公開日:2020/11/19
更新日:2025/04/24
「雇用保険」と「社会保険」という言葉を耳にしたことはありますか?会社に勤務する人や公務員の多くが加入し、どちらも働く上で重要な制度ですが、意外とその概要や加入条件などの違いを正確に理解している人は少ないかもしれません。
雇用保険と社会保険はそれぞれに目的や対象が異なるため、加入のタイミングや手続き内容にも大きな違いが見られます。給与計算や労務管理の担当者の方や、これから社会保険に加入を検討している方にも必見の内容です。また、初めて就職する人や転職を考えている人にとって、この2つの違いを知ることはとても大切です。
本記事では、雇用保険と社会保険の基本的な違いをわかりやすく解説し、それぞれの仕組みやメリット、さらに加入することで得られる重要なポイントについてお伝えします。
雇用保険は、主に労働者の失業時や育児・介護のために仕事を離れる必要があるとき、転職活動をする場合などで生活を支援する目的で設けられた保険制度です。具体的な内容や給付金の種類などについて解説します。
雇用保険の最大の特徴は、失業した際や転職活動中の収入を一部補償する失業給付がある点です。一定期間の保険料を納めていれば、条件を満たした際に給付を受給でき、再就職に向けた活動をサポートしてくれます。
給付には失業給付のほか、高年齢者向けや育児中の休業者向けなど、ライフステージや雇用形態に合わせた種類があります。また、職業訓練を受ける際にも、受講料の支援や手当が支給されるケースがあります。
多くの場合、雇用主が雇用保険の保険料(労働保険料)の手続きを行いますが、労働者自身も給与から一部負担します。給与明細などで雇用保険料の控除欄があるのはこのためです。
雇用保険は事業所単位で加入します。労働者を1人でも雇用する事業所は業種や規模にかかわらず適用事業となり加入します。事業所とは会社単位ということで、独立性のない支店や営業所は、所轄の公共職業安定所長の承認を受けて本社などで一括して事業所となることができます。
労働者を対象とした保険ですので請負契約や委託契約で働く個人事業主や会社経営者は加入することができません。加入手続きをする場合には注意しましょう。
社会保険とは、病気やケガ、出産、死亡、老齢、障害、失業など、生活のリスクとなる事態に遭遇した場合に、一定の給付を行うことでリスクに備え、その生活の安定を図ることを目的とした強制加入の保険制度です。
社会保険は、以下の5つの保険で構成されています。
お気づきの方もいるかもしれませんが、社会保険に雇用保険は含まれる場合があり、社会保険という単語を使用する際や制度自体がわかりにくい要因となっています。
このうち労災保険と雇用保険は「労働保険」と呼ばれ、「社会保険」は健康保険、介護保険、厚生年金保険のみを指す言葉として用いられることが多いです。
内容をはっきりさせる必要がある際は、健康保険、介護保険、厚生年金保険のみをさす場合に「狭義の社会保険」、雇用保険、労災保険も含める場合は「広義の社会保険」として区別します。
社会保険(広義) | ||||
社会保険(狭義) | 労働保険 | |||
健康保険 | 厚生年金保険 | 介護保険 | 雇用保険 | 労災保険 |
雇用保険と社会保険の具体的な違いを見ていきましょう。大きな違いは「対象者の範囲」と「保険料の目的」です。
また、保険料の負担割合も異なります。雇用保険料の計算方法は「従業員に支払う賃金×雇用保険料率」で算出されますが、社会保険は事業主と従業員の両者が折半して負担する仕組みになっています。
項目 | 雇用保険 | 社会保険 |
---|---|---|
目的 | 失業時や特定の事情での生活支援 | 健康維持、老後の生活保障 |
対象 | 雇用されている労働者 | 健康保険・年金保険などの加入者 |
保険料負担者 | 労働者と事業主 | 労働者と事業主で折半 |
給付内容 | 失業給付、育児休業給付など | 医療費補助、年金給付など |
雇用保険と社会保険はカバーする範囲や目的が異なるため、それぞれの役割を正しく理解しておくことが必要です。
雇用保険の適用事業所で働く社員すべてが雇用保険に加入するわけではありません。一定の条件をクリアした場合のみ加入することができます。加入条件を確認しましょう。
雇用保険の加入条件は下記の2つです。2つの条件に当てはまれば社員だけでなくパートやアルバイトも加入対象となります。
出典:厚生労働省|雇用保険の加入手続はきちんとなされていますか!
なお、2つの要件を満たしていても、学校教育法で定められている昼間部の学生は雇用保険の加入対象外です。ただし、夜間や定時制学校、休学している学生に関しては、2つの要件を満たすことで雇用保険の加入対象となりますので注意が必要です。
雇用主は新たに採用した従業員が上記の要件を満たす場合、雇用保険の手続を速やかに行わなければなりません。必要書類の準備やハローワークへの届出など、規定の流れをふまえて進めます。適用される保険料率は業種によって異なる場合もあるため、事前に必要な情報を確認しておくとスムーズです。
併せて社会保険の加入条件も確認しておきまましょう。
社会保険は従業員51人以上の企業で、以下の4つの条件に当てはまった場合に加入対象となります。
(1)1週間の所定労働時間が20時間以上であること
(2)同一の事業所に継続して2か月以上使用されることが見込まれること
(3)報酬の月額が88000円以上であること
(4)昼間部の学生でないこと
社会保険は個人の意図によって任意加入にすることはできません。本人の意思に関わらず、事業所が適用事業所であれば加入義務があるため、事業主は従業員を正確に把握し、必要な手続きを行う必要があります。
特に従業員が増加し、企業が適用事業所になった時点で速やかに加入手続きを進めないと、過去にさかのぼって保険料を支払う必要が出てくる場合もあるため注意が必要です。
全ての労働者が雇用保険に加入できるわけではありません。法令で定められている非該当者や条件について具体的に確認します。
先述しましたように、昼間学生として働いている方や、週の所定労働時間が20時間未満の場合や、雇用期間が短期で終了が明確な場合は被保険者になれません。また、雇用保険は労働者が事業主の支配を受けて、労働を提供し、提供した労働の対償として賃金、給料によって得られる収入によって生活する者を対象にしているため、会社の事業主や取締役、役員は雇用保険の被保険者になることができません。
ただし会社の役員と同時に部長、支店長、工場長等の従業員として業務にあたっている場合、服務態様、賃金、報酬等からみて、労働者的性格の強いものであって、雇用関係があると認められる場合に限り、雇用保険に加入できます。
雇用保険の加入条件に雇用期間がありましたが、例外的に日々雇入れる者も雇用保険に加入することができます。雇用保険の加入者には日雇労働被保険者という種類があります。1日単位で日々雇入れる者や30日以内の期間を定めて雇用する者が該当します。
これは社会保険にはない雇用保険だけの扱いです。継続的に雇用される者とは異なるシステムで雇用保険料が発生しますのでご説明します。
日雇労働被保険者の雇用保険料は雇用保険印紙を使い納付します。雇用保険印紙はあらかじめ「雇用保険印紙購入通帳交付申請書」を提出した会社のみが購入できます。
雇用保険印紙は1級から3級まで3種類あり、日々賃金を支払うたびに賃金額に該当する印紙を日雇い手帳に貼付け消印します。
雇用保険印紙の種類
等級 | 賃金日額 | 印紙保険料 | 事業主負担 | 労働者負担 |
---|---|---|---|---|
第1級 | 11,300円以上 | 176円 | 88円 | 88円 |
第2級 | 8,200円以上11,300円未満 | 146円 | 73円 | 73円 |
第3級 | 8,200円未満 | 96円 | 48円 | 48円 |
雇用保険と社会保険の違い、それぞれの加入条件について理解を深めることは大切です。最後にポイントをおさらいしましょう。
雇用保険は主に労働者の失業や職業訓練を支援することが目的である一方、社会保険は医療や年金といった生活全般を支える保障を提供します。加入する理由や対象が異なることを把握しておかないと、手続きや給付の受給で混乱を招く恐れがあります。
また、雇用保険・社会保険ともに企業と従業員の双方が保険料を負担し、適法に加入手続きを行うことが求められます。適正な加入管理は事業主としての責務でもあるため、こまめに就業状態をチェックしましょう。
どちらの保険も、万が一の事態や将来の不安に備えるうえで欠かせない制度です。もし疑問点や不明点があれば、ハローワークや年金事務所などの専門窓口に相談して適切な手続きを進めるようにしましょう。