公開日:2021/10/26
更新日:2026/09/04
近年、パワハラ防止法の施行により、企業には厳格なハラスメント対策が求められています。本記事では、人事担当者に向けて「パワハラしやすい上司の特徴と心理」や「パワハラに該当する6つの行為」を詳しく解説します。
パワハラを防ぐには上司個人の性格に依存するのではなく、管理職研修の実施や外部相談窓口の設置など、組織全体での環境づくりが不可欠です。パワハラのリスクを早期に発見し、適切な対応と再発防止策を講じられるしくみをつくっていきましょう。

厚生労働省の調査などからもわかるように、職場におけるハラスメントは依然として企業が解決すべき大きな課題となっています。このような状況を受け、2019年にパワハラ防止法(正式名称:労働施策総合推進法)が成立しました。
この法律により、職場におけるパワハラの防止措置を講じることが完全に義務化されました。企業や人事担当者が必要な措置を講じない場合、行政からの助言・指導・勧告の対象となるほか、悪質な場合は企業名が公表されるリスクがあります。
パワハラ防止法では、職場におけるパワハラの明確な定義が定められています。具体的には、以下の3つの要素をすべて満たすものが職場におけるパワハラと定義されます。
| 要素 | 内容の解説 |
|---|---|
| 優越的な関係を背景とした言動 | 上司から部下への行為だけでなく、業務上必要な知識を持つ同僚や部下からの行為など、抵抗や拒絶が困難な関係性を背景とした言動を含みます。 |
| 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの | 社会通念に照らし合わせて、業務上明らかに必要性のない言動や、その態様が不相当な言動を指します。 |
| 労働者の就業環境が害されるもの | 当該言動により労働者が身体的または精神的な苦痛を受け、就業環境が不快なものとなった結果、能力の発揮に重大な悪影響が生じることを指します。 |
ここでいう「職場」とは労働者が業務を遂行する場所を指し、「労働者」とは正社員だけでなくパートタイム労働者や契約社員など、事業主が雇用するすべての労働者が対象となります。
パワハラを未然に防ぎ、発生時に適切に対処するため、企業および人事担当者は法律に基づき具体的な防止措置を講じなければなりません。主な義務付け事項は以下の通りです。
| 措置の分類 | 具体的な取り組み内容 |
|---|---|
| 事業主の方針等の明確化およびその周知・啓発 | パワハラを行ってはならない旨の方針を明確化し、管理職を含む全労働者に周知・啓発すること。また、行為者への厳正な対処方針を就業規則等に規定すること。 |
| 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備 | 相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知すること。窓口担当者が相談内容や状況に応じ、適切に対応できる体制を整備すること。 |
| 職場におけるパワハラにかかる事後の迅速かつ適切な対応 | 事案が発生した際、事実関係を迅速かつ正確に確認すること。事実が確認できた場合、被害者への配慮措置および行為者への懲戒等の措置を適正に行い、再発防止策を講じること。 |
| 併せて講ずべき措置 | 相談者や行為者のプライバシーを保護するための措置を講じること。また、相談したことや事実確認に協力したことを理由とする不利益な取り扱いを禁止し、周知すること。 |
これらの体制整備や啓発活動は、パワハラしやすい上司を牽制し、健全な職場環境を維持するための重要な基盤となります。

職場でパワハラを引き起こしやすい上司には、共通する心理的傾向や行動パターンが存在します。人事担当者はこれらの特徴を把握し、早期に適切な対応をとることが求められます。以下に、パワハラを行いやすい上司の主な特徴とその背景にある心理を整理しました。
| 上司の特徴 | 心理的背景 | 起こりうるパワハラ行為の例 |
|---|---|---|
| 感情をコントロールできない | ストレス耐性が低く、自己正当化の意識が強い | 大声での叱責、机を叩くなどの威圧的な態度 |
| 公私の区別がつかない | 部下を自分の所有物のように捉えている | 休日や深夜の業務連絡、プライベートへの過度な干渉 |
| 暴力的な言動をとる | 力で相手を支配できるという誤った認識 | 物を投げつける、暴言を吐く |
| 好き嫌いを仕事に持ち込む | 自己中心的な評価基準とえこひいき | 特定の部下を無視する、不当な評価を下す |
| 差別的な考えをもっている | 無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス) | 性別や年齢、国籍に基づく不適切な発言 |
| 立場や影響力に無自覚である | 権威主義的であり、相手の立場に立てない | 威圧的な態度での業務命令、断れない状況での要求 |
自分の感情を適切に処理できない上司は、部下に対してパワハラをしやすい傾向にあります。思い通りにならない状況に直面した際、怒りに任せて部下を激しく叱責してしまうことが多いからです。
必要以上に感情的に怒鳴りつけたり、他の従業員がいる前で執拗に叱責を繰り返したりする行為は、精神的な攻撃としてパワハラに該当する恐れがあります。突発的に感情を爆発させてしまう上司には、人事としてアンガーマネジメントの指導を行うなどの注意が必要です。
公私の区別が曖昧な上司も、無意識のうちにパワハラをしてしまうことがあります。部下のプライベートな事情に過度に立ち入ったり、業務時間外にSNS等で連絡を強要したりすることが挙げられます。
本人に悪意やパワハラの意図がなくても、「個の侵害」にあたる恐れがあります。上司自身が業務内と業務外の明確な境界線を引けるよう、企業側がガイドラインを設けるべきといえるでしょう。
当然のことながら、暴力的な言動をとる上司はパワハラの加害者になりやすいものです。部下のミスや問題が生じた際に、言葉による暴力(暴言)だけでなく、物を投げたり机を叩いたりして威圧するケースがあります。
職場で行われるこれらの行為は、直接的な身体的攻撃や精神的攻撃として重大なコンプライアンス違反となります。問題を解決する手段として暴力的な振る舞いを選択してしまう上司には、厳格な対処と指導が不可欠です。
個人的な好き嫌いで部下への対応を変える上司も、パワハラを引き起こしやすいといえます。部下の能力や実績ではなく、自分との相性や好みで業務の割り振りや評価を決定してしまうからです。
例えば、気に入らないという理由だけで特定の部下に仕事を与えない、あるいは過大なノルマを課すといった行為はパワハラに該当する恐れがあります。周囲からは業務の偏りが見えにくいため、人事担当者は定期的なヒアリングなどで実態を把握する必要があります。
差別的な偏見をもっている上司もパワハラのリスクが高い人です。性別、年齢、国籍などの属性に基づいて、無意識のうちに侮辱的な発言や不当な扱いをしてしまうことがあるからです。
例えば、「女性だから」「外国人だから」という理由で重要な業務から外すなどの行為は、ハラスメントに直結します。このような無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)を取り除くため、社内研修を通じて多様性への理解を深めさせることが求められます。
パワハラは、明確な悪意や強い言動だけでなく、上司自身の立場や影響力への無自覚さからも生じます。例えば、「このままの成績では会社にいられないよ」といった発言は、人事権を持つ上の立場から言われれば、雇用を脅かす重大な圧力として受け取られてしまう恐れがあります。
上司という立場自体が部下に対して強い影響力を持っていることを自覚させ、日頃から心理的安全性のある人間関係を構築するよう促すことが重要です。

職場のパワハラを防ぎ、人事として適切な対応をとるためには、パワハラに該当する恐れがある行為を正しく理解しておく必要があります。代表的なパワハラの類型は次の6つに分類されます。
| 類型 | 概要 |
|---|---|
| 身体的攻撃 | 暴行や傷害など、直接的な身体への攻撃 |
| 精神的攻撃 | 脅迫、名誉毀損、侮辱、ひどい暴言など |
| 人間関係の切り離し | 隔離、仲間外し、無視など |
| 過大な要求 | 業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害 |
| 過小な要求 | 業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと |
| 個の侵害 | 私的なことに過度に立ち入ること |
それぞれの行為について、該当すると考えられる例と、該当しないと考えられる例を交えて解説します。ただし、個別の事情や文脈により判断が異なることもあるため、人事担当者は慎重な事実確認を行うことが求められます。
部下を殴る、蹴る、部下にモノを投げつけるなどが該当します。暴行、傷害と考えればよいでしょう。目につきやすいものなので、周囲の人間も気づいていることが多いものです。
指導の際に書類で頭を叩いたり、胸ぐらをつかんだりする行為が挙げられます。
狭い通路で誤ってぶつかってしまった場合などは、意図的な攻撃ではないためパワハラには該当しません。
人格を否定する言動や長時間の叱責、被害者を貶め罵倒するメッセージの一斉送信などが該当します。目につきにくく、閉ざされた環境で生じているため発覚しにくいほか、両者で意見が食い違うため判断の難しい類型です。
「給料泥棒」「バカ」といった暴言を吐くことや、他の従業員の前で大声で威圧的に叱責を繰り返す行為が該当します。
大きな問題を起こした部下に対し、業務の改善を促すために客観的な事実に基づいてある程度厳しく叱責することは、業務上適正な範囲内であればパワハラにあたらないと考えられます。
特定の部下を職場で孤立させる、不当に別室に隔離するなどが該当します。職場から孤立をするため、発覚のしにくいものです。
自身の意に沿わない部下に対して、業務上必要な連絡を故意に行わなかったり、送別会などの社内行事から意図的に外したりする行為が挙げられます。
新規採用者などを育成するために、一時的に別室で集中的に研修を受けさせることなどは、業務上の必要性があるためパワハラにあたらないといえるでしょう。
絶対に達成できない目標を設定して失敗を激しく叱責するなどが該当します。業務量や目標など形のあるものなので、周囲の人間も気づいている場合が多いです。
新入社員に対して、必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルのノルマを課し、達成できなかったことに対して厳しく追及する行為が該当します。
部下を成長させるため、現状の能力よりも少し高く、達成がやや難しい目標を設定して業務を任せることは、適正な指導の範囲内でありパワハラにはあたらない可能性が高いといえます。
業務とは無関係の雑用を無理やり行わせる、反りが合わない部下に仕事を与えない、能力・経験とも十分な部下を退職に追い込むため簡単な雑用しか命じないなどが該当します。こちらも業務量や目標など形のあるものなので、周囲の人間も気づいている場合が多いパターンです。
管理職として採用したにもかかわらず、嫌がらせ目的で誰でもできるような単純作業のみを長期間命じ続ける行為が挙げられます。
経営上の理由で一時的に業務量が減少し、本来の業務以外の仕事を任せる場合や、部下の能力や適性に合わせて業務内容を見直すことは、パワハラにあたらないと考えられます。
部下の了解を得ず誰にも知られたくない個人情報を職場で話す、部下の私生活にやたらと踏み込む、職場外でも部下を監視するなどが該当します。
交際相手の有無や休日の過ごし方について執拗に問いただしたり、本人の性的指向や病歴などの機微な個人情報を本人の同意なく他の従業員に暴露したりする行為が該当します。
業務上の配慮が必要な事情について、人事担当者や上司がヒアリングを行い、部下の了解を得たうえで必要な範囲で情報を共有するケースは、パワハラにあたらないといえるでしょう。
【関連記事:ハラスメントとは?意味や種類、法律、対処法まで網羅的に解説】

パワハラを未然に防ぎ、働きやすい職場環境を構築するためには、人事担当者による組織的な対策が不可欠です。ここでは、企業が講ずべき具体的なパワハラ対策と環境づくりの手法について解説します。
パワハラ行為者の多くは、自身の言動がハラスメントに該当するという自覚がありません。そのため、管理職を対象とした定期的なハラスメント研修の実施が非常に重要です。研修を通じて、パワハラの定義や該当する行為、適切な業務指導とパワハラの違いを正しく理解させることが求められます。
また、実際の裁判例や具体的な事例を交えて解説することで、より実践的な知識を身につけさせることができます。
パワハラの被害者は、報復や評価への悪影響を恐れて社内の人間に相談しづらい傾向があります。そのため、プライバシーが厳格に保護され、従業員が安心して相談できる外部相談窓口の設置が効果的です。相談窓口の設置は、パワハラ防止法でも求められています。
窓口を設置するだけでなく、社内報やポスター、イントラネットなどを通じて、全従業員に対してその存在と利用方法を継続的に周知することが重要です。以下の表は、社内窓口と外部窓口の特徴を比較したものです。
| 窓口の種類 | メリット | デメリット |
|---|---|---|
| 社内相談窓口 | 社内の事情や人間関係に精通しており、迅速な初期対応が可能。 | 相談者が「情報漏洩」や「不利益な扱い」を懸念して利用をためらいやすい。 |
| 外部相談窓口 | 匿名性が高く、専門家(弁護士やカウンセラーなど)に客観的な視点で相談できる。 | 外部委託のための導入費用やランニングコストがかかる。 |
職場の潜在的な問題を早期に発見するためには、従業員の心理状態や職場環境を定期的にモニタリングすることが欠かせません。労働安全衛生法に基づく年1回のストレスチェック制度の適切な運用に加えて、高頻度で簡単な質問に答えるパルスサーベイを導入することで、従業員のリアルタイムなコンディション変化を把握できます。
これらの調査結果を分析し、特定の部署やチームでストレス度が高いなどの異常が見られた場合は、人事担当者が速やかに現場のヒアリングを行い、職場環境の改善に向けたフォローアップに努める必要があります。

職場でパワハラが疑われる事案が発生した場合、人事担当者は中立的な立場で迅速かつ適切に対応する必要があります。対応を誤ると、被害者の心身に深刻な影響を及ぼすだけでなく、企業の安全配慮義務違反が問われるリスクが高まります。
ここでは、パワハラが発覚した際に行うべき具体的な対応手順を解説します。
パワハラの相談を受けた際は、まず事実関係を正確に把握するための調査を迅速に行います。調査は相談者、行為者、そして第三者(目撃者など)の順にヒアリングを実施するのが基本です。
| ヒアリング対象 | 目的と確認事項 | 対応時の注意点 |
|---|---|---|
| 相談者(被害者) | 被害の状況、時期、頻度、行為者の具体的な言動の確認 | 相談者の心理的負担に最大限配慮し、プライバシーの保護を徹底します。 |
| 行為者(加害者) | 相談内容に対する認識の確認、事実関係の照合 | 先入観を持たず中立的な立場で聴取し、反論の機会を適切に与えます。 |
| 第三者(目撃者等) | 双方の主張が食い違う場合の客観的な事実確認 | 情報漏洩を防ぐため、ヒアリングの目的を伏せるなどの配慮が必要です。 |
調査を進める際は、客観的な証拠(メール、チャットの履歴、録音データなど)も収集しながら慎重に事実確認を進めましょう。
事実関係が確認できた後は、被害者の救済と行為者への処分を速やかに決定します。被害者の就業環境を回復させ、安全に働ける状態を取り戻すことが最優先事項です。
被害者に対しては、メンタルヘルスの不調が見られる場合の産業医との面談設定や、必要に応じた配置転換、業務体制の見直しなどを行います。一方、行為者に対しては、就業規則の懲戒規定に基づき、行為の悪質性や被害の程度に応じた厳正な処分を下します。また、処分だけでなく、自身の行動を振り返らせるためのハラスメント研修の受講を義務付けるなど、教育的な指導も併せて行うことが重要です。
個別事案の解決にとどまらず、企業全体としての再発防止策を策定し、実行することが人事担当者の重要な役割です。今回の事案がなぜ発生したのか、職場環境や業務体制に根本的な原因がなかったかを分析します。
具体的な再発防止策としては、経営層からのハラスメント撲滅メッセージの再発信、管理職を含む全従業員向けの定期的な研修の実施、相談窓口の周知徹底などが挙げられます。パワハラをしやすい上司の特徴を理解し、風通しの良い職場環境を構築することが、結果としてパワハラ防止につながります。企業全体で意識改革を進め、誰もが安心して働ける環境づくりを継続していきましょう。

パワハラしやすい上司は、感情のコントロールが苦手で、自身の立場や影響力に無自覚であるという特徴を持っています。そのため、人事担当者はこうした心理や傾向を深く理解し、先回りした対策を講じることが不可欠です。
労働施策総合推進法(パワハラ防止法)により、企業にはハラスメント防止措置が義務付けられています。管理職向けのハラスメント研修や外部相談窓口の設置、定期的なストレスチェックを通じて、パワハラを未然に防ぐ環境を整備しましょう。
万が一パワハラが発覚した際は、迅速な事実確認と被害者保護を最優先に行い、再発防止策を徹底することで、健全で働きやすい職場を守り抜くことが重要です。