 | 本人の意思による退職かを確認(代理権・委任状の有無など) | 弁護士・ユニオンの場合は代理権確認、民間会社の場合は特に慎重に確認 |
| ④退職日・最終出勤日の整理 | 退職日・有給消化の扱い・欠勤扱いの整理 | 就業規則・労働契約に基づき、通常の退職手続きとして処理する |
| ⑤退職手続きの実施 | 社会保険・雇用保険の資格喪失、離職票・源泉徴収票の準備 | 手続きの遅延はトラブルにつながりやすいため、速やかに対応する |
| ⑥貸与物・備品の対応 | PC・IDカード・制服などの返却方法を案内 | 返却方法は書面やメールで明確に伝え、感情的な連絡は避ける |
| ⑦退職後の実務対応 | 欠員補充、業務引き継ぎ体制の見直し | 個人に責任を帰すのではなく、組織として再発防止を検討する |
■補足解説(表の総括)
退職代行を使われた場合でも、会社側が行う対応の基本は通常の退職手続きを粛々と進めることです。
まずは退職代行サービスの提供者の立場を確認し、法的な交渉に踏み込まないよう留意しながら、事実確認と事務処理を切り分けて対応します。
対応を曖昧にしたり、判断を先送りしたりすると、手続きの長期化や認識のズレにつながりやすくなります。
あらかじめ対応フローを整理しておけば、退職代行を使われた場合でも、業務への影響を抑えながら対応しやすくなるでしょう。

退職代行を使われた場合、初動対応や退職手続きそのものは、前章までの流れで進められます。
一方で、手続きを進める過程では「認識のズレ」や「対応範囲の曖昧さ」が原因となり、二次的なトラブルが発生することもあります。
ここでは、退職代行への対応をその場限りで終わらせず、余計な混乱や再対応を防ぐために押さえておきたいポイントを整理します。
退職代行を介したやり取りでは、口頭での認識共有が難しくなりがちです。
そのため、退職日や有給休暇の扱い、最終給与の支給日、必要書類の送付時期などは、書面やメールで整理して伝えておく必要があります。
条件を明文化しておけば、「聞いていない」「認識が違う」といった行き違いを防ぎやすくなり、やり取りが長期化するリスクも抑えられます。
退職代行からの連絡に対し、現場の上司や複数の部署が個別に対応してしまうと、内容の食い違いや不用意な発言につながるおそれがあります。
あらかじめ人事・総務などの対応部署を明確にし、誰がどこまで対応するのかを社内で共有しておくことで、情報の錯綜を防ぎやすくなります。
結果として、実務もスムーズに進めやすくなるでしょう。
退職が確定したあとは、貸与物の返却や書類の送付など、細かな実務対応が残ります。
返却方法や期限を事前に整理して伝えておくことで、やり取りが長引く事態を避けられます。
合わせて未返却物や書類不備が発生した場合の対応方針を決めておくと、退職後のトラブルも最小限に抑えられます。
退職代行への対応を担当者個人の判断に委ねてしまうと、次に同様のケースが発生した際、対応がぶれやすくなります。
これを防ぐには、対応の流れや注意点を簡単に整理し、社内に残しておくことが重要です。
必要な対応を共有することで属人化を防ぎ、突発的な退職が起きた場合でも落ち着いて実務を進めやすくなります。
退職代行を使われた際、会社側から多く寄せられる疑問について整理します。
実務上の誤解が起きやすいポイントでもあるため、正しい考え方を押さえておきましょう。
退職代行サービスの利用費用は、原則として従業員本人が負担します。
会社側が費用を支払う義務はありません。
退職代行は、従業員が自ら選択して利用する私的なサービスであり、業務命令や会社側の都合によるものではないためです。会社側が請求を受けた場合でも、応じる必要はありません。
退職は労働者の権利であるため、会社側が一方的に拒否することはできません。
期間の定めがない雇用契約であれば、民法上、原則として退職の意思表示から2週間で雇用契約は終了します。退職代行を使ったという理由だけで、退職を無効にすることは認められていません。
ただし、就業規則に基づく引き継ぎや貸与物の返却など、退職手続きとして必要な対応を求めること自体は可能です。
退職代行を利用したこと自体を理由に、損害賠償を請求することは原則としてできません。
ただし、次のようなケースでは個別に判断されます。
実際には立証のハードルが高く、請求が認められるケースは限定的ですが、上記に当てはまる場合は必要に応じて専門家へ相談されることをお勧めします。
退職代行を使われること自体は違法でも異常でもありませんが、会社側にとっては職場環境を見直すきっかけとして捉えることが重要です。
ここでは、退職代行が選ばれにくい会社になるためのポイントを整理します。
退職代行が利用される背景には「直接話すのが怖い」「言い出せない」という心理があります。
こうした状況では、第三者を介する手段が選ばれやすくなります。
上記のような環境構築を避けるには、定期的な面談や1on1を通じて、退職の意思も含めて話せる関係性を築くことが重要です。
退職代行の利用理由として多いのが、ハラスメントからの回避です。
これらは、本人が限界を迎えるまで表面化しないケースも少なくありません。
相談窓口の設置や匿名アンケートなどを活用し、問題が深刻化する前に対応できる体制を整えることが大切です。
退職手続きが不透明な職場では、従業員が不安を感じやすくなります。
これらを就業規則や社内ルールとして明確にしておくことで、「退職=揉めるもの」という印象を和らげられます。
退職代行を使われた場合、個人の問題として片付けるのではなく、組織としての課題を振り返る視点が欠かせません。
こうした振り返りが、結果として離職リスクの低下につながります。
退職代行から突然連絡を受けた場合に会社側が取るべき対応は、通常の退職手続きを実務ベースで進めることです。
そのためには、まず退職代行サービスの提供者の立場を確認し、法的な交渉に踏み込まず、事実確認と事務処理を切り分けて対応しましょう。
一方で、退職代行が利用される背景には、従業員が直接退職の意思を伝えられなかった事情がある場合も少なくありません。
退職手続きが落ち着いたあとは、職場環境やコミュニケーションに課題がなかったかを振り返ることが、同様の離職を防ぐ手がかりになります。
退職代行への理解と実務対応の整理、そして日常的な職場改善の積み重ねが、企業と従業員双方にとって健全な関係構築につながります。
まずは自社の退職対応フローや相談体制を見直し、同様の事態に備えておくことから始めてみてはいかがでしょうか。