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職場でパワハラが発生した場合の慰謝料はどれくらい?3つの裁判事例と相場を紹介
職場でパワハラが発生した場合、その加害者だけでなく企業も責任を問われる可能性があります。この場合、当事者同士での話し合いで解決できることもあれば、裁判にまで発展することも少なくありません。いずれにしても、パワハラが事実であった場合には、加害者や企業に対して慰謝料の支払い義務が生じます。そういった事態を想定して、パワハラ裁判に関する具体的な事例を知っておくことは大切です。
この記事ではパワハラに関する3つの裁判事例と、加害者や企業に命じられた慰謝料の相場などを紹介します。
事例1.上司による嫌がらせ・叱責・暴行によるパワハラ
上司による叱責や嫌がらせなどがパワハラに該当するとして、加害者と企業に損害賠償命令が下された案件を紹介します。
裁判に至るまでの概要
金融関連企業に勤務する上司Sは、部下A・B・Cが上司Sの提案による業務遂行手順に従わなかったり報告義務を怠ったりしたことに立腹し、嫌がらせや暴言・暴行を働いていました。嫌がらせは部下AとBに対して行われました。部下AとBの近くに扇風機を設置し、風が直接2人に当たるように向きを固定し続けたのです。しかも、その行為は12月から始まり、時には風の強さを「強」にしながら半年間にわたって続いたのでした。この嫌がらせとともに、上司Sは部下AとBに対して、叱責や暴言を繰り返すとともに始末書の提出も強要していました。
部下AとBからの事情聴取や弁明を許さないまま一方的に叱責したうえで、「今後、同じようなことを行った際にはどのような処分も受け入れる」「私は給料に見合う仕事をしていませんでした」といった旨の始末書を提出させていたのです。また、会議で部下Aが業務に関する意見を述べたことに激昂し、解雇勧告とも受け取られるような言葉で怒鳴りつけることもありました。
もう1人の部下Cに対しては、背中への殴打や膝を足の裏で蹴るといった暴力とともに、彼の妻を中傷するような発言を行ったりしていました。これら一連の行為がパワハラに当たるとして、部下A・B・Cは上司Sに対して慰謝料の支払いを求める訴訟を起こしたのです。
裁判過程と判決
パワハラの認定には、厚生労働省におけるパワハラの定義が用いられます。厚生労働省におけるパワハラの定義とは、令和2年6月1日から義務化(中・小企業は令和4年4月1日までは努力義務)された、改正「労働施策総合推進法」(パワハラ防止法)のことです。この法律によるパワハラの定義は、「優越的な関係を背景とした言動」「業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動」「労働者の就業環境が害されるもの」という3つの要素によって構成されています。
この裁判では、被告の言動がパワハラに当たるかどうかとともに、原告3者それぞれに対するパワハラの程度などが争われました。裁判の結果、通常は扇風機が回されていない時期にもかかわらず、長期間にわたって原告A・Bに向けて執拗に風を当て続けたことが、不快感と著しく大きな精神的苦痛を与えていたと判断されました。叱責や暴言と始末書の提出に関しては、原告Aに対しては「解雇を想像させる不安を与え」、原告Bに対しては「人格の否定にも当たる文言を始末書に強要した」と糾弾しています。原告Cに対する暴行や妻に対する中傷に関しては、まったく正当な理由もなく怒りにまかせて原告Cを殴打したり蹴ったりしたことが、「正当性の乏しい違法な暴行」に当たるとされました。妻への中傷に対しては、被告上司の「威圧的な言動に恐怖や憤りを感じつつも、退職を迫られることを恐れて受忍を余儀なくされていた」と判断されています。
その結果、この案件は厚生労働省の定義に当てはまると判断されパワハラに認定されました。そのうえで、それぞれの程度に応じて原告Aには慰謝料60万円、原告Bには慰謝料40万円、原告Cには慰謝料10万円の支払いが原告上司と企業に対して命じられています。
事例.2優越的地位にある同僚からのパワハラ
会社の同僚からの業務とは無関係な指示・命令がパワハラに当たると判断された案件を紹介します。
裁判に至るまでの概要
IT関連企業のS社に勤務するAは、社内で資金調達を担当するなど一般社員とは異なる立場にあり、上司などからも一目置かれる存在でした。同じくS社に勤務するBは、Aとは2カ月ほど遅れて入社しましたが、Aの直属の部下ではありませんでした。それにもかかわらず、AはBに対してさまざまな指示・命令を繰り返したのです。やがて、それが原因で心身に苦痛を感じるようになったBは、Aの言動が優越的地位を利用したパワハラに当たるとして提訴に踏み切りました。
裁判の過程と判決
この裁判では、まず被告が原告に対して優越的地位にあるかどうかと、被告の原告に対する言動がパワハラに当たるかどうかが争われました。その結果、被告は原告と比べて業務上の地位が高く、その指示・命令に従わなければ業務に支障をきたすことなどから、被告は原告に対して優越的地位にあると判断されたのです。そのうえで、業務上必要がない深夜の電話や会社とは無関係の仕事の命令、また役員や社員を前にした暴言・叱責や原告を中傷するメールの送信などが、厚生労働省におけるパワハラの定義に当たるとして、被告に対して慰謝料200万円の支払いが命じられたのです。
このように、厚生労働省におけるパワハラを定義する際の要素の1つである「優越的な関係を背景とした言動」とは、必ずしも上司による言動だけではないことに注意が必要です。
事例3.派遣労働者に対する派遣先従業員によるパワハラ
派遣労働者に対する派遣先企業の従業員によるパワハラが、派遣先企業の使用者責任に当たることが認められた案件を紹介します。
裁判に至るまでの概要
派遣労働者として清掃会社に勤務していたAは、清掃会社の従業員から危害を加えるかのような叱責や暴言を浴びせられたことで恐ろしくなり、当該企業での就労を断念しなければならなくなりました。その後、Aは従業員による叱責や暴言によって精神的苦痛を受けたとして、清掃会社に対して慰謝料の支払いを求める訴訟を起こしたのです。
裁判の過程と判決
この裁判では、清掃会社の従業員による暴言の内容が、指示・命令の限度を超えているかどうかが争われました。その結果、「監督者が指示・命令または叱責を行う際には適切な言葉を用いることが当然」であって、発言の真意に関わらず「監督を受ける者がすべてを受け入れる義務はない」と判断されました。そのうえで、従業員の言動が厚生労働省の定義するパワハラに当たると判断するとともに、清掃会社に対して従業員への指導・監督責任を怠ったとして、使用者責任を認めたのです。
ただし、1審では清掃会社の不法行為も認めていましたが、2審では清掃会社が迅速に調査を開始していることなどから不法行為の認定は取り消したうえで、慰謝料30万円の支払いを命じています。
このような3事例の結果から、パワハラにおける慰謝料の相場は概ね10〜200万円程度であると考えられます。もちろん、パワハラの強度やそれによって引き起こされた結果によっては、これ以上の金額になる可能性があることには留意が必要です。
職場のパワハラを防止することは社員だけでなく会社を守るためにも大切
職場にパワハラを発生させてしまうと被害を受けた社員の心身はもちろん、加害を与えた社員の人生にも大きなマイナスとなりかねません。また、社内の雰囲気が悪くなって社員の意欲が低下した結果、業績が悪化することも考えられます。もちろん、パワハラが公になれば会社のイメージダウンにも繋がります。このようなマイナス面が想定されることからも、職場でパワハラが発生しないように十分な施策を講じることが大切です。
※本記事の内容についての個別のお問い合わせは承っておりません。予めご了承ください。
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