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第8回 AIの時代は、「機嫌の良い人」が生き残る理由

『メンターになる人、老害になる人。』~人材不足の時代に求められる令和の経理マネジメントとは~

更新日:2025/09/26

先輩・後輩

令和時代にうまくいっている経理チームの特徴は、「チーム全員の機嫌が良い」

最近「この会社の経理チームはうまくまわっているなあ」という印象を持つ会社があり、何が違うのかなと考えてみた結果、その経理チームは全員「機嫌が良い」ということに気付きました。自分でデータを集計していて計算が合わなくても、イライラして舌打ちをしたり、「くそっ」など汚い言葉を吐き捨てたりするのではなく、明るく「あー合わないっ!」と笑顔で言っていますし、現場の社員が月遅れの経費精算や支払請求書を手に「どうしたらいいでしょうか」と経理に訪ねてきても、「なんでちゃんと出さないんですかっ!」といきなり怒ったりせず「あー、やっちゃったねー」とまずは笑顔で迎え入れています。
だからといってゆるい雰囲気で適当に管理や処理をしているわけではなく、その後は普通に対処をしているわけですが、それぞれの経理担当者の機嫌の良さが全体の雰囲気を非常によくしているのです。

その経理チームのリーダーの方は非常に穏やかな方で、その人の人柄とマネジメントが大きな影響を与えているのだと思いますが、私が会社員時代に経理部長としてマネジメントをしていた時は、振り返るといつもピリピリしていたと思います。機嫌良くしていようとは思うのですが、経理は基本的に仕事の流れが「受け身」になることが多いので、いくら自分が完璧に準備していても、現場の予定がずれるとそのまま経理も影響を受けますので、上機嫌でいられないことが数多くあります。しかも昔はアナログ作業もたくさんありましたので、たとえば月次決算を1時間前に締めたばかりだというのに現場担当者が「100万円の支払請求書を経理に回覧し忘れていました」などと経理に来られてしまうと、金額からしても翌月扱いにできず、もう一度エクセルなどを駆使して原価計算をやり直ししなければいけない、ということもありました。作業時間やその後に詰まっているスケジュールを考えると「あーやっちゃったねー」と笑顔で迎える心の余裕はとてもありませんでした。
「経理社員が舐められてしまうと、こういった経理の証憑の提出も軽視されてしまう」と思い、部下にも「あなたたちも現場社員に舐められないように」というような指導を当時はしていた気がします。経理チーム自体もアットホームなチームではなく、ピリピリとしたチームだったと思います。でも今の時代は、デジタル化も進んでいますので、同じようなことがあっても処理そのものは短い時間で対応できるようになってきていると思いますので、ピリピリとした緊張感のあるチームも一つの形であると思いますが、今の時代はもう少しアットホーム寄りにしてもいいのだろうと思います。

AIの浸透は実務だけでなくコミュニケーションにも影響を及ぼしている

アットホーム寄りにしてもいいという、もう一つの理由はAIの浸透です。
皆さんはAIを仕事やプライベートでよく使うでしょうか。私自身は、経理関連の仕事でいえば、1円単位まで情報を知りたいものがあってAIに質問をすると、AIは「だいたい〇円です」という無難な答えが多く、自分が検索して調べてしまったほうが早いことが多くてまだまだ進化の余地があるかなと思っています。また、執筆などの仕事に関しては、やはり著作権の侵害が心配ですので、このようなコラムや書籍の執筆もAIは使わずオリジナルで書いています。ただ最近、自分が著作権を持っている原稿をAIにかけて要約をしてもらったらとても良くまとめてもらえたので、今後はそのような活用は増えると思います。
このように、人間と比較すると経理界隈の仕事においてAIを人間にまるごと代替するというのはまだ課題があり、「共存」が現実的には一番良いのだろうと思いますが、1点、確実にAIが有利なものがあります。それが「機嫌」です。
AIはお願いごとをすると、素直にやってくれます。そして何度お願いしても不機嫌になりません。どうしてもわからない時には「わかりません」と回答しますが、不機嫌な形で断ることはありません。これが人間だったらどうでしょう。不機嫌な人だったら「今忙しいんですけどどうしても今やらないといけませんか」「なぜ私がそれをやる必要があるんですか」「私がそれをやることで何か成長するんですか」「そんなこと私にわかるわけがないじゃないですか」等と答える人もいるかもしれません。実際、そのように部下に対応されて普段愚痴をおっしゃっている社長や上司の方々がAIを多用しているようにも思います。
「前田さん、AI使っている?私はほぼ毎日AIと対話しているよ」と上機嫌でお話してくださる方と話していると「この方は、これまでよほどストレスが溜まっていたのだな」と思い、逆に人と人とのコミュニケーションに戻れなくなるのではないかと心配になるのです。

「どのような人と一緒に仕事をしていきたいか」をランキング形式で順位付けするとしたら、これからの時代は

1位 機嫌の良い人
2位 AI
3位 機嫌の悪い人

に確実になっていきます。これまでであれば、「あの人いつも不機嫌で一緒に仕事をしたくないけれど、特殊な計算のやり方はあの人しか知らないから」という理由で会社に留まれていた人も、これからは知識的なものはAIが浸透していきますので、人間性を磨かないと居場所がなくなってしまいます。その人間性の際たるものの一つが「機嫌」です。

経理社員の機嫌の維持のためにも積極的なソフトウェアの導入を

社長や現場からも、「機嫌の悪い経理社員には話しかけづらい」という声はよく聞きます。経理部長からも「機嫌の悪い経理社員はマネジメントが結構大変です」という声もよく聞きます。ただ、裏を返せば「機嫌の良い経理社員は一緒に働きたい、大歓迎」ということです。
経理業務には催促や督促、ミスの指摘など、お互いが不機嫌になることが多い仕事だからこそ、経理社員の中には「不機嫌になるのは仕方がない」と思っている人もいることでしょう。ただ、「経理だから不機嫌になるのは仕方がない」と割り切らずに、経理社員が上機嫌でいられるためにはどのような職場環境に整えるべきかを考えることも大切です。ソフトウェアを導入して経理社員の心身の負担を軽くし、機嫌を整える余裕を持てる職場作りもその一つの方法ではないかと思います。

この記事の執筆者
前田 康二郎
前田 康二郎(まえだ こうじろう)

流創株式会社代表取締役
エイベックスなど数社で管理業務全般に従事し、サニーサイドアップでは経理部長として株式上場を達成。その後中国・深センでの駐在業務の後、独立。現在は利益改善、コンプライアンス改善、社風改善の社員研修、コンサルティング、講演、執筆活動などを行っている。著書に『メンターになる人、老害になる人。』(クロスメディア・パブリッシング)、『社長になる人のための経理とお金のキホン』(日経BP 日本経済新聞出版)、他多数。