更新日:2022/05/30
仕事や職場によるストレスは、労働者の健康と企業の健全な経営に影響をおよぼす懸念事項となっています。企業の人事担当者や経営者にとって、従業員の心身の健康を守ることは非常に重要な要素です。従業員が安心して働ける環境をつくるためには、メンタルヘルスと深い関わりがある「ストレッサー(ストレス要因)」について理解する必要があります。そこで、この記事ではストレッサーの概要や心身におよぼす影響について解説します。
従業員のメンタルヘルスケアを考えるためには、まず「ストレッサー(ストレス要因)」について理解を深める必要があります。ストレッサーとは何か、具体例を交えて詳しく説明します。
ストレッサーとは、ストレスの原因となる外界からのあらゆる刺激を指します。ストレスは日常的に使われることも多い言葉です。しかし、もともとは物理学・生理学の分野で用いられていた言葉であり、物体に外側からの圧力がかかった際に生じるゆがみを指して使われていました。やがて、このゆがみを本来の状態に戻そうとする反応をストレスと呼ぶようになり、世間に浸透していったとされています。生理学の分野では、外界の変化に対して自身の恒常性を維持しようとする働き(ホメオスタシス。たとえば暑ければ汗をかいて体温が上がらないようにするなど)をもつことが知られており、その一因に心理社会的な要因があり、現在用いられている「ストレス」という言葉につながります。ストレスは大きく分けて「ストレッサー」「ストレス反応」「ストレス耐性」の3つの要素によって成り立っています。
わかりやすいように、ストレスを風船でたとえてみましょう。風船に指を当てて力を込めると、へこみが生じます。圧力が弱まると、弾力によってやがて風船は元の状態に戻るでしょう。この指の圧力が「ストレッサー」であり、風船のゆがみが「ストレス反応」となります。そして、どのくらいの強さであれば歪み、どのくらいの弱さであれば歪まずに形が維持されたままでいるのかの強度を「ストレス耐性」と表現できます。
ストレスによる刺激を受けても、それがある程度限定的、一時的であれば大きな問題はありません。しかし、ストレスが限定的、一時的であるかどうかは、従業員それぞれの置かれた環境や状況、従業員の処理能力によっても変わってきます。強いストレスをかけられた状況が長く続くと、精神や身体に影響が出て健康障害を引き起こし生命の維持すらできなくなることがあるため、注意が必要です。たくさんのストレスを長く抱える人は心身が不健康な状態となり、生産性が低くなるリスクもあります。企業は従業員のメンタルヘルスケアに取り組み、ストレッサーを限定し長く続かないようにする対策を講じることが求められます。
心身に影響をおよぼすストレッサーにはいくつか種類があり、主に「物理的ストレッサー」「化学的ストレッサー」「生物的ストレッサー」「心理・社会的ストレッサー」4つに大きく分けられます。メンタルヘルスケアを考える際には、どのストレッサーが関係しているのかを把握する必要があります。それぞれどのようなものなのか、ストレッサーの種類別に特徴や具体例を確認していきましょう。
物理的ストレッサーとは、物理的な環境刺激によるものを指します。具体的には、温度・音・光などが挙げられます。たとえば、オフィスにおける騒音やパソコンのディスプレイによる明るい光などです。また、暑すぎたり寒すぎたりするエアコンの温度なども含まれます。
化学的ストレッサーとは、化学物質による刺激を指します。具体的には、公害物質や金属、アルコールやタバコ、食品添加物などです。化学物質による目・喉・鼻への刺激、室内の酸素欠乏もストレッサーとなります。たとえば、オフィス内での喫煙やニオイの強い昼食などがストレッサーとなることもあります。
生物的ストレッサーとは、生体の免疫反応を引き起こす刺激を指します。具体的には、花粉のようなアレルギー反応や咳や痰を引き起こすウイルスや細菌を指します。
心理・社会的ストレッサーは、仕事・家庭など人間が社会生活を営む上で生じるものです。日常生活で「ストレス」と呼ぶものの多くは、この心理・社会的ストレッサーを指されることが多いようです。職場での人間関係や社会的立場、など、さまざまな要因がストレッサーとなり得ます。
ストレッサーによる刺激を受けると、身体面や心理面にさまざまな反応が起こります。この反応は一般的に「ストレス反応」と呼ばれます。主なストレス反応の種類は「身体的反応」「心理的反応」「行動的反応」などです。身体的反応では、胃痛・下痢・便秘、頭痛・腰痛・不眠などが挙げられます。そのほかにも、咳や息切れ、肩こりやめまいなどが引き起こされることもあるでしょう。心理的反応は、主に不安・苛立ち・抑うつ、集中力や記憶力の低下などが挙げられます。行動的反応には、食べ過ぎやお金の浪費、仕事では業務ミス・遅刻・欠勤の増加などがあります。
ストレッサーによって心身に何らかの症状が起きていても、周囲はそれがストレッサーによるものだと気付くことは難しいものです。特にメンタル面の異変は目には見えないため、企業側も本人の問題に過ぎないとリスクを過小に見積もり、職場の実態把握や対処が遅れてしまうこともあります。しかし、多数のストレスが長期に及ぶと、心身に大きなダメージを与える原因になりえます。従業員の健康を守るためにも、早期にストレッサーを把握することが重要です。そのためには、従業員それぞれのストレス状況を把握する必要があります。そこで、ストレッサーの調査・評価として、多く活用されているのが「ストレスチェック」です。
ストレスチェックとは、職場のストレスに関連する質問シートを渡し、従業員自ら記入し回答してもらうものを指します。これは労働における負担や自由度などのストレッサー、気分の落ち込みや苛立ちなどのストレス反応を調査・評価するものです。なお、ストレスチェックは従業員一人ひとりにおけるストレスを評価する方法と、部署ごとなど集団におけるストレスを評価する方法があります。ストレスチェックの回答を集計・分析することで、労働者自身がストレス状態を確認できるようになります。また、企業側はその結果を労働環境の把握・改善に生かすことが可能です。定期的なストレスチェックの実施によって、快適な職場環境の構築に役立てられるでしょう。
ストレッサーとはストレス反応を引き起こす原因となるものです。持続可能な社会を目指した健康経営において、従業員のメンタルヘルスケアの一環として、ストレッサーの把握や環境改善に努めることが重要になります。なお、個人のストレス状態を把握し、職場全体のストレッサーを把握するためには、ストレスチェックを活用することがおすすめです。定期的なストレスチェックの実施によって、ストレス状態の把握や職場環境の改善に役立てられます。ストレッサーへの対策を講じ、健康経営を目指しましょう。