更新日:2023/06/13
従業員の通勤には電車代やガソリン代などの費用が発生します。従業員の負担を減らし、働きやすい環境を整えるために企業は「通勤手当」を支給するケースが多いですが、通勤手当を支給した場合「従業員の税金」への影響はあるのでしょうか?
ここでは、通勤手当の概要やルール、非課税・課税される条件を解説。テレワークや在宅勤務など、近年の多様な働き方への対応例についてもご紹介します。
通勤手当とは、自宅から会社(勤務先)へ到着するまでに必要な通勤費用を指します。
通勤手当は通勤方法に応じて支給額や計算方法が変わりますが、毎月の給与と一緒に支給される(固定支給)ケースが多いです。
【通勤手当が支給される例】
一方交通費とは、「会社と自宅の往復以外の移動費用」のことです。
通勤手当と異なり、一般的には交通費を支払った都度の“実費精算”となります。
【交通費として支給される例】
つまり2つの違いをまとめると
となります。それぞれ「移動にかかる費用への手当」ですが、似て非なるものであることを理解しておきましょう。
通勤手当は企業が独自に決められる手当ですが、設定・支給や課税の判断についてはさまざまなルールがあります。
順に確認していきましょう。
前提として、通勤手当はあくまでも「企業が任意で支給するもの」です。
労働基準法において通勤手当は「法定外福利厚生」に含まれる手当であり、必ずしも支給しなくてよいとされています。そのため支給額や支給方法などについては企業それぞれで異なるのです。
ただし、通勤手当を支給することは従業員の生活安定・充実をはかることにもつながります。
そのため多くの企業では、自社で決定したルールに沿って通勤手当を支給しています。
通勤手当を決める際には企業が支給条件などのルールを決定し、就業規則へ記載する必要があります。
このとき重要なのが「通勤に際して最も合理的な手段・費用」であることです。
かんたんに言えば「通勤がスムーズに行えて、かつもっとも費用が安くなる最短経路」という意味で、電車やバスであれば遠回りすることなく通える経路となります。
自動車通勤の場合は「通勤距離」もしくは「ガソリン代」を参考にしつつ金額を決定します。
そして通勤手当の算定では、以下の5つの項目を軸にルールを決定し、就業規則へ記載します。
通勤手当の決め方
①対象者 |
通勤距離など「どんな条件に当てはまる者が対象か」を決める <就業規則への記載例> 第○条 通勤手当の支給対象となる従業員について以下の通り定める。 |
②対象者の交通手段 |
「電車・バス通勤のみ」などの規定を設ける |
③算出方法 |
電車・バスの場合は自宅の最寄り駅~会社まで 車通勤の場合は自宅~勤務地までの距離、またはガソリン代で決定 |
④申請方法 |
「通勤手当申請書」の提出、通勤費システム等によるWEB申請など 自社の経理の状況、使用ツールなどに合わせた申請方法を選ぶ |
⑤支給方法、限度額 |
現金支給、または現物支給(定期券)を明記し、上限額を設定する <就業規則への記載例> 第○条 通勤手当の支給方法は給与支払い時に現金で支給する |
通勤手当の規定があいまいだと、後からトラブルになる可能性があるため、なるべく細かくルールを決定しておき、就業規則に明記しておきましょう。
会社から支給される各種手当(住居手当や残業手当など)は基本的にすべて課税対象となります。課税されるのは従業員であり、所得税の算定を行う際に給与と合算して「所得」として扱われるのです。
しかし、通勤手当は「手当」でありながらも、一定額まで非課税になります。
これは通勤手当が「会社に出勤する実費」であるためで、純粋な所得増(個人の利益)につながらないからです。
なお、非課税になる上限額は通勤方法によって異なります。くわしくは、後の項でご紹介します。
通勤手当はある金額まで非課税となりますが、上限を超えて支給した場合は「非課税分を超えた金額」が課税対象になります。
たとえば片道4kmのマイカー通勤で月4,200円まで非課税となる場合に、月5,000円の通勤手当を支給した場合は、差額の800円が課税対象となります。
課税通勤手当が発生する従業員に関しては、年末調整で給与に含めて計算する必要がある点に注意しましょう。
通勤手当は一定額まで非課税ですが、これはあくまでも「所得税」に限定した話です。
以下の「社会保険料」については、給与に通勤手当を含めた“標準報酬月額”をもとに所定の計算をして保険料を算出します。
健康保険料……「標準報酬月額 × 健康保険料率」で算定
厚生年金保険料……「標準報酬月額 × 厚生年金保険料率」で算定
雇用保険料……「給与・賞与などの賃金総額(総支給額) × 雇用保険料率」で算定
雇用保険料については、残業手当や出張手当などの支給によって毎月変動することが多いので注意しましょう。
通勤手当の非課税限度額については、国税庁で明確なルールが決められています。
交通手段によって上限額が異なりますので、しっかりと把握しておきましょう。
公共交通機関を利用せず、マイカーなどで通勤をする場合、非課税限度額は片道分の通勤距離に応じて区分分けされています。
【対象となる交通手段】
マイカー等による通勤で適用される非課税限度額
通勤距離 | 非課税上限額 |
片道2km未満 | 全額課税 |
片道2km~10kmまで | 4,200円 |
片道10km~15kmまで | 7,100円 |
片道15km~25kmまで | 12,900円 |
片道25km~35kmまで | 18,700円 |
片道35km~45kmまで | 24,400円 |
片道45km~55kmまで | 28,000円 |
片道55km以上 | 31,600円 |
平成28年1月1日からは全額課税~31,600円まで非課税限度額が設けられています。
ただし、法改正により変更される可能性もあるため、常に最新の情報を調べておくと安心です。
従業員が電車、バスなどの公共交通機関を使って通勤している場合、1ヶ月につき15万円までなら非課税となります。15万円を超えた場合は「課税対象」となり、所得税、および復興特別所得税がかかります。
なお、通勤経路がいくつかある場合は、先述のとおり「経済的かつ合理的な経路」を選ばなくてはなりません。
たとえば転居などで新幹線を使って通勤する必要がある場合、それが最短かつもっとも合理的な交通手段であれば通勤手当の支給対象となります。もちろん月15万円までであれば非課税となり、従業員の課税所得には含まれません。
ただし、「新幹線通勤が必要で、かつグリーン車で通勤したい」となると、こちらは経済的・合理的とはいえません。よってこの場合は、課税対象となってしまいます。
「マイカーで2km以上離れた最寄り駅まで行き、電車で通勤する」というふうに、複数の交通手段で通勤するケースもあるでしょう。
この場合は、「自動車・自転車通勤の費用」「公共交通機関の利用費」を合算し、1ヶ月15万円までが非課税上限額となります。
ここ数年で在宅勤務やテレワークを導入する企業が増え、基本は在宅勤務とし、必要な時だけ通勤を織り交ぜる「ハイブリッド型」の勤務形態をとる企業も増えつつあります。
在宅勤務やテレワークによりワークライフバランスの充実などの効果が得られる一方で、「通勤手当の計算方法」についても見直しが行われているのをご存じでしょうか。
・出社日数に応じた実費精算
現在、ハイブリッド型勤務を行う多くの企業では、通勤手当の固定支給を廃止し、「実費精算」に切り替える事例が増えています。これは出社日数に応じた「実費」で通勤手当を支給するスタイルです。
・在宅勤務手当の新設
固定通勤手当の支給廃止、および実費精算を導入した企業の中には「在宅勤務手当(テレワーク手当)」を支給する事例も多く見られます。
在宅勤務手当は、自宅やレンタルスペース等を仕事場として使用する際の光熱費、通信費、利用費等を実費として支給する手当です。
『在宅勤務に必要な金額』を合理的な計算により算出、支給することで非課税になりますが、業務利用分の計算が手間になりやすいデメリットもあります。
とはいえ、在宅勤務手当は“従業員がテレワークで仕事を遂行する環境支援”でもあるため、在宅勤務の割合が高い企業においては必要性が高い手当だと考えられるでしょう。
通勤手当の支給は企業の判断に委ねられていますが、実際には「自宅から会社へ通勤する」という勤務スタイルをとっている従業員にとって“なくてはならないもの”です。
ただし、ルールが甘いと不正受給などの違反行為が発生する可能性もありますし、不正を放置すると企業の支出が増大しかねません。
不正受給を阻止するためには、あらかじめ支給条件を細かく設定したり、1人ひとりの通勤経路について確認、精査したりといった対策を講じましょう。
また、在宅勤務やテレワークなどを積極活用する企業においては、従来型の「毎月固定額支給」がマッチしにくく、実費精算などに切り替えていく必要があります。
「従業員が真に欲しい支援」をベースに、勤務状況に応じた通勤手当・在宅勤務手当等を運用し、従業員の働きやすさにつなげていきましょう。