更新日:2026/08/28
上司が「少し休んだら?」「今日はもう帰ったら?」そう声をかけても、「大丈夫です」「もう少しで一区切りです」「月次が終わったらしっかり休みますので」と返答するのが優秀な部下です。そしてそう言いながら結局は休まないのも優秀な部下の特徴です。
経理業務は集中力を要する作業が多いので、本来はある程度作業をしたら一定時間休んだほうが仕事の質も下がらず、働き続けるよりも最終的には効率が良いと私は個人的には思います。しかし現実には優秀な経理社員の中には、隙間時間を作らず、延々と作業をするほうを選択する人もいます。それは日本特有の「気合・根性」の伝統から影響を少なからず受けているのではないかと思います。
たとえば、その道のプロフェッショナルの方がインタビューで「1日休むだけでも感覚が鈍くなる。3日休むなんてとんでもない」と答えている記事などを見てしまうと、真面目で責任感のある人は、「やっぱり仕事も少し休んだら感覚が鈍ってしまうから休んではいけないんだ」と思い込む人もいるのだと思います。でも実際にはどうでしょうか。前回のオリンピックで金メダルをとったあるアメリカの選手は、子供のころから続けていた競技を大学進学とともに一度引退し、2年間のブランクの後復帰し、復帰後たった2年で金メダルをとりました。日本のアスリート界でも、これまでの「気合・根性」という指導ができなくなってきたにもかかわらず、それに反比例するかのようにオリンピックの獲得メダル数は増加傾向にあります。子供が減ってスポーツ全体の競技人口が減少傾向にある競技も多いのに、です。これは明らかに、一方的なスパルタ的指導というものは、確かに効果がある人にはあるけれど、それによって潰されてきた才能のほうが圧倒的に多かったということの数値的証明かもしれません。
では、今時のアスリートの方たちがそれまでの人たちと比べて全く練習をしていないかというと、そうではありません。どの人も「今まで生きてきて一番練習を重ねてきました」と言います。では、これまでのスパルタ指導とは何が違うかというと、スパルタ指導は「休むべき時に休まないことでさらに心身が成長する」という前提が考えにあり、今時の指導は「休むべきときには休むことで心身が整い、さらに鍛えることで心身に無理やダメージを与えることなく成長する」という考えが前提にある違いだと思います。だから前者と後者の「今まで生きてきて一番練習を重ねてきました」というのは、言葉は同じでも、実態は大きく異なるということです。
前者の場合は、指導者が「とにかく休むな!」と練習を続けさせ、途中で脱落した人は「そもそもその程度の人間だった」という烙印を押し、厳しい指導者についてこられた人だけが「優秀な人」という評価を受けます。後者はそうではなく、本人が自発的に練習をし続けている時に「さっきから練習ばかりして全然休んでいないでしょ。1時間に10分はちゃんと休まないと集中力が切れてけがをするよ」と指導しているはずです。つまり、前者と後者、どちらが多く人数が生き残っているかというと後者ですので、分母が多い分、その中から傑出したパフォーマンスを発揮する人が生まれる確率が上がっているというのが今の時代の特徴だと思います。
これを経理社員に置き替えるとどうでしょうか。指導者が「とにかく1日中休まず集中して集計チェックし続けなさい!」とスパルタ指導をした場合、今の時代ならまずほとんどの人が途中で退職するか心身をやられてしまうことでしょう。そうすると経理部にいずれ誰もいなくなってしまい、経理作業に遅延が発生し、指導者の責任問題になります。仮に生き残った人がいたとしても、「不条理な指導に耐える忍耐力」は一流になるでしょうが、それを今度は自分の後輩に強いてしまうことになり、場合によってはパワーハラスメント、モラルハラスメントにつながっていくケースもあります。
一方、休むべき時には休む指導をした場合はどうでしょうか。まずほとんどの人は退職もせず、心身も壊さず、それなりに全員が成長することでしょう。そこから先の成果に関しては、個々人のセンスや努力もあると思いますが、それぞれの個人の才能が開花する可能性を秘めた社員が揃った経理部の体制になると思います。
「休まないように強制的に働かせる」より「自主的に働いてもらい、働きすぎの時だけ休むように指導する」ほうが、指導者としても楽ですし、職場の雰囲気も悪くなりません。それらの社員達がいずれ自分の後輩や部下にも、自分がかつて指導されたように「ちゃんと休まないと身体を壊すよ」「いくら優秀でも身体を壊してしまったら働いて稼げないよ」と指導をし、組織の離職率、休職率も増加しないことでしょう。
ただ、優秀な社員は「休む=罪悪感」を持っている方が多いのも事実です。「自分だけ休んだら皆に悪いんじゃないか」「さぼっていることにならないか」「他の同僚に遅れをとってしまうんじゃないか」と考えてしまいます。そのため、指導のポイントとして「休む」ということをさまざまな言葉に置き替えて伝えることをお勧めします。
「リフレッシュ」「振り返り」「見直し」「リセット」など、仕事を「仕事=作業+少しの休憩」のワンセットとして説明することで、「休憩をとることで、さらに次の仕事では良いパフォーマンスができる」という「ルーチンの一環」として本人には捉えてもらうことで、「休むということは、良い仕事をするためには必須の行為なのだ」と理解してもらえれば、上司が都度声掛けしなくても、仕事をし過ぎたなと自分で思ったら自発的に休憩を入れるようになり、心身が壊れることが少なくなると思います。ただ、それで放置するのではなく、指導者はその様子を見守っていただき、加減が自分でうまく調整できない後輩や部下がいる場合は、声がけしてコツをアドバイスしていただければと思います。
次回は、デキる部下は、他の社員と「一斉指導」を受け続けるとなぜ壊れることがあるのかについてお伝えします。

流創株式会社代表取締役
エイベックスなど数社で管理業務全般に従事し、サニーサイドアップでは経理部長として株式上場を達成。その後中国・深センでの駐在業務の後、独立。現在は利益改善、コンプライアンス改善、社風改善の社員研修、コンサルティング、講演、執筆活動などを行っている。著書に『メンターになる人、老害になる人。』(クロスメディア・パブリッシング)、『社長になる人のための経理とお金のキホン』(日経BP 日本経済新聞出版)、他多数。