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ストレスチェック実施からセルフケアにつなげる方法~認知行動療法について~
労働安全衛生法の一部改正を受けて、2015年12月より施行されたストレスチェック制度は今年(2019年)で4年目を迎えました。メンタルヘルス対策の充実・強化などを目的として、従業員50名以上の事業所に対して、年1回の従業員へのストレスチェック実施を義務付けられたこの制度ですが、実際ストレスチェックを受けてその結果が出たとしても、漠然と受け止めてしまってはいないでしょうか?
今回は従業員はどのようにしてセルフケアによる改善につなげていけばいいかを、認知行動療法の視点から解説していきます。
厚生労働省におけるストレスチェック制度の基本的な考え
厚生労働省におけるストレスチェック制度の基本的な考えは以下の通りとしています。
- 労働者のメンタルヘルスの不調を未然に防止する一次予防を目的としたもの
- 二次予防及び三次予防も含めた労働者のメンタルヘルスケアの総合的な取り組みの中にストレスチェック制度を位置付け、取り組みを継続的かつ計画的に進めることが望ましい
ストレスチェック制度の目的の一つである一次予防は、メンタルヘルスの不調になりうる原因を除去することで「病気の発生を未然に防ぐ」措置をとることを言います。
これはストレスチェックを実施した企業だけでなく、ストレスチェックを受けた従業員自身が取り組めるようになることで、より効率的な一次予防となることが期待されています。
企業の取り組みとしては職場環境改善のためのストレスチェックの実施以外にも、現段階での努力義務としてストレスチェックを実施した後に、ストレスチェックの結果に基づいて、収集データを匿名化・グルーピングして集団分析データに加工し、その集団分析データを活かした組織としての職場環境の改善があげられます。
ストレスチェック制度も4年目を迎えているため、職場環境改善の取り組みに興味をもち、実際に取り組もうとする企業も増えてきているかと思います。
しかし、従業員側の取り組み方はどうでしょうか。
毎年ストレスチェックを受けて、その結果を受け取り、
「あぁ、今回はこんな結果だったんだ」
もしくは、
「去年よりは良かったかな」
「去年より悪かったかな」
と思う程度で通常の業務に戻り、また一年後ストレスチェックを受ける時期になるまで、その結果のことは思い出すこともほとんどないということもあるのではないでしょうか。
現状そういった従業員が多い理由としては、ストレスチェックを診断された個人の結果をもらい、高いストレスをもっていると判断された方は医師面接等の次にするべき取り組みが具体的に提示されますが、それ以外の人たちは個人結果を受け取っても、具体的にどうすればよいのかわからないことが多いためです。
将来自分自身が高いストレスを抱え込むようになるよりも、ストレスチェックは受けて終わり、結果をもらって終わりというものではなく、その結果を元に行動につながるようなセルフケアしていくことが重要になってきます。
そこで今回は最近耳にする機会も増えている“認知行動療法”の一部をセルフケアの方法としてご紹介します。
認知行動療法とは
認知行動療法(Cognitive Behavior Therapy)とは、「認知(ものの捉え方や考え方)」と「行動」に焦点を当て、自分自身の偏りのある「認知」や「行動」について自分自身で理解し、偏りを認識・修正することで問題解決をしていくことを目的とした心理療法です。
メリットとして自分の問題や症状を具体的に理解できるようになり、自己の認知を観察することによって変化に気づきやすくなることで、自己コントロールに活かしやすいということがあります。
ただし認知行動療法は心理療法の1つであるため、しっかり受けていただく際には、カウンセリングルームや心療内科等の認知行動療法を実践しているところを利用するのがよい方法ではあります。
ただ、具体的になにを行なっているのかわからず、カウンセリングや心療内科を受けるにはハードルが高い、そもそも心療内科などを自発的にうけるのは抵抗があるという方もいらっしゃるかと思います。そのため、今回は認知行動療法でどのようなことを行うのかを具体的に紹介していきます。
認知行動療法とひとことで言っても、症状によってプロセスが異なることがあります。
今回紹介するのは「基本モデル」と呼ばれるもので、ストレス状況に置かれた自身のストレスの成り立ちを様々な面からとらえる方法になります。
「基本モデル」では、出来事や状況といった“環境”と“個人の反応”の相互作用を考えていきます。それらを視覚化し、自分自身の体験を理解していきます。
“個人の反応”は、具体的には“気分・感情”、“認知”、“行動”、“身体反応” です。
この基本モデルの考え方を利用して、自分自身のストレス状況を視覚的に理解できるように、例を使いながら説明していきましょう。
<出来事・状況>
大事な会議の資料を作るのを忘れてしまった!
⇒そのときの、自分自身の反応を4つの側面から考えてみます。
上記の例は、自分自身の考えの中でも比較的認識しやすい内容になっており、少しの状況の変化によって反応は変化します。
<行動>の部分をまず確認してきましょう。
「急いで作る」という項目があります。
どの時点で忘れたことに気づいたかによりますが、「急いで作らなければならなくなった」原因として、「スケジュール管理はしっかりできていたのか」「していたならば、どういう管理をしていたのか」など、この行動を起こさないために今後改善できる箇所があるかどうかを自分自身で検討できます。
また「上司に報告をする」という項目もあります。
この項目も原因として「上司とのコミュニケーションが不足していたのでは?」「定期的な報告を怠っていたのではないか?」など、改善できる箇所がありそうです。
次に、<認知>の部分を確認してみましょう。
「上司の反応を気にして」います。
この時点で上司がどのように感じるのかを意識してしまうと不要に焦りや恐れが生まれてしまい、それらに囚われて逆に効率が下がることでより悪循環に生みかねません。
認知の先がどうなるか?というイメージを予測することも時には必要ですが、過剰な心配は、必要以上に自分を追い詰めてしまうことにもなります。
「行動」と「認知」の部分は、自分で理解しやすく、それらの対応のために変更しやすい部分になります。
個人の反応の中で自分の意志で変更できそうなところはどこなのか、どのタイミングで行動していればこのような結果にならなかったのか。
これらを日常のアクシデントやミスの中から少しでも意識して客観的に理解することで、自分自身の失敗の傾向やストレス状況を把握することで、より軽い段階でのセルフケアを行っていくことが可能となります。
まとめ
今回はストレスチェックのセルフケアの方法の一つとして、認知行動療法を紹介してきました。
セルフケアの例として、今回あげた例はほんの一部にすぎません。会社でストレスチェックを行った結果から、自分自身のストレスに気づいた時に普段発生しているストレスのコントロールに意識を向け、自分自身で一次予防をしてみるのもよいと思います。
(参考文献)
改正労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度について(厚生労働省):https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei12/pdf/150422-1.pdf
大島・安元(2011), 認知行動療法を身につける グループとセルフヘルプのためのCBTトレーニングブック.
乾・氏原・亀口・成田・東山・山中(2005). 心理療法ハンドブック.
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