更新日:2023/11/02
令和5年10月から適格請求書保存方式、いわゆるインボイス制度が始まりました。数年前から全国各地で経営者から実務担当者の皆様にセミナーを通じてインボイス制度や電子法簿保存法の説明をしていますが、この「電子帳簿保存法」がイマイチわからないといった声が多くあります。今回のコラムでは、電子帳簿保存法の概要について説明します。
皆様の会社に存在する帳票を分けると、大きく3つに分けることができます。一つ目は、自社の会計システムに入力して作成した会計データとしての帳票、二つ目は、取引先から紙媒体で受領した帳票、三つ目は、取引先からデータで受領した帳票です。この3つの様態に応じて電子帳簿保存法の各種のルールが決められています。
経理担当者が会計システムに仕訳等を入力した際、帰宅時にバックアップデータを保存します。本来、原則として、この会計データは紙に印刷して紙で保管しておくことが必要です。税務署の税務調査にすぐに対応できることが趣旨です。ただ、このご時世、いちいちへ印刷して保存することはとても非効率ですし、コストもかかります。そこで、印刷をせず、データで保管する場合に、「電子帳簿保存法の電子帳簿等保存の要件」を満たす必要が出てきます。
経理担当者のもとに、郵送で紙の請求書が届いたり、営業担当から接待後の領収書等が紙で提出されたりします。本来、原則として、これらの帳票は紙でそのまま整理して綴って保管しておくことが必要です。これも税務署の税務調査にすぐに対応できることが趣旨です。ただ、上記同様、いちいち紙でそのまま保存することはとても非効率ですし、保管場所のコストもかかります。そこで受領した紙の帳票をスキャンで読み取ってデータで保管する場合に、「電子帳簿保存法のスキャナ保存の要件」を満たす必要が出てきます。
経理担当者がメールを開くと、取引先からメールに添付されたデータの請求書が届いたり、営業担当が出張した際に法人登録している旅行サイトの画面でデータの領収書をダウンロードしたりします。本来、原則として、これらのデータは紙へ印刷して保管しておくことが必要です。税務署の税務調査にすぐ対応できることが趣旨です(もういいですね笑)。そこで、(ここから重要)、2024年1月から、これらデータで受領した帳票はデータで保存することが“義務“となり、紙で印刷しての保管は原則禁止となります。この場合に、「電子帳簿保存法の電子取引の要件」を満たす必要が出てきます。
電子取引の取引情報に係る電磁的記録について、2024年(令和6年)1月1日以降の電子取引は、紙での保存は認められず、電磁的記録を保存しなければなりません。それでは実務上、どのような準備が必要になるのか具体的に説明します。
まずは、現状の電子取引内容の把握、見える化からスタートしましょう。実はこの作業が最も手間と時間がかかりますので、なるべく早く開始することがポイントです。まずは、経理内で把握し、その後、各事業部へ確認すると効率的です。確認事項は“会計入力の基資料“としてどのような電子取引書類(データ)があるのか確認します。加えて、授受方法(クラウドサービス・EDI・PDF等々)、保存方法・場所、そして、月間・年間の件数まで把握します。
手間ではありますが、Excel等で集計、リストアップしておくとこの後の業務がラクになります。
電子データを保存するための要件は、①当社か先方がタイムスタンプを押すこと②専用のシステムを使うこと③事務処理規程を備え付けることのうち、いずれかを満たす必要があります。Step1で把握した件数に応じての選択になりますが、実務的な目安とすると、月の件数が50件までであれば③で対応、それ以上の場合は②や①の対応が効果的です。
電子データの保存については、「日付・金額・取引先」を用いた検索機能の確保が必要となります。具体的には、証憑収集・保管の専用システムに保存するか、自社のサーバー内のフォルダ等への保存となります。この点、自社フォルダ等へ保存する場合はファイル名を都度、規則的に入力し直すか、Excelファイルで牽引簿を作成する必要があるため、実務的にとても手間がかかります。加えて保存期間が7年間と長期です。自動で検索要件を満たしてくれる証憑収集・保管システムの利用をお勧めします。
前述のStep1で把握、見える化した際、多くの会社では現状、電子データを一旦紙に印刷して承認や経理に回す運用をしています。しかし、2024年1月以降、電子データは電子データのまま保存する必要がありますので、コストの面でも一旦紙に印刷することなく承認・経理提出の流れが構築できるように運用を検討しましょう。特に上長承認については、紙であればサインや押印となりますが、データの場合の確認、承認方法は事前の検討が必要です。
前述のStep2で「③事務処理規程を備え付ける」を選択した場合は、国税庁のホームページで公開されている雛形を参考に、規程を作成する必要があります。また、保存場所としてシステムを利用する場合は、システムや使用するパソコン等の操作説明書を備え付けておきます。
ここまで整理した事項を従業員、取引先に説明しましょう。特に従業員に対しては、経費精算のエビデンスが電子データの場合の対応事項をしっかり説明しておきましょう。取引先に対しては、紙とデータを併用している場合はデータに統一していただく事、紙からデータに切り替えていただく事を依頼しましょう。
「会社の帳票の様態3パターン」について簡単に説明しましたが、令和5年10月以降のインボイス制度開始に伴い、まず対応が必要なことは「電子帳簿保存法の電子取引の要件」を満たした対応をすることです。なぜなら、義務だからです。一方、「電子帳簿保存法の電子帳簿等保存の要件」「電子帳簿保存法のスキャナ保存の要件」は現在の経理実務に照らすと、その導入は非常に重要です。業務のDX化、コスト削減の点で効果抜群です!3パターンを理解して、今後の対応をご検討ください。
OAGグループ OAG税理士法人 株式会社OAGコンサルティング 執行役員
税務会計顧問、経営コンサルティング業のほか、経営幹部を始め、経理担当者・営業担当者等を対象に全国各地で講演・セミナー講師としても従事。明快かつ実践的な内容には定評がある。「管理会計手法を用いた投資・経営管理」及び「税務を活かしたキャッシュフロー経営」等に強みを持つ。
OAGグループURL:https://www.oag-group.co.jp/