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障害年金について第2回 「初診日」とは

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最近では、少しずつですが障害年金について知られるようになってきました。ご自身でもしくはご家族の方が請求の手続きをしようと思い、申立書を準備したり、診断書の作成依頼をされたりするケースもあると思います。当事務所にも障害年金のご相談が多くあるのですが、なかにはどうしても自分ではできないということで、お手続きをご依頼いただくこともあります。

ご自身であるいはご家族の方が請求の手続きをされようとしてつまずく理由はいくつかありますが、その中でも多いのが、「初診日」がはっきりしない(初診日の証明がとれない)というものです。

初診日がわからない?

このようなご相談がありました。

首都圏にお住まいの50代の女性の方で、地方の大学を卒業と同時に、その地方の一般企業に就職しました。ところがその会社に就職してすぐに、上司からひどいパワハラを受けてうつ病を発病し、退職を余儀なくされました。その後、体調をみながら仕事をしたり退職したりを繰り返して今に至るのですが、今現在は、以前よりも体調が悪化して仕事ができる状態ではなく、心療内科に定期的に通院しています。そこで障害年金の請求をしようとしたのですが、「初診日」でつまずいてしまいました。  

はじめに病院に行った日を初診日と言いますが、それは今からもう30年近く前のことで、本人も当時のことをあまり覚えていません。どこの病院だったか?いつ行ったか?誰かの紹介だったのか?、、、何か記録が残っていればよいのですが、もうかなり昔のことなのでご本人もご家族も記憶がはっきりしませんし、何も記録が残っていません。

この方は、現在の病状からすれば障害年金を受給してもおかしくないと思われる状態です。しかし、現実にはご自身で請求手続きができずにいるのです。手続きができないのは「初診日」がわからないからです。この方のように初診日でつまずいて請求手続きがうまくいかない方は多くいらっしゃいます。

一般に、障害年金の手続きは、初診日が古くなればなるほど難しくなります。ご本人はもとよりご家族や医師など関係者の「記憶」があやふやになりますし、カルテやお薬手帳などの「記録」も時間の経過とともに残っている可能性が低くなり、初診日を特定することが難しくなるからです。場合によっては初診の病院が廃院になっているというケースもあります。では、初診日がわからないと障害年金は受給できないのでしょうか?

初診日とは何か?

そもそも初診日とは何なのでしょうか?

初診日とは、その症状で初めて医師の診察を受けた日です。病気を発症した日や病名が確定した日ではありません。

ところで、この初診日が特定しづらいケースが多々あります。先ほど例に挙げた方のように、初めて病院で受診してからかなりの年月が経過しているケースがその一つです。
その他にも、たとえばうつ病などの精神疾患の場合、精神科や心療内科を受診する前に、頭痛により近所の内科を受診していれば、その日が初診日として認定されることがあります。ちなみに、障害年金の初診日は、医師または歯科医師の診療を受けた日、とされていますので、整骨院や鍼灸院等は初診日として認められません。

また、次の場合も初診日となります。

(1)同一の傷病で転医があった場合は、一番初めに医師等の診療を受けた日

(2)傷病名が確定しておらず、その傷病と異なる傷病名であっても、同一傷病と認められる場合は、その異なる傷病名の初診日 

(3)障害の原因となった傷病の前に相当因果関係があると認められる傷病があるときは最初の傷病の初診日

(4)先天性の知的障害(精神遅滞)は出生日

(5)先天性の心疾患などは、具体的な症状が出現し、初めて診療を受けた日

例えば、骨折して病院に行った、ということであればその日が初診日ということははっきりしていますが、そのように簡単にはわからないケースであれば、本当の初診日はいつなのか慎重に確認する必要があります。

なぜ、初診日が重要なのか?

ところで、障害年金の請求手続きを行う上で、この、初診日をはっきりさせる、ということはまず一番初めに行うべきことで、かつ、最も重要なことです。

なぜ一番初めに初診日をはっきりさせないといけないかというと、これが決まらないとそれ以降の準備(保険料納付要件の確認や診断書の作成依頼、申立書の記載など)ができないからです。ある日を初診日として準備をしていたところ、実はその初診日が間違っていたとなると、全てやり直さなくてはいけません。医師に記載してもらった診断書を再度書きなおしてもらうのは大変です。

さらに、なぜ初診日が重要かというと、この初診日がいつであるかによって、そもそも障害年金が受給できるか否か、また受給できる金額に関係するからです。具体的には、次の3つです。

初診日に関する障害年金受給の要件

(1)初診日によって、受給できる障害年金の「種類」が決まる

会社員である日に初診日があれば厚生年金、自営業や学生や主婦であれば国民年金、公務員の場合は共済年金、といった具合です。例えば、障害年金の請求手続きをするときは病気で働けないので国民年金に加入していても、初診日の時点では会社員で社会保険に加入していたということであれば厚生年金ということになります。そしてその種類(国民年金・厚生年金・共済年金の違い)によって受給する金額が異なります。

(2)保険料の納付要件は、初診日の時点で確認される

障害年金を受給するためには、それまでに保険料を納付している必要があります。初診日の前々月において、直近1年間に保険料の未納がなければ、保険料の納付要件はOKですが、1ヶ月でも未納がある場合は、次に、過去の納付状況をすべて確認して判断します。このとき、全体で3分の2以上納めていれば、納付要件はクリアです。逆に3分の1を超えて未納があれば、納付要件を満たさず、残念ながら障害年金を受給できません。

このように、初診日がいつであるかによって、その時点から過去の保険料の納付状況が問われますので、初診日が特定できないということは保険料の納付要件を確認できないということになってしまいます。

(3)障害を認定するのは、初診日から1年6ヶ月の時点となる

障害年金を受給するためには障害の状態に該当していなければいけません。この障害の状態をいつの時点で判断するかというと、原則、初診日から16か月後の時点です。

もし、16か月より前に症状が固定した場合は症状が固定した時点となります。これらの日を「障害認定日」と言いますが、初診日がいつであるかによって、この障害認定日も決まります。初診日が特定できないということは障害の程度を確認する認定日が決まらないということになってしまいます。

このように、初診日は障害年金の受給権の有無や受給金額を左右するとても重要な日付、ということになります。

初診日がわからないと障害年金は申請できないのか?

障害年金を請求するには、初診日を明らかにする書類(受診状況証明書)が必要です。この書類は医療機関で作成してもらうのですが、当時の診療録(カルテ)に基づいて事実を証明する必要があります。しかし、終診(転医)から5年を経過していると、当時のカルテが破棄されていることがあります。あるいは初診の病院がすでに廃院してしまっていることもあります。

そうした場合、2番目に受診した医療機関の受診状況の証明書と、初診日を合理的に推定できる具体的な参考資料により、本人が申し立てた日を初診日と認められる場合があります。

~具体的な参考資料の例~

身体障害者手帳・療育手帳、精神障害者保健福祉手帳

身体障害者手帳等の申請時の診断書

生命保険・損害保険・労災保険の給付申請時の診断書

交通事故証明書

労災の事故証明書

事業所等の健康診断の記録

インフォームド・コンセントによる医療情報サマリー

健康保険の給付記録(健康保険組合や健康保険協会等)

次の受診医療機関への紹介状

電子カルテ等の記録(氏名、日付、傷病名、診療科等が確認されたもの)

お薬手帳、糖尿病手帳、領収書、診察券(可能な限り診察日や診療科が分かるもの)

⑫ 第三者証明

⑬ その他(例えば、交通事故による請求で事故証明が取得できない場合、事故のことが掲載されている新聞記事を添付するなど)

第三者証明とは?

平成27年から、初診日の証明がとれない場合に、「第三者証明」の利用が認められるようになりました。これは、初診当時の状況を知っている第三者(三親等以内の親族は除く)が作成するもので、参考資料のひとつです。

第三者証明が有効となるのは、原則として以下のうちいずれかの場合です。

  • 第三者が、請求者の初診時の受診状況を直接目撃していた場合
  • 第三者が、請求者やその家族から、初診日頃に、初診時の状況を聞いていた場合
  • 第三者が、請求者やその家族から、請求時から5年以上前に、初診時の状況を聞いていた場合

まとめ

障害年金の請求手続きをするにあたっては「初診日」を特定することがまず何よりも重要ですが、はっきりしないケースも多々あります。

医療機関で初診日の証明がとれなくても、それに代わる方法はあります。ご自身で請求手続きをするのが難しい場合でも、請求すること自体をあきらめずに、病院のケースワーカーや社会保険労務士など、障害年金に詳しい専門家にご相談ください。

特定社会保険労務士プロフィール

特定社会保険労務士 柏原 佳史(かしわばら よしふみ)

社会保険労務士法人 東京労務グループ

平成25年社会保険労務士登録

東京、福岡、熊本を中心に企業の労務顧問として経営者のサポートを行っている。
企業内の労務管理セミナーや勉強会など幅広く活動中。
障害年金の申請代行実績も多数あり。

WEBサイト:https://www.tokyokaikeigroup.com

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