公開日:2020/10/06
企業が所有している固定資産に関する収益性が想定していたものより低下し投資額を回収できない状態になることがあり、これを固定資産の減損といいます。
固定資産の減損に対しては「減損会計」を行う必要がありますが、「減損会計」とは一体どのようなものなのでしょうか。
その手順を大きく5つのステップに分け、それぞれ分かりやすく説明していきます。
企業の利益が変動する要素はさまざまですが、そのうちの1つとして固定資産の減損が挙げられます。固定資産の減損とは、企業が所有している建物や設備などの固定資産に関する収益性が想定していたものより低下したことで、投資額を回収できない状態になっていることを指します。会計上のルールでは一定条件を満たす減損が発生した場合、減損処理を行うことを求めています。したがって、固定資産に生じている減損に関して、回収できる金額を考慮して固定資産の帳簿価額を減少させる減損会計をしなければなりません。ちなみに減損会計とは減損処理とも呼ばれ、固定資産の減損に関するさまざまな会計上のルール及び処理方法のことをいいます。
減損処理の手順を大きく分けると、「資産のグルーピング」「減損の兆候」「減損損失の認識の判定」「減損損失の測定」「会計処理」、計5つのステップに分けられます。日本における減損処理の特徴は、すべての減損損失に関して処理を行うのではなく、一定の条件を満たしている場合のみ減損処理を行うことを求めている点です。そのためいくつかのステップを経て、最終的に処理が行われます。
減損処理の1つ目のステップは、資産のグルーピングです。事業に使われている固定資産は、複数の資産が一体となって使われているケースが多いでしょう。たとえば、工場1棟と工場内に置かれている機械装置の稼働は、一体として利用されているのが通常です。工場と機械装置が、有機的に連動して独立したキャッシュフローを生み出している状態といえます。減損処理においてはも、一体となってキャッシュフローを生み出す複数の固定資産の範囲を特定することが重要になります。この固定資産の範囲の特定が、資産のグルーピングです。
減損処理は、独立したキャッシュフローを生む資産のグループごとに行う決まりになっています。つまりグルーピングを行う場合は、ほかの資産や資産グループからは独立してキャッシュフローを生む資産かどうかを判断することが重要となるのです。グルーピングは、独立したキャッシュフローを生み出す最小単位で、ある固定資産の範囲を特定することだと考えるとよいでしょう。減損処理は、この資産グループごとに処理を行っていきます。
2つ目のステップは、減損の兆候が生じているかどうかの確認です。減損の兆候とは、ステップ1で合理的に判定されたそれぞれの資産グループにおいて、減損が生じている可能性を示す事象のことです。各資産グループにおいて、減損損失に関するすべての計算を行うことは、実務上かなりの手間を要します。そのため資産グループごとに、比較的簡単に判断できる基準を適用して減損が生じている可能性が高いものを抽出するのです。そして減損の兆候があるものだけステップ3に進み、兆候がないものは減損が生じていないとみなして減損処理の適用外とします。
減損の兆候を判断する具体的な基準としては、資産グループが生み出している製品などの市場価格が著しく低下したことや、資産グループが生み出す営業損益やキャッシュフローが継続的にマイナスに陥っていることなどが挙げられます。製品の市場価格低下や営業損益の継続的マイナスだけでは、減損が生じている状態とは断定できません。しかしこれらが起こっている場合は減損が生じている可能性が高いため、次の減損処理に進むかどうかの判定基準として十分役立つのです。
3つ目のステップでは、減損損失の認識判定を行います。減損損失の認識とは、ステップ2で減損の兆候ありと判定された資産グループについて、減損会計を適用するかどうかの最終判断を行うことをいいます。ここで減損損失を認識すれば、いよいよ減損損失の測定といった詳細な計算をし会計処理を行います。
減損損失の認識は、割引前将来キャッシュフローの総額と帳簿価額を比較することで行います。割引前将来キャッシュフローとは、認識判定の対象となる資産グループが将来にわたって生み出す、すべてのキャッシュフローを合計したものです。たとえば、ある資産グループが将来5年間にわたり毎年100万円ずつキャッシュフローを生み出すと予測される場合は、割引前将来キャッシュフローは500万円になります。これに対してその資産グループの帳簿価額が600万円であれば、将来のキャッシュフローで回収することはできません。そのため割引前将来キャッシュフローの総額よりも帳簿価額が大きい場合に、減損損失を認識できるのです。割引前将来キャッシュフローの総額よりも帳簿価額が小さい場合は減損損失の認識は行われず、次のステップに進む必要はありません。
4つ目のステップは、減損損失の測定です。減損損失の測定とは、実際にいくら減損損失が生じているのかについて計算することをいいます。計算式は、「減損損失=帳簿価額-回収可能価額」です。回収可能価額はその固定資産グループが将来回収できるキャッシュフローの総額ですが、ステップ3におけるものとは異なります。回収可能価額を確定させるためには、正味売却価額と使用価値をそれぞれ計算し、いずれか高い方を回収可能価額とすることになっています。
正味売却価額とは、減損損失を確認している時点における時価から売却や処分にかかる費用を控除した金額のことです。資産としての使用を停止して換金したらいくらのキャッシュフローが得られるかを表します。一方、使用価値は、将来に渡って資産グループに含まれる固定資産を使用し続けた場合に得られるキャッシュフローの総額です。この場合の総額は、資産によって得られる「割引後」のキャッシュフロー総額である点も押さえておきましょう。
最後のステップは、減損の会計処理です。ステップ4において測定した減損損失の金額を、固定資産の帳簿価額から減額する処理を行います。仕訳は、「借方:減損損失/貸方:固定資産」です。ポイントは、減損損失を、複数の固定資産に配分する必要があることです。ステップ4で確定した減損損失は、資産グループ全体の金額となっています。しかし会計処理を行う場合は、各固定資産それぞれの帳簿価額を減額しなければなりません。そのため対象となる資産が1つである場合を除き、減損損失を各資産に配分する処理が欠かせないのです。配分を行う場合は、帳簿価額に基づいて比例配分するなど、合理的な方法で行うようルール化されています。
企業はさまざまな固定資産を保有しており、それぞれの能力が十分発揮できるよう物理的な管理をしっかり行うことが大切です。また同時に、会計的な管理も欠かせません。減損が発生している状態かどうかを会計期間ごとにもれなくチェックし、発生している場合は適切に減損処理を行うことも重要です。減損処理を間違いなく行えるようにするためにも、会計処理の手順についてよく確認しておきましょう。