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第9回 一人経理担当者がメンターであり続けるコツ

『メンターになる人、老害になる人。』~人材不足の時代に求められる令和の経理マネジメントとは~

更新日:2025/10/28

先輩・後輩

「一人担当者」という職場環境が引き起こす問題

経理の業務改善でよくあるケースの一つに、「ベテランの一人担当者が長きにわたって担っていたアナログな経理業務のデジタル化・引継ぎ」があります。周囲の人達は「ベテラン社員が業務を手放さない」「仕事を囲ってしまいブラックボックス化している」「本人がデジタル化に猛反対していて困っている」と主張しますが、ベテラン社員本人に話を伺うと「誰も私の仕事の大変さを理解していない」「そもそもデジタル化できない複雑な処理が多い」「私だって誰かに引き継ぎたいけれど社内に引き継げる有能な社員がいない」と主張します。このような場合、どちらの主張を信じればよいでしょうか。

このようなケースは、会社が経理などの管理部門にあまり関心を寄せず、人材や体制が手薄な会社によく起こります。経営者は「経理なんてちょいちょいとやれば誰でもできるだろう」という発想で、全体の経理業務までは精通していない人を経理担当者として採用し、「あとは税理士の先生がいるから先生と話してうまいことやっておいて」と担当者に丸投げしてしまいます。
当然、「ちょいちょいと」経理などできるわけがありませんから、入社した経理担当者は「話が違う、誰もサポートしてくれない」と思いながらも独学で必死に勉強して苦労しながら一人で業務を習得していきます。しかしその過程や苦労を社内の誰も知ろうとはしません。そのため、一人担当者の経理社員は、最初は不満を募らせながらも、徐々にあきらめの境地となり「じゃあこの場所を自分の城にしよう」と、自分のお気に入りの場所、自分が過ごしやすい場所へと作り上げていきます。その過程では、経理処理や社内ルールなども一般的ではない独特なやり方に変えていってしまうこともあります。
そのように苦労を重ねて「自分の牙城」として確立したところへ突然、社内のデジタル化に興味を示した人たちが声をかけてきます。「経理業務をデジタル化するので、今までのやり方を見直してください、場所を明け渡してください、他の人にも業務を共有してください」と。そのように言われたらその担当者はどう思うでしょうか。

「今まで私が誰の助けもなくどれだけ苦労してこの体制を作ってきたと思っているのか。それを私に相談もなく突然デジタル化するだなんて非常識にもほどがある!」「この人たちは経理知識もないし何もわかっていないから話し合いにもならない!」となってしまいます。そしてそのような反応をベテラン社員からされたデジタル化を推進しようとする人たちは、それまでの一人担当者の心情の変遷など知りませんから、単に「ベテラン社員がデジタル化を拒否して、業務を手放さない」「経理業務を人質にして籠城している」というようにしか思えず、困ったものだ、と捉えてしまい、冒頭のような双方膠着した状態になってしまうのです。

このような場面に遭遇すると、双方が「わからずや、頑固、無遠慮」と、相手の「人間性」を責め立てるのですが、長年さまざまな職場を見てきた結果から申し上げると違います。「一人担当者」という環境がこのような状況を生ませてしまうのです。だからそのような時は「そうではなくて、どの会社でもこのような一人担当者の体制にしてしまうと同じ状況になるんですよ」と、説明して、お互いが個人攻撃をして人間関係が壊れないようにしてから業務改善の実務アドバイスに着手します。

一人担当者はそうでない人の何倍もストレスが溜まる

いくら人手不足だといっても管理部門の担当者は最低二人以上にして一人担当者は避けたほうがいいと私が思うのは、一人担当者という環境は、仕事でわからないことがあったり悩みがあったり愚痴が言いたいときでもそれをすぐに吐露できる相手が身近にいないので、とてもストレスが溜まるからです。そのストレスがこのような事案が発生したときに蓄積していた不満として一気に爆発するリスクが非常に高いのです。そうなると「私がこんなに大変な思いをしてきているのに」「私の業務を何もわからないくせに」「私に抜け駆けして勝手にデジタル化を進めようとして」というように「私」が主語になった激しい主張が出てきてしまいます。
メンターと老害の違いの一つに「メンターは相手を主役にして、老害は自分を主役にする」という特徴があります。そのため、ベテラン社員の主張はどれも正しいのですが、正しいがゆえに、相手からは激しい老害をされている、困ったものだ、と受けとられてしまうことになりかねないのです。

メンターと老害の共通した性格の特徴に「責任感が強い、真面目、面倒見がよい」という特徴もあります。経理担当者もこのような属性の人たちが非常に多くいます。そのため、経理業務を分担せず「一人で全部私がします」という人も多くいます。経理業務は連動性があるので、分担するより一気通貫で一人でしてしまったほうが、やりやすい側面もあるからです。
しかし私はそのような考えの人たちには「一人で丸抱えはなるべくしないほうがいいですよ」と一応お伝えはします。なぜかというと一人で業務を丸抱えして一人担当者になると、前述した状態に必ずなるからです。「親切心」「頼まれて仕方なく」「良かれと思って」といった理由一人で経理業務を丸抱えして一人担当者として頑張ってきたのに、逆に周囲からは面倒な人と後々思われたら私だったらたまったものではないな、とこれまでさまざまな職場を見てきて思うからです。

ただ、一人担当者であっても、メンターとして慕われ続けている人もいます。その人は他の人と何が違うかというと「仕事をやってあげている」という発想がない人です。
ではどのような発想で仕事をしているかというと「仕事をやらせていただいている」という姿勢です。しかしこれは一人担当者の環境では簡単なことではありません。もし私が一人担当者で慣れない仕事をやらされたら(やらされた、という時点ですでに私はアウトですが)「こんなに仕事をやってあげているのに」と、口には出さなくても内心思ってしまうと思います。
「やってあげている」というのは、相手に対して敬意のある表現でしょうか。敬意のない表現です。老害の発生パターンの典型は「誰もが認める実力のある人が周囲に敬意のないふるまいをすること」です。一人担当者というのは、実力がなければ務まりません。そして一人担当者であるがゆえにストレスが溜まります。だから周囲につい「これだけ皆のためにやってあげているのに」と、上から目線で敬意のないふるまいをしてしまうことが起こりやすく、よほど自己管理ができる人でないと、極めて老害を誘発しやすい環境の一つなのです。

「一人担当者」が老害に陥らずメンターであり続けるには

実は私もかなり一人担当者の経験はあるのですが、そのようなときはどうしていたかというと、「こんなに大量の仕事を一人でやらせるなんて普通の人だったら『敬意がない!』ってぶち切れるよなあ。それをこうやって粛々とやっているんだから自分は偉い!」と、自分で自分を日々「褒めて」「なだめて」「慰めて」「大切にして」、ストレスを昇華させて、敬意のない行為が外に漏れ出ないように気をつけていました。

老害にならないためには、「一人担当者の環境に近づかない」「自ら一人担当者の環境を作らない」ということがまず大切ですが、現実には一人担当者にならざるをえない環境も多いことでしょう。その場合は、「実力や見込みがあるから自分は一人担当者を任されているんだ。いい加減な人や危ない人だったらさすがにうちの会社でもそのような人を一人担当者にさせないだろう」と、自分で自分に敬意を払っていただきたいと思います。そのうえで、一人担当者として敬意のあるふるまいを心掛けていただければ、業務がデジタル化した後でも、皆の頼りになるメンターとして活躍し続けていただくことができるでしょう。

この記事の執筆者
前田 康二郎
前田 康二郎(まえだ こうじろう)

流創株式会社代表取締役
エイベックスなど数社で管理業務全般に従事し、サニーサイドアップでは経理部長として株式上場を達成。その後中国・深センでの駐在業務の後、独立。現在は利益改善、コンプライアンス改善、社風改善の社員研修、コンサルティング、講演、執筆活動などを行っている。著書に『メンターになる人、老害になる人。』(クロスメディア・パブリッシング)、『社長になる人のための経理とお金のキホン』(日経BP 日本経済新聞出版)、他多数。