第7回 「一斉指導」を受け続けるとデキる部下は壊れやすい

優秀な経理は、なぜ静かに壊れるのか ~“数字を守る人”を守る組織のつくり方~

更新日:2026/09/25

優秀な人を会社が守る

一斉指導と個別指導

皆さんの職場では、一斉指導と個別指導、それぞれどのように使い分けをしているでしょうか。それとも特に使い分けはしていないでしょうか。もし経理の皆さんが現場社員向けにメッセージを発信する場合、たとえば一斉指導はどのようなときに行うでしょうか。私でしたら、月末近くになったら月次決算のスケジュールと、それに伴う経費精算や請求書の締め日の連絡を一斉メールでするなど会社員時代はしていました。一方、個別指導に関しては、ほとんどの人が正しく申請・提出できているようなものの中で、数人だけまだできていない、という場合には個別に連絡して指導をしていました。では、次のようなケースの場合は皆さんならどうするでしょうか。社長から「経費を10%節約したいから、経理部で分析して現場にアナウンスや指導をしてほしい」と言われた場合です。皆さんならどのように現場にアナウンスするでしょうか。
これは主に二つの方法に分かれると思います。一つは全社メールで「社長から経費を10%節約したいと言われましたので、皆様先月の経費よりも10%節約していただきますようご協力をお願いします」と一斉指導をするやり方です。もう一つは、全員の経費精算を見直し、毎日タクシー移動している社員や高額な交際費を頻繁に使っている社員などがいたら、直属の上司に、これは適正な使い方かどうかを質問し、もし節約できるなら社長から指示が出ているので業務に支障がない範囲で検討していただけませんか、と個別にお願いをするというやり方です。そのやり方で10%の削減を達成できれば、一斉メールはしません。
どちらもやり方として間違ってはいませんが、私は時間が許せば後者のやり方をベースにやっています。なぜかというと、一人ひとりの経費精算を見ていると、日頃から自主的に節約して経費を使っている人と、湯水のごとく使っている人と、まちまちなケースがどの会社でも見受けられるからです。その場合、前者のように、「全員、前月比で一律10%の経費削減をお願いします」とアナウンスしてしまうと、普段から節約している人にとっては10%の削減はとても大変な半面、普段から浪費している人にとっては10%の削減は何の苦労もない、という逆転現象が起こってしまうのです。その上、普段から節約している人にとっては「普段からこんなに節約しているのに、さらに経費を使うなと言われたら、何も活動しないほうがいいのではないか。こんなことなら普段から他の人みたいにもっと浪費しておけばよかった」とモチベーションが下がってしまうことも起こります。一斉指導と個別指導は、その指導する内容によって、使い分けをしなければいけないケースもあるのではないでしょうか。

一斉指導でデキる部下が潰れてしまうケース

今のケースは経費についてでしたが、部下のマネジメントについても同様のことが言えると思います。たとえば、皆さんに経理の部下が5人いたとします。その中の一人が業務でミスをしました。その際に全員に対して「もっと皆集中しましょう」と一斉指導をするか、それとも、そのミスをした社員だけに個別指導をするか、どちらを選択するでしょうか。ここまで読むと「それはミスをした社員にだけ指導をするのが普通でしょう」と判断する人も多いと思いますが、実際には上司は前者を選ぶケースも多いのです。なぜかというと、指導する立場になると、デキていない部下に対して個別指導ばかりすると集中砲火しているように見えてしまわないか、という心理が働く人もいるので、「皆に言っている形で特定の人に注意をしたい」というやり方を選択するケースも多いからです。これはこれで注意する対象者の刺激を和らげる効果はあるのですが、デメリットもあります。
それは、普段から集中して仕事をしている人が上司から「皆さんもっと集中して仕事をしましょう」と言われたりメールやチャットが来たりしたら、そのような人は「今以上に私はもっと集中しないと」と思って必要以上に自分を追い込んでしまうことが起こるということです。上司としてはそのような意図は全くなくても、知らず知らずのうちに、真面目な部下がどんどん追い込まれていくということが起こるケースがあるのです。

「概念」を指導する際のポイント

とはいえ、今は上司もプレイングマネージャーがほとんどですから、部下が何人もいる中で、全てのことを個別指導する時間を割くことも大変です。そのため、このような「集中」「モチベーション」というような曖昧な概念や、それぞれの主観によって認識が変わるような内容を一斉指導したい場合は、数字や具体的な事例をワンセットにして伝えると良いと思います。たとえば「月次決算処理でミスが3件以上あった人は、もう少し集中して、次回は多くても1件以内に収まるようにしましょう」と言えば、ミスが1件もなかった部下は「じゃあ私は上司から見たら今の状態で集中できているということだから、今後も同様に仕事をしよう」と思うだけで、「さらに集中しなければ」とは思わないはずです。その一方、3件以上ミスがあった部下は、言われた瞬間は「そんなの経理なんだからミスくらいあって当然だろう」と、内心上司に反発していても、周囲の同僚が全員「わかりました」と言うのを見て、「あれ、自分が少数派なんだ…」と気付いてくれることでしょう。遅刻をしない、嘘をつかない、期日までに申請する、など、といったモラルや日付が明確なものは一斉指導をしても全員が同じ認識をするので問題ありませんが、そうでないものは、個別指導ができれば個別指導を、一斉指導で対応しなければいけない場合は数字や具体的事例などを添えて伝えると良いでしょう。

次回は、経理部門がなぜ「孤立しやすい部署」であるのかについて考えていきます。

この記事の執筆者
前田 康二郎
前田 康二郎(まえだ こうじろう)

流創株式会社代表取締役
エイベックスなど数社で管理業務全般に従事し、サニーサイドアップでは経理部長として株式上場を達成。その後中国・深センでの駐在業務の後、独立。現在は利益改善、コンプライアンス改善、社風改善の社員研修、コンサルティング、講演、執筆活動などを行っている。著書に『メンターになる人、老害になる人。』(クロスメディア・パブリッシング)、『社長になる人のための経理とお金のキホン』(日経BP 日本経済新聞出版)、他多数。