更新日:2025/09/02
ストレスチェック制度の運用において、「実施者」と「実施事務従事者」の役割や要件は複雑でわかりにくいと感じていませんか。
本記事では、両者の明確な定義、必要な資格、具体的な業務内容を解説します。ストレスチェックをスムーズに実施するための知識を確認しましょう。
ストレスチェック制度の最大の目的は、従業員のメンタルヘルス不調を未然に防止(一次予防)し、早期に発見して適切な対応を促すことです。個々の従業員が抱えるストレスを可視化し、セルフケアを促すだけでなく、集団分析を通じて職場のストレス要因を特定し、職場環境改善へとつなげることで、企業全体の生産性向上や離職率の低下、そしてより働きやすい職場づくりを目指します。
ストレスチェック制度を円滑かつ効果的に運用するためには、「事業者」「ストレスチェック制度担当者」「ストレスチェック実施者」「実施事務従事者」といった各役割が明確に定義され、それぞれがその責任と役割を果たすことが不可欠です。
従業員のデリケートな健康情報を取り扱うため、個人情報の保護と守秘義務の徹底が極めて重要です。各役割が専門性と倫理観を持って連携することで、従業員が安心して制度を利用できる環境が保障され、制度本来の目的達成へとつながります。
【関連記事:ストレスチェック基本の「き」がわかる!導入手順・実施方法・注意点まとめ】
ここでは、ストレスチェック制度における主要な役割と担当者について解説します。
事業者は、ストレスチェック制度の実施に関する最終的な責任を負う主体です。これは、企業や法人そのもの、または個人事業主を指します。事業者は、制度の導入から運用、そして結果の活用に至るまで、多岐にわたる責任と役割を担います。
具体的には、ストレスチェック制度の導入を決定し、実施に必要な経費を支出します。また、ストレスチェックの結果に基づいて高ストレス者と判断された労働者からの面接指導の申し出があった際には、医師による面接指導を実施し、その後の就業上の措置を講じる責任があります。制度全体の運営方針を定め、労働者に対して周知徹底することも事業者の重要な役割です。
【関連記事:ストレスチェック料金はいくらかかる?補助金活用で費用を抑える方法も紹介】
ストレスチェック制度担当者は、ストレスチェック制度の実務的な計画立案と調整を行う役割を担います。担当者はストレスチェックの結果に直接触れることはないため、人事権を持つ人が就任することも可能です。衛生管理者、事業所内のメンタルヘルス推進担当者、定期健康診断担当部署の担当者などがこの役割を担うことが望ましいとされています。
主な業務内容としては、ストレスチェックの実施計画やスケジュールの策定、外部委託やツールの利用をする場合の契約内容の調整、調査票の選定と評価方法の決定、そして実施時期や日程などの労働者への通知などが挙げられます。制度が円滑に進むための土台を築く重要な役割です。
【関連記事:ストレスチェックの受検を従業員に拒否されたら?受検率を高めるポイントを解説】
ストレスチェック実施者は、ストレスチェックの中心的な役割を担い、専門的な知識と厳格な守秘義務が求められます。労働者の個人情報や健康情報を取り扱うため、その選任には特定の資格要件が定められています。
ストレスチェック実施者になれるのは、以下のいずれかの資格を持つ者です。
※2015年(平成27年)11月30日時点で労働者の健康管理業務に3年以上従事した経験のある看護師と精神保健福祉士については、研修の受講が免除
実施者はストレスチェックの結果など個人の健康情報を取り扱うため、労働安全衛生法(第104条)により守秘義務が課せられています。
実施者の主な役割と業務内容は以下のとおりです。
実施者は、これらの業務を通じて、労働者の心身の健康状態を把握し、必要な支援へとつなげる重要な役割を担います。
実施事務従事者は、ストレスチェック実施者の指示を受け、ストレスチェックの実務を補助する役割を担います。実施事務従事者も、実施者同様に守秘義務を負っています。
実施事務従事者には、特別な資格は必要ありません。産業保健スタッフ、事務スタッフなどが担えます。
ストレスチェック対象者の人事に関して直接権限を持つ監督的地位にある者(人事権者)は、実施事務従事者になることはできません。くわしくは後述します。
実施事務従事者の主な役割と業務内容は以下のとおりです。
これらの業務は、ストレスチェック制度の円滑な実施を支えるうえで不可欠な実務であり、実施者が専門業務に集中できる環境を整える役割を担います。
【関連記事:職場環境改善の鍵!ストレスチェックで高ストレス者に対応するための3ステップ】
ストレスチェック制度において重要な役割を担う実施者と実施事務従事者の違いを以下の表にまとめました。
役割 | 要件 | 主な業務内容 |
---|---|---|
実施者 | 医師、保健師、または厚生労働大臣が定める研修を修了した看護師・精神保健福祉士・歯科医師・公認心理師。 | 質問票の選定、ストレス度評価、高ストレス者選定、面接指導の必要性確認・適性判断、検査結果の保存、集団分析、事業主への助言など。 |
実施事務従事者 | 特別な資格は不要。ただし、人事権を持つ者は就任不可。 | 実施者の指示に基づき、質問票の回収・集計・データ入力、結果の通知、面接指導の推奨、受検者との連絡調整など。 |
ストレスチェック制度において、実施事務従事者は実施者をサポートする重要な役割を担いますが、人事権の有無によって厳しく制限されます。
ストレスチェックの結果は、従業員のデリケートな健康情報です。これが人事評価などに不当に利用されることを防ぐために、人事権を持つ者がストレスチェックの結果情報に直接的に関与することは認められていません。
ストレスチェック制度における事務作業は、従業員の健康情報を取り扱うか否かによって大きく「実施の事務」と「その他の事務」の2種類に分類されます。
「実施の事務」はストレスチェックの結果情報(個人の健康情報)に直接かかわるため、人事権を持つ者は一切関与できません。一方、「その他の事務」は個人の健康情報に直接かかわらないため、人事権を持つ者でも従事することが可能です。
事務の種類 | 概要 | 人事権を持つ者の関与 | 具体的な業務例 |
---|---|---|---|
実施の事務 | 労働者の健康情報を取り扱う事務 | 不可 |
|
その他の事務 | 労働者の健康情報を取り扱わない事務 | 可能 |
|
【関連記事:50人未満の事業場におけるストレスチェック:実施するメリットと方法】
ストレスチェック制度を円滑に運用するためには、実施者および実施事務従事者の適切な選任と配置が不可欠です。
多くの企業において、ストレスチェックの実施者として顧問産業医への依頼が検討されます。しかし、産業医が実施者の役割を引き受けることに抵抗を示すケースも少なくありません。このような場合、依頼する側が以下の点を明確にすることで、交渉をスムーズに進められるでしょう。
もし、これらの交渉を行っても産業医が実施者を引き受けない場合は、実施者対応のできるツール導入も視野に入れる必要があります。
【関連記事:ストレスチェックと産業医の役割|企業のメンタルヘルス対策を徹底解説】
ストレスチェックの実施や実施事務従事者の業務を効率化するために、実施者対応ができるストレスチェックツールの導入を検討する企業が増えています。ツールを選定する際には、以下の基準と注意点を押さえましょう。
ストレスチェックの準備・計画から実施・進捗管理・集計・集団分析・高ストレス者対応・労基署への報告に至るまで、ORIZINなら一本化できます。
社内に実施者になれる人材がいない場合、ORIZINの実施者代行をご利用ください。実施者代行が標準附帯される「スタンダードプラン」とコストを抑えながらオプションで実施者代行を選べるシンプルプランのいずれが良いか、お見積もりで比較検討いただけます。
本記事では、ストレスチェック制度における「実施者」と「実施事務従事者」の重要な役割、資格要件、業務内容、そして選任における実務上の注意点を解説しました。とくに、実施事務従事者が人事権を持つ場合の業務範囲の厳格な区分は、個人情報保護と制度の信頼性確保に不可欠です。
社内にストレスチェック実施者として適する人材がいない場合は、ぜひORIZINの活用をご検討ください。