更新日:2021/10/19
2015年に施行された「ストレスチェック制度」の目的は2つあります。1つは、労働者が抱えるストレスの程度を検査によって明確にし、メンタルヘルスの不調が起きる前に防止すること。そしてもう1つは、検査結果を集団的に分析して職場環境の改善に生かし、労働者のメンタルヘルスを守ることです。この記事では、ストレスチェック後の集団分析にスポットを当て、概要や職場環境改善への効果について紹介していきます。
ストレスチェックは、労働安全衛生法第66条の10の内容に基づいて、50人以上が働く事業所ですべての労働者に対して年1回行うことが義務付けられている制度です。調査票を用いて点数で評価するもので、労働安全衛生規則によって、調査票には「職場における当該労働者の心理的な負担の原因に関する項目」「当該労働者の心理的な負担による心身の自覚症状に関する項目」「職場における他の労働者による当該労働者への支援に関する項目」の3つの領域を含むことが定められています。
ストレスチェックの結果は労働者本人に通知されます。医師や保健師などが分析を行い、メンタルヘルス不調のリスクが特に高い「高ストレス」だと判定された場合は、事業者側から医師による面接指導を勧奨することも重要です。しかし、本人からの申し出がない場合に、事業者側が面接指導などを強制することはできません。事業者側は、「高ストレスと判断されたことによって該当する労働者が不利益をこうむることはないこと」や「個人情報はきちんと守られること」を説明するとともに、職場環境改善に努める必要があります。このときに、ストレスチェック結果の集団分析を活用することが有効です。
集団分析は、職場で行う個人のストレスチェック結果を、年齢や性別、職種、職位、部署などに分類し、まとまりごとにストレス状況を把握するために行います。集団分析を行うことにより、健康を損ねる恐れのある集団を把握できるため、「支援が必要な部署はどこなのか」「仕事に対してどういったことが負担になっているのか」「年代によって感じ方は違うのか」といった傾向を知ることが可能です。
ストレスチェックは、労働者がメンタルヘルス不調に陥る前に、そのリスクを低減することを目的としています。一人ひとりに対するフォローには限界があり、希望しない人への対応は難しいため、職場環境の側面からメンタルヘルスの問題を改善できるという意味でも、集団分析は効果的だといえるでしょう。ストレスチェック結果の集団分析や、その結果を踏まえて必要な措置を取ることは、労働安全衛生規則に基づく努力義務とされています。強制ではありませんが、職場環境改善に効果的に活用できるため、メリットが大きい取り組みであることを知っておきましょう。
集団分析の手法として一般的なのは、厚生労働省の「仕事のストレス判定図」を使う方法です。仕事のストレス判定図は、「量コントロール判定図」と「職場の支援判定図」の2つの図からなり、前者で「仕事の量的負担」と「仕事のコントロール」、後者で「上司の支援」と「同僚の支援」について、ストレスの強さと健康に与える影響を確認できます。2つの図をもとに「総合健康リスク」が導き出され、その数値からメンタル不調のリスクがどの程度あるかを見ることが可能です。集団分析を行う際の情報提供に、労働者の同意は必要ありませんが、分析の対象が10人に満たない場合は、個人を特定できる可能性が高いため、同意が必要です。
集団分析に「仕事のストレス判定図」を用いると、「量コントロール判定図」の場合は、業務内容や量の感じ方が分かり、「職場の支援判定図」の場合は、上司や同僚との人間関係や支援について、改善が必要だということが分かります。業務内容や量について、健康リスクが高い部署に対しては、限られた人に業務が集中していないかを確認したり、適切な配置転換を行ったりする対応を検討する必要があります。業務内容や労働時間も加味すると、改善点が明確になります。人間関係や支援について、健康リスクが高い部署に対しては、ミーティングや面談の頻度を増やしたり、適切な助言やサポートを行うための研修を行ったりして、風通しの良い関係づくりを行うとよいでしょう。
仕事のストレス判定図には、全国平均が表示されているので、自社のストレス状況について客観的に比較して理解することができます。また、2つの図から導き出された総合健康リスクの値が120点以上であれば、すでに何らかの問題が生じていると考えられるため対応が必要、150点以上であれば、健康問題が現れているため早急な対応が必要とされているので、このような高い数値が出た場合は、医師や保健師と相談のうえ、対策を練るようにしましょう。
集団分析を行うことにより、入社間もない世代のストレス要因を把握して対処ができれば、早期離職を防ぐことにつながります。また、負担の大きい年代や管理職のストレス要因に気付いて的確な対策をとることができれば、部署全体に良い影響が出るでしょう。部署ごとにストレスの要因が明確になれば、その要因を解消することで業績アップにもつながると考えられます。労働者にとっては、長く健康に働き続けられるメリットがあり、会社にとっては業績アップや離職防止のメリットがあります。
目に見える効果を出すためには、集団分析の精度を高めなければなりません。そのためには、できるだけ多くの人にストレスチェックを受検してもらうことが求められます。会社がメンタルヘルスの問題に積極的に取り組んでいることや、ストレスチェックをきちんと分析して職場環境の改善に活用することを労働者に広く周知し、多くの人に参加してもらうように呼びかけることが大切です。
年に1度のストレスチェックを行う際には、集団分析をセットで行い、職場環境の改善に生かすことが大切です。このことが、「労働者のメンタルヘルスの不調を未然に防ぐ」というストレスチェック制度の実施目的にも合致します。集団分析の結果から健康リスクが高いポイントを把握したうえで、必要な研修の実施や配置転換、業務内容の見直しなどを検討するとよいでしょう。集団分析を活用することは、労働者と会社の双方にとって大きなメリットがあります。